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Posted by ブクログ
なんてオシャレなんだろう。第一印象はそれだった。
文体というか、当時の言葉づかいというか、粋でもなくモダンというわけではないが、なにやら遠い記憶の、さらに向うのほう、幼いころの憧れていた雰囲気がそこにある。当時の世相、庶民の生活が垣間見れて面白い。
物語の舞台は昭和30年代。昭和が元気で賑やかだった頃。
台湾華僑の家族を中心に、バナナの輸入とシャンソンの話題を軸に、お茶の間ドラマ的なドタバタ喜劇がテンポよく繰り広げられる。お話として罪もなく、大事件もなにも起こらないが、遠く過ぎ去った50年前の庶民の暮しが目の前に甦る感覚が心地よい。言葉づかいや、ファッション、世相なんてものも、資料で見るより生々しく眼前に浮かび上がるようで実に面白い。例えば、主人公の見た目は、こうだ。
「近頃の若い者には珍しく、頭を坊主刈りにしているが、黒と赤のV字襟の白いスエーターを着ているところは、皇太子さんや、石原裕次郎と同様である。」
言葉づかいは女性のほうに顕著だ。
「まア、いけないわ、あんな奴と、ランデ・ヴウなさったりしちゃ・・・」
小津映画の原節子が喋っていそうな感じだが、そういえば当時、東京、横浜にいた親戚のオバさん達は、そんな喋り方をしていたような気もする。
大学生の龍馬は車が欲しくて資金が必要。ガールフレンド、サキ子はシャンソン歌手としてデビューしたい。台湾華僑の親戚がバナナの輸入ライセンスを持っていて、そこに青果仲買人のサキ子の父の思惑がからみ、結末に向けて登場人物の誰しもが思わぬ形で関わってくる様が、ある意味コント的でもあるけども、喜劇を見るようで、なんとも平和なのであった。
登場人物としては、サキ子が面白い。考え方が当時としては先進的だったのだろう。
「良人と妻が、対等の経済力を持つことで、新しい夫婦生活が成立するんだわ。だから、あたし、龍馬さんと一緒に、バナナ輸入を始めて、もう、ずいぶん儲けましたの。後、何年かすると、龍馬さんが輸入会社の社長になって、あたしが専務になる見通しも、立っているの。そうなったら、すばらしい夫婦が、できあがるじゃないの。その時に、あたしは龍馬さんにプロポーズしようと、考えていたんですわ・・・」
当時のウーマン・リヴの流行もあったか、巡り巡って半世紀経った今、女性の地位向上にかまびすしい世相に符合する不思議さがある。台湾の大商人の血を曳くという龍馬より、よほどソロバン勘定もしっかりしていて商魂逞しいところも面白いのだった。
そして、最後、物語を締めくくるのは、意外や龍馬の父親呉天童。ずっとダメ親父、食道楽として描かれ昼行燈然として、物語の大半を過ごすが、一家の長、一族の代表として泰然と処するところが、いかにも昭和なのかもしれない。
龍馬にサキ子、サキ子の父貞造、天童の嫁紀伊子、シャンソン周りの芸能関係者にバナナ商人たちがあれこれ右往左往はするが、実は大石内蔵助的な呉天童の物語だったのかもしれないというドッシリとした作品だった。
獅子文六、復刻文庫で続けて読んでみよう。
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