獅子文六のレビュー一覧
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650ページ、一気に読ませる。
獅子文六のいわば私小説。もとは「主婦の友」に、1953年1月号から56年5月号まで連載。61年にはNHK朝の連続ドラマの第一作になった。
獅子文六、留学先のパリでマリー・ショウミイと恋に落ち、妊娠した彼女を伴い帰国。生まれた女児は巴絵と名づけられた。しかし巴絵が7歳の時に、マリーが病死。文六は男手ひとつで巴絵を育てなければならなくなる。小説は、1925年の巴絵の誕生に始まり、51年の巴絵の結婚で終わる。戦前・戦中・戦後という時代の移り変わりもそこに描かれている。
読みどころは父子家庭の大変さ。とくに印象的だったのは、麻里が小学校の寄宿舎で重い肺炎になってしまう場 -
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1960年1月~9月、「週刊新潮」に連載され、10月に単行本化。翌年4月には、「特急にっぽん」として映画化された。このテンポの速さは、小説中のテンポそのままだ。
東京‐大阪間を特急で7時間半。その車中で展開されるドタバタ劇&ラブコメディ。さほどの緊張があるわけでもなく、安心して楽しみながら読み進められる。とはいえ、いま読む理由は、昭和30年代初頭の雰囲気を味わいたいからだが。
導入部がいかにも獅子文六らしい。午前8時45分、空は晴れている。高輪の泉岳寺に近い電車道(都電が走っていたのだ)を、妙齢の女性7人の集団が大阪弁でしゃべくりながら、職場に向かう。「全国食堂品川営業所」の看板を通り過ぎた瞬 -
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読売新聞の連載時(1962-63 年)のタイトルは『可否道』。ところが文庫版から『コーヒーと恋愛』という凡庸なタイトルに変更された。映画化もされたが、こちらのタイトルは『「可否道」よりなんじゃもんじゃ』。なにがなんだかわかんない。
主人公は坂井モエ子、43歳。新劇の役者とテレビタレント、二足のわらじをはいている。恋愛も二股。こっちにするかあっちにするか、『可否道』は絶妙なネイミングだと思うのだが。
構成がしっかりしている。モエ子をとりまくコーヒー愛好家(日本可否会)の4人の男たちも個性的でおもしろい。その描き分け、役割分担もよくできている。会話も自然で巧み、しかもしゃれている。さすが劇作家、獅 -
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フランス人の妻に先立たれ、六歳の娘と二人きりで残された著者が、大人になった娘を羽田からフランスへと飛び立つのを見送るまで。
自伝的小説である。
固有名詞などは変えてあるが、そこに描かれた心情は紛れもない真実であろう。
主婦に先立たれ、仕事も駆け出しで収入も乏しく、育児と不慣れな家事、しかも子供は病気ばかりする。
ーー仕事に没入できず、神経衰弱になりかかった。父親は事業を愛すると共に、子供を愛したい。どっちが大切というのではない。別のところから出る愛であるーー
今、片親で子供を育てている人にとっての厳しい現実と変わらないだろう。
著者は、極論で「娘のため」に再婚を決意する。
家事の負担は減った -
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1962年(昭和32年)の読売新聞で連載された、ドタバタ恋愛喜劇。
内容が「主婦向けのお茶の間ライトノベル」という感じで、すっごくおもしろかった!
筆者の獅子文六は、もともと新劇の作家だったが、昭和10年頃から映画とかドラマの原作小説家として人気を得た。でも内容があまりにも大衆的すぎるから、文学界隈では長らく評価されなかった感じがある。ようやく2010年代に入り、筑摩文庫が復刊キャンペーンで続々と刊行して、リバイバルヒットした。
筑摩の帯文がいちいち素晴らしいのだ。
この『コーヒーと恋愛』の帯文は、「こんなに面白い小説が何十年間も読めなかったなんて信じられない」だ。読後、この帯文に完全に同 -
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三年前に妻を亡くした“碌さん”の元に、再婚話が持ち上がった。
碌さんの姉が勧めるお見合いのお相手日下部カオルさんは、お金持ちで頭が良くて美人だけれど意地悪そうで、10歳になる碌さんの娘“悦ちゃん”を可愛がってくれそうにない様子。
ちょっぴり口の悪いおませなお転婆娘悦ちゃんは、デパートの水着売り場の優しいお姉さん鏡子さんを大好きになってしまい、彼女を碌さんのお嫁さん、すなわち悦ちゃんのママになってもらおうと大奮闘します。
この作品は昭和11年に報知新聞に連載された新聞小説で、耳慣れない言葉や仮名遣いもあるけれどさほど古臭さを感じさせず、当時の雰囲気が魅力的に伝わってきて、とても楽しく読むことが -
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恐怖からの自由
戦前と戦後社会の連続性について、この作品は描いている。この指摘や示唆は丸谷才一「笹まくら」が最も成功していると感じているけれど、「てんやわんや」で書き込まれているのは庶民感覚により近く、山口瞳が「卑怯者の弁」で絶唱に近い声で、戦争も殺し合いも絶対に拒否したいといったものと近似値である。いろんな自由が戦後憲法に書き込まれているが、恐怖からの自由がないのだという指摘は切実である。主人公は立派な人間ではなく、うまく立ち回ることを常に考えている小市民であるのでユーモアとシニカルが入り混じり、日本社会のシステムに翻弄される。巻き込まれタイプの典型であるので、志も決意も常にグラグラと揺れてしまう。あとがき
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1963年に刊行された昭和の小説です。
主人公は、テレビタレントのモエ子さん。
ドラマの母親役やオバサン役で人気の女優です。
八つ年下の夫、ベンちゃんは、劇団の舞台装置家。
劇団の若い研究生アンナとベンちゃんの仲を疑って、モエ子さんはヤキモキしています。
モエ子さんはコーヒーを淹れる名手でもあり、コーヒーの同好会「可否会」の会員です。
「可否会」の会員は、モエ子さんの他に、真のコーヒー通の会長、洋画家、大学教授、落語家がいて、全部で5名。
この登場人物たちの滑稽なやりとりや、コーヒーについての多彩な会話やうん蓄が面白くて、楽しく読めました。
とにかくコーヒーの話がたくさん出てくるので、カフェで