リンカーン・ライム シリーズでお馴染みのJ・ディーヴァーによる初の歴史サスペンス。
どんでん返し職人の異名をとるディーヴァーならではの、二転三転するストーリー展開はライムシリーズと共通で楽しめた。
1936年、オリンピック開催に沸くベルリン。アメリカ選手団に混じって、ナチス高官暗殺の使命を帯びた一
...続きを読む人の殺し屋がニューヨークから潜入するが、現地工作員と落ち合う際に誤って人を殺し、警察に追われる身となる。暗殺を果たし、無事に国外逃亡できるか・・・。
ライムシリーズとの差異が、本書を読む上で楽しめた一因でもある。リンカーン・ライムは四肢麻痺で車椅子に頼らないとどこにも移動できない文字通りの安楽椅子探偵だが、本書の主人公シューマンは五体満足、しかも知恵(危機を予知・回避する能力)はライムに匹敵するほどだ。ある意味スーパーマン的な面も感じさせるのだが、そこはディーヴァー、ちゃんと人間的な弱さも描き込んでいて、とても魅力的な主人公に仕立てている。
暗殺に向かって行動するシューマンと、それを追う警察官(コール)の視点から物語は語られているが、追う者と追われる者・・・このあたりはF・フォーサイスの「ジャッカルの日」を想起させるようなハラハラ感満点の描写。ヒトラーやゲーリング、ゲッペルス等、当時のドイツ政府首脳も登場するのだが、政権内部でのそれぞれの思惑なども書き込まれていて面白く読めた。ユダヤ人に対する弾圧なども描かれており、第二次大戦前夜のドイツの世相をよく現している。また、当時の陸上のスーパースター、ジェシー・オーエンスなども登場して洒脱な会話を披露している。
本書を書くにあたり、作者ディーヴァーは2年の準備を要したというが、さすがに楽しめる作品だ。