井上寿一のレビュー一覧
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日本における第一次世界大戦の影響を整理する一冊。
日本は欧州でほとんど戦火を交えていないが、本書を読むと様々な点で影響が大きかったことが分かる。
特に、外交官たちが国際連盟たちが平和外交のため国際連盟を舞台に奔走・貢献し、やがて国際的に評価を得ていった点は知らなかったことなので驚き、誇り高いことだと思った。一方で、後々日本が満州事変を起こし国際連盟脱退に行きつく未来を思うと暗澹たる思いも抱いた。ただし本書あとがきでは、国際連盟脱退後も外交努力や国際協調の一時的復元があったことにも触れられているが。
戦争として勉強していると、どうしても戦場のことが中心になってしまうが、民本主義の台頭や新外 -
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「昭和史」というような題名の本は、何やら難しそうと手に取らないという人も少なくないかもしれない。が、本書はそういうように敬遠する必然性は全く無い。普通の小説やエッセイのような感覚でドンドン読み進められる。そうした意味で素晴らしい一冊だ。
2025年が「昭和100年」で「戦後80年」ということを踏まえて、「この100年?」というようなことを想い、考える材料を提供しようというのが本書だ。
「昭和」と一口に言っても、「昭和XX年」と明確に言い得る期間だけでも1920年代から1980年代までの60年間余りに及び、色々な要素が在る。加えて、「昭和XX年」の出来事や、「昭和」の或る時期の動きが極々最近迄の -
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太平洋戦争についての考察。
やはり経済問題だろうね。
◾️戦争の理由
第一 日本銀行支給券による公債乱発
第二 軍部の責任
第三 人口過剰と資源不足を補う目的
第四 資本主義の本来の性格
第五 経済新体制運動
◾️統帥権の独立
→明治憲法「運用」の不手際
→問題発覚は昭和の初期であるため論拠とする
◾️渡辺い蔵の反論
1930年代のブロック経済そのものが疑わしい
日本は異質を拡大していた。世界各国への輸出額が堅調であった。よって、孤立化を余儀なくされたわけではない。
◾️領土拡大も不要であった
・満州への移民が少ないこと
・内国の開拓が未完であること
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1930年代を戦争による好景気の時代、庶民が生活の向上を希望できた時代、多くの国民が積極的に戦争を支持した時代として描写する。そのうえで、前線と銃後の社会的ギャップがあったことを指摘する。
本書の斬新な点は、帰還して銃後の社会に幻滅した兵士の視点に感情移入できるように構成されていることである。確かに帰還兵の心境が代表的な戦争支持の基盤であったことだろう。しかし反対に、銃後社会に感情移入したとき前線や帰還兵に対する印象はどうだったんだろうと思ったり。
都市と農村で銃後の緊張感が違うと感じる理由は何だろうと思うとき、顕然化された貧富の差のというよりも消費社会の発展度合いが大きいのだろうなと思う。 -
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ネタバレ今、社会にこの10~30年にはなかった焦りの伴う「熱狂」のようなものがある気がしていた。
いろいろなマスコミ、論調の中で、例えば「戦後最大の転換期」や「右翼、国粋主義の高まり」、「(膨張する中国やその他韓国、ASEANなどの成長中の国々と比べ)相対的プレゼンスが低くなってゆく日本とその焦り」など、今の時代を形容しようとするコメントやフレーズはいろいろあったと思う。ただメディア規制法や集団的自衛権の解釈改憲・安保法案などの、昨今の政治的改革を見ていると、メディアを含め多数の国民の側に急に変わることの戸惑いと焦りがあるようにも感じていた。日本全体的には、2012年の衆院選だけでなく2013年の参院 -
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本書は主に戦前昭和の社会史を扱っている。特に、3つの視点「アメリカ化」・「格差社会」・「大衆民主主義」から戦前昭和から戦後への連関に新たな評価を与えた。
というのも、本書で紹介された戦前昭和の3つの視点は現在の我々にも通じる問題でもある。これら現代的な問題は戦後昭和からの一連の流れの延長線上の問題と解釈できる。
では戦後昭和(例えば親米保守など)はどこに起源があるかというと、井上氏は戦前昭和に求めているのだ。
つまり、戦前昭和と戦後昭和の連続面を本書で示した。従来は断絶面のみが注目されてきた訳だが、戦前との連続面を改めて見直すことで、現代的な課題を克服する鍵があるのではないか。
以上が研 -
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政治史というよりは政党政治史と言った方が近い。「憲政の常道」における二大政党制と、5.15後における両党の模索を描く。
戦前の政党政治下でも多くの政策が実行された。日華関税協定による日華関係改善、ロンドン海軍軍縮条約の調印など。しかし、国内世論あるいは党利党略により憲政の常道=ワシントン体制から「逸脱」したのもまた政党であった。
膠着局面で天皇の威光に頼り、時には陸軍の主張に同調した。満州事変、5.15、2.26、国家総動員法、大政翼賛会への統合と、自滅していく。
普選後は政党が政治のアクターとして登場するため、政策決定における非合理的な部分—統帥権干犯問題や天皇期機関説/国体明徴声明事件—が -
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本書は、第一次世界大戦前後から1930年代までの日本を、外交・軍事・政治・経済・社会・文化の6つの視角から描写。当時の日本の再現を試みている。
最初はちょっと文章のリズムに馴染めない部分もあったが、まずは国際協調の時代としての第一次大戦後の世界が外交という大枠から描写され、次に軍事、政治とそれが規定する国内状況へと筆が進められていくうちに、100年前の日本の姿が見事に浮かび上がってくる。
経済の状況も「成金」という普通、あまり経済史家が正面から取り上げない事象や人物に多くページが割かれ、ユニークな叙述となっている(経済の章は成金論と高橋是清の話でほぼすべて)。「社会」「文化」の項目において