山白朝子のレビュー一覧
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シリーズ第2作『私のサイクロプス』を先に読んでしまったので、本作(第1作)に遡って読んだ。基本的には耳彦と和泉蠟庵の道中記で、第2作のメインメンバーである輪が一話のみ登場する。
人情味、ユーモア、ホラーのバランスが素晴らしい。
弱者に対して、ほのかな、あたたかい情愛が積み重なっていく過程を描くのがうまいと思う。
耳彦と和泉蠟庵の掛け合いも息がぴったりで、クスッと笑える。
人の交わりの温もりを描く一方で、肉親を犠牲にしてでも生き伸びようとする人の本能も炙り出す。美しさと醜さが同居して、双方を引き立てている。
「正しい文章」というのとは少し異なり、時々ねじれを感じるが、繊細な感情を汲み取って、はっとするような表現を生み出している。
<好きな話>
輪が主役の「ラピスラズリ幻想」が白眉で、あまりに切ない彼女の決心に号泣してしまった。
「「さあ、行こう」と少年が言った」では、少年時代の和泉蠟庵が登場する。家族に虐待される女を救う蠟庵少年は、まさに天使か救世主のよう。黄金に輝くススキの野の風景が、いつまでも頭から離れない。第2作ではいまいち影が薄い彼だが、この一篇を読んで大好きになってしまった。
<苦手な話>
「地獄」は、縦穴の閉塞感や腐臭があまりにもリアルで、夢に出そうで怖かった。結末がまさにタイトルどおりで、再読はしたくない。
「〆」は好きな話だが、家も食材もあらゆるものが人間の顔に見える地獄は、想像しただけで気が狂いそうだ。
本作が素晴らしかった分、第2作があれ程つまらなく感じたのが不思議だ。かと言って、もう一度第2作を読もうとも思わない。第3作の刊行に期待したい。 -
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主人公の和泉蠟庵の設定が、方向音痴、わりと空気読(ま)めない、体力は鬼、しかしながら小柄、最終的に禿を気にし始めた時点でもう脳内配役が確定いたしました(……。)
そして長髪などという全くありがたい設定です。
大変けしからん。
耳彦は山田孝之さんが似合いそう。
濱田岳も合いそうだけれど蠟庵とバランス取れなさそう。
とはいっても実写じゃなくアニメ向きの話ではある。
ライトといえばライトか。
「ラピスラズリ幻想」の構成が好き。
しかし、繰り返すことはどちらかというと呪いに近いものも感じる。
それが故の結末なのだろうと思う。
何かを満たせば何かが満たされない。苦しい。
「〆」はなんとも言えず後味が悪い。
弱肉強食というか、諸行無常というか。
このあとの櫛〜じゃないけど羅生門的な切なさがある。
その世界で普通(と思われる)ことと、自分の中での普通とがブレたときに人はどう行動するのか。
「地獄」は全く違った意味で無力。
人も鬼もあまり変わらないのかもしれない。
「〆」の中でかたくなに守り何かを喪ったというのに、その信念は「地獄」の中ではいとも簡単に崩れさる。
しかし描写がなかなかである。
怖いというよりは気持ち悪いの方が近い。
「櫛を拾ってはならぬ」が一番いい感じにゾワゾワした。
怪談とはこういう物だ!というワクワク感もあり。
長い髪の毛はなんでかわからないけど怖いものの一つ。
髪の毛は抜けた途端に唯の髪の毛になってしまって、怖く感じる。
「「さぁ、行こう」と少年が言った」
これも設定がいい。「ラピスラズリ幻想」に通じる何か。
希望と切なさが交じる。
和泉蠟庵のまだわからない部分がわかる話の一つでもある。蠟庵少年がいい。
他にも何編かあるけれど、特にこれらが好きだった。
続編も読みたいけど文庫化はまだ先の様なので気長に待ちたい。 -
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すばらしいです。旅本作家の和泉蠟庵と荷物持ちの耳彦の二人組が旅先で奇怪な出来事に出会う連作怪異譚。上品で無駄のない筆致でつづられる奇怪で美しい怪異譚は、人が生きる上で生じる様々な暗い感情を悲しく切なく浮かび上がらせる。でも決して暗すぎることはない。マイペースな和泉蠟庵の迷い癖はすでに呪いのようなもので、また、それに付き合う耳彦はお世辞にも立派な人間とは言えず常に弱さをさらけ出している。この二人のとぼけた性格とやり取りが、和やかで優しい余韻を残してくれる。また、二人の存在が怪異譚を閉じずに常に未来に開いてくれている。
