井上寿一のレビュー一覧
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戦前の政友会・民政党の2大政党制はなぜ崩壊したのか。そして、現在の日本の政党政治はどうあるべきか。歴史に教訓を求めるべきとの本書の主張は、副題に「戦前の二大政党制に何を学ぶか」にある通り。複雑な昭和戦前期の政治経済、そして外交情勢を念頭に置きながら、政党がどのような方向性を模索したのかをリアルに想像していくのは案外と難しい。2大政党のみが政治主体ではなく、官僚や軍部などの非政党の政治主体も同時に動きつつ、政党との距離も近くなったり遠ざかったりするからである。
以前、自分も昭和恐慌期の本を書いたとき、民政党の安達謙造が政友会との協力内閣構想が挫折したエピソードから書き始めた。昭和恐慌という経済 -
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欧州を破壊した第一次世界大戦は世界に国際協調をもたらした。日本もその潮流の中で大正デモクラシーが開花する。好景気と大衆消費社会、政党政治の確立、皇太子の欧州訪問と立憲君主としての自覚、アメリカ、イギリスとの協調による軍縮。その一方で戦後の反動からくる不況、貧富の差の拡大、二大政党の腐敗など、影の面も出てくる。満州事変と国際連盟からの脱退を支持する国民世論は民意による政党政治家のアマチュア外交にプロの外交官が敗北したからとあるが、この辺の記述が少ないのでよくわからない。何故、国民は国際協調を諦め、満州事変を支持したのか。戦時体制が社会の平準化を進め、貧富の差を縮め女性の社会進出を促したが、資本主
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この人の本、俺は随分と読んでいるけど、相変わらず歴史を語る「定点」のようなものが見えにくい。
イデオロギーを前面に打ち出した歴史本はそれはそれでうっとおしいし、「客観性」を重視した歴史語りが大切であることを俺も理解しているつもりなんだけど、もうちょっと筆者の立場を出しても良いんじゃない、といつも思う。
取り上げる個々のエピソードや事象は割と面白い。ただ、それらが「全体」の中でどれほどの意味を持っているのかが分かりにくいんだよね。まあ、ある時代の歴史の「全体」というのも、実にフィクショナルな観念なんだけど。
以上、ここまで書いたことは、俺が今まで手に取ったこの人の他の本の多くにも感じられる -
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WWI開戦100周年にあたり、日本史教科書での扱いが小さい性もあるのか、あまり話題にならないが、後の日中戦争、太平戦争に至る道のりが整地されていったのがこのWWIの時期である。政党政治の興隆とその崩壊による軍部へ期待、その軍部にしてもWWIへの参戦と、観戦分析による総力戦の決意とそれ故の絶望、日本史、日本近代の曲がり角がこの時期になる。
本書は外交、軍事、政治、経済、社会、文化に分けてこの時代の分析を行っており、本書を通して読めば、WWIが山川日本史にあるような日本にあまり関係の無かったことという認識は亡くなるはずだ。日本で言えば大正は明治や昭和に比べ研究が少ないように思えるが、その後の今に続 -
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日本は二大政党制が機能する国なのか?
この疑問に答えるべく、戦前の政友会と民政党に焦点を当て、日本戦前史を振り返る。
二大政党制は、制作の優劣を競うシステムでは無くなってしまう。党利党略が激しくなる。相手の失点が自分の得点になる制度なのだ。
協力すべき時に協力しないことの代償は大きい。政友会は民政党に対向すべく、軍部や非政党勢力と手を結ぶ。そして政党は崩壊し、大政翼賛会が成立する。果たして戦争は回避し得なかった。
筆者は巻末に、民意の複雑な最適解を求めるために、二大政党制よりも連立政権の重要性を説く。しかし、民主、社民、国民新の連立政権は果たして機能したのか?離合集散を重ね、小党が大乱立した -
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戦前の2大政党制についてその誕生から終焉までを描いた新書。
民政党が成立した昭和初期から大政翼賛会が誕生しアジア太平洋戦争に敗戦するまでの期間について
政策と政争の両面から眺めることで、軍部や行政府、新官僚に比べると影が薄いこの時期の政党勢力がどのような原理で動いていたのかを明らかにする。
両党の社会政策の推移について政争やターゲットとする層の変化などを交えての分析や、政党機関紙を史料とした当時の議会勢力の世情の見方の記述は
戦間期の政治史の隠れがちな一面が明らかになっていて興味深い。
また政府と与党の乖離や野党内での主導権争いといった政党内でのミクロな動きが、国家運営にどのような影響を与えた -
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戦前の昭和時代(1926-1945)が語られています.政治家や軍人の視点ではなく,一国民の視点で語られています.これを読む限り,経済不況やそれに伴う格差拡大が,ある種の大衆民主主義等につながっているようですが,現在の日本社会で議論されている内容と極めて共通点が多いように思います.
それでも,何故,どのように日本があの大戦に巻き込まれていったのか・・・?読み終えてなお疑問が残ります.私の感想では,この当時の日本人もやはり我々と全く同じ血が流れているのです.これを読む限りでは,戦前の日本においてもアメリカに対する羨望が強かったようで,突如としてナチスドイツを信奉するようになった理由がよく分かりま -
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昭和100年となる2025年を区切りとして、過去100年を振り返る。正直なところ敗戦までの20年は今さらながらという気がして、あまり興味が持てず、読み流してしまった。一方、戦後80年の歴史は、私が、そして日本人が意識している以上に戦争の過去を引きずり続けていることを痛感し、納得する思いがした。52年の講和・独立、60年安保も、64年五輪も、70年万博、72年の日中国交回復も。昭和天皇の退位問題については、52年の講和条約の時点で「おことば」を語り、退位する可能性があったが、その見送りになったとの背景は全く知らなかった!
60年安保に際して同志社大学2年だった保阪正康は「社会主義革命を目指して -
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<目次>
第1章 平和のなかの戦争の予兆 1926~1929
第2章 非常時小康 1930~1936
第3章 戦争をめぐる理想と現実 1937~1940
第4章 戦争と平和の間 1941~1944
第5章 国際冷戦と国内冷戦 1945~1952
第6章 高度経済成長下の戦争 1953~1970
第7章 ヴァーチャルな戦争 1971~1989
第8章 終らない戦争 1990~2025
<内容>
著者の歴史叙述は、事実だけを述べるのではなく、あとがきで言うところの「群像劇」である。小説や雑誌記事や伝記での発言などを積み重ねて歴史を見ていく手法だ。そこから単なる事実からは見えてこ