九編ともほんとうに見事な出来で、怖さの質もみな異なり、予想つかない展開もあり、面白いです。以下、一言感想。
『エムブリヲ奇譚』拾った胎児との生活。圧倒的に怪しく切ない。一編目からぞわぞわして、がつんときた。
『ラピスラズリ幻想』特に好み。人生を繰り返す呪い。ある意味でもっとも怖い。唯一閉じた結末か。
『湯煙事変』ちょっとほろりとする切ない話。
『〆』米粒まであらゆるものに人の顔が見出せる漁村で、食べ物を受け付けなくなった耳彦の取った行動は。いやな話。
『あるはずのない橋』またまた耳彦の精神と人間性が試されてしまうのか。
『顔無し峠』耳彦は、今度は幸せな選択を迫られる。暖かくも切ない。
『地獄』恐い。理不尽で残酷な恐さ。さらなる極限状況に置かれた耳彦の戦い。もっとも恐ろしいもの、人間。
『櫛を拾ってはならぬ』特に心霊的で怪談色の強い作品で好み。落ちの異常さも怖い。
『「さあ、行こう」と少年が言った』最後をこの作品で締めてくれてよかった。いい話です。和泉蠟庵のことがもっと好きになる。 -
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ネタバレ4.5
粒ぞろいだけど、大傑作とまでは感じなかった。でも面白かった。
「小説家」シリーズとも言うべきか。山白朝子名義の乙一による小説家を主人公(または聞き手・話し手)とした短編集。
「前書き」
もっともらしく嘯いているのが面白い。ベストセラーになったのは近畿地方のだろうなとうかがえる。
「終焉を告げる小説家」
終わりまでの【深さ】が見える小説家の話。
前フリとして親子ほども年の離れた年の差や、帰ったらやけ酒を飲もうとしていたことがよく機能していた。
聞き手の小説家の中には終わりの見えない何かがあるというのが語られて終わるのがすごく良かった。小説家賛歌、創作賛歌で締めくくられてるのが心憎い。
「小説講師の憂鬱」
雑誌掲載時に読んだことがある。再読。
自殺志願者を前にして聞き手の小説家が淡々としていのがどうにも乙一らしいユーモラス。
G先生が自殺したら講師の枠が一人空くじゃん!でも話を聞いてみると自分には向かないな……と計算する人間味こそが乙一だなあと感じた。
講師と教え子の愛、小説家と彼女の愛。愛に対する献身の話から、創作のために小説家は何を犠牲にしなければいけないかの話で面白かった。
「シンクロニシティ」
これも雑誌掲載時に読んだ。再読。
名づけの恐怖。
名づけというのは、相手を縛るための意味合いで使われるのを見てきたので、名が被ることで運命も交差しシンクロする、というのが面白い。星座占いみたいだなと感じた。
死んだ息子の父親は息子と同じ名前の少年の死を描いた小説家に、いわば呪いの手紙を送ったわけで、その呪いが成就したのに亡くなった妻は成仏しない。つまり人を呪わば穴二つで、この父親も呪われた状態。
事の起こりの小説家による息子の死は過失的なものだったが、話し手の小説家(父親)はその効力を知ったうえで行っていて、より罪深い。
話し手の小説家(父親)は問題の小説家を呪う怪文書ではなく、自分達が幸せな結末になれるような文章を書くべきだったんじゃないかなと思う。
そうはせず、呪いをかけてしまったから、彼は賽の河原積みのように書かされ続ける地獄を味わうラストになったんだと思う。
「青軸卿」
キーボードに詳しくないので、乙一らしい嘘が混じっていそうだが見抜けなかった。でもキーボード談義は面白かった。
最後のオチはボーンチャンイナの前フリがあったので面白かったが、青軸卿は自身の骨を使ってキーボードを作らせた、という蓋然性はよくわからなかった。青軸卿はキーボードを打つ感覚に陶酔している人間で、キーボードになりたいようには思えなかった。
死後もキーボードが打たれる音を聴いていたいから自分がキーボードそのものになるという望みを果たそうとした、という解釈で良いのだろうか。
「スコッパーの女」
表題作。
文章を読むとその書き手の人間性がわかる女の話。
作品ごとのイメージではなく、書いている人間についての内面世界を読み取れる、というのが面白い。
そして最終的に醜悪な世界観を持つ小説家は聞き手である自分だったのでは、というオチ。
聞き手の小説家の人間性について作中なにも描写されていない分、その透明性が面白かった。
編集者が地理に疎いという前フリもこう機能するのか~で面白かった。こういう何気なさが好き。 -
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ネタバレスランプに陥ったとある小説家が、出版関係者から聞いたエピソードを小説風にして綴った、という前置きではじまる短編集。
収録されているのは「終焉を告げる小説家」「小説講師の憂鬱」「シンクロニシティ」「青軸卿」「スコッパーの女」の五篇で、そのいずれも現実と虚構の絶妙なあいだがとられている。
すべてに驚きの結末と後味の悪さがあって最高。ここ最近の山白朝子もとい乙一作品のなかでも抜群に大好きな作風だった。というか、ここ最近で読んだあらゆるホラー作品のなかでも一番といっても過言ではない。
ところで、私は読み始める前に巻末の初出情報や奥付を確認するくせがある。
今回もそれらを確認しようとしたとき、見開きのページに絶対読むまえに目にしちゃいけない究極のネタバレの一文を読んでしまいました。
やらかしました。みなさんもお気をつけを。ちなみにわかったうえで読んでも、それはそれで別の種類の楽しみ方ができたよ。 -
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久しぶりの乙一作品。
乙一名義の作品の方が好みだったが、山白朝子名義の作品も独特な世界観がありおもしかった。
「階段」は、舞台はすごく狭いが身近な題材で、良くないことになるとはわかっていだが、どうなるのか気になりながら読み進められた。
「Wi-Fi幽霊」は、表紙のかわいらしい感じとは違い、1番怖く感じた。AIに相談するくだりは今時な感じ。キャンプ場でよく分からないWi-Fiに接続してしまってから、色んな怪現象に見舞われていく。撮った覚えがない画像が保存されているのが、現実に起きたら地味に1番気持ちが悪い。
風景や状況描写がうまいのか、その場の空気感や風景が容易に想像ができ、するする読めた。 -
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ネタバレ文章を読むと作家の内面を体感できる共感覚を持つ女が、おぞましい内面世界を持つ作家Ωを見つける表題作をはじめ、小説家にまつわる奇妙で不気味なエピソードを描いた、戦慄の短編集。
この本を読み終えた私の手に残ったのは、血の通った人間の感情や狂気が描かれているはずなのに、どこか人工的で温度を持たない不気味さを見事に捉えた感覚である。
ホラーの定番といえば、怪異のもとをたどっていった人間が行方不明になったり命を落としたりするものの、怪異の正体はわからず、正体を探ろうとした人間も巻き添えになって怪異が伝播していくという展開だ。しかし、表題作「スコッパーの女」は、その王道を見事に裏切る。怪異の正体を探ろうとしていた主人公自身が、実は最もおぞましい内面を持つ「怪異そのもの」だったのだ。
この結末が私に与えたのは、得体の知れない化物に襲われるよりもずっと深く、静かな恐怖だった。共感覚を持つ人間にしか害をなさないかもしれないという限定的な条件。そして何より、自身が他者を破壊してしまうほどの脅威であることに「全くの無自覚」であるという底知れなさ。もしかしたら生涯無害な存在であるかもしれないし、それどころか今回図らずも犠牲を出したことに気を病み続けるかもしれない。
「無自覚なまま、自分が取り返しのつかないような加害性を秘めているかもしれないというとてつもない恐怖」——誰もが心の奥底に抱えうる根源的な怯えと共鳴している。悪意がないからこそ防ぐこともできず、ただそこに在るだけの脅威。
また、本作の魅力は恐怖だけにとどまらない。物事の終焉までの距離を【深さ】として観測できるL先生が登場する「終焉を告げる小説家」は、これだけでL先生を主人公としたシリーズものが作れそうなほど興味深い設定だった。そして「小説講師の憂鬱」を含め、全編が荒唐無稽な設定でありながらも、「現実世界のどこかにこんなことが起きていそう」と思わせる都市伝説のような面白さがある。