あらすじ
北海道・札幌。えぞ新聞の記者、八鍬士(やくわ まもる)は、
旭川への異動を前に不可解な殺人事件の調査をすることに。
それは14歳の少女が、祖父を毒蛇マムシを使って殺した事件。
毒蛇は凶器になるのか、八鍬は疑い、博識なお嬢様、九条櫻子 に協力を求める。
その他、自分探し中の鴻上百合子(こうがみゆりこ)の成長や、
理想の庭を追い求める磯崎(いそざき)と薔子(しょうこ)が、
稀代の「魔女」を名乗るハーバリストの変死に巻き込まれる一件など、
櫻子の仲間たちが経験する「その後の物語」!
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Posted by ブクログ
アクリシオスとまだらの紐
このやや非現実な犯罪者の心理、ああこれが櫻子さんシリーズの特徴だったなぁと思い出す。マムシを凶器に使うことは現実的でない、ならば事故若しくは自殺、では何故少女Aは殺人と主張するのか?それこそが今回の一番の謎。全ては帰らないため。動物は本能で動く、それは人間も変わらない。不可解な行動があれば、その根底にあるのは「生きること」なのだ。覚えておこう。
石油王と本物のシードケーキ
残された者のエピソード。前に進んでいく阿世知や館脇と比べまだ過去を引きずっている鴻上。でも他の二人が前に進んでいるわけではなく、環境が変わったからそう思える部分も多いのかなと思う。シリーズでの鴻上はどこか達観したというか、館脇より大人な考え方のイメージがあった。でもそれは慎重で臆病だったから自分の気持ちを見せない言動しかできなかっただけだったのか。シリーズ初期で触れられたおばあちゃんのエピソードが漸く回収され、鴻上は遂に自分から動き出した。一体どうなるかわからないけれど、鴻上にとって大きな一歩だ。
ラ・ヴォワザン夫人殺人事件
過去に拘る魔女に振り回される女の話。情と憎悪は両立する、か。人間の心は不思議なもんだなぁと思う。憎いけど離れがたい。離れがたいけど憎い。その気持ちを伝えても、それでも魔女は自分の魔女としての生き方のことしか考えない。つくづく娘を愛していなかったんだなぁと可哀想に思えてくる。
これで櫻子さんのシリーズも終了。久しぶりにこのシリーズに触れたけど、この独特の人間模様が癖になる。そんなわけあるかと思う気持ちと、いやあるかもしれないって気持ちとがぐちゃぐちゃになるような人間描写。きっと現実にもあるんだろう。でも、ここまで言語化できる人がそうはいないんだろう。皆どこかおかしいんだ。でもおかしくないって思いながら生きてるんだ。だからこんな風な気持ちになるんだろう。僕はこのシリーズを読み続けて、決して骨がぶれることがない櫻子さんに驚いた。普通こういう変人の探偵は徐々に優しくなっていくものだ。でも櫻子さんはぶれない。「死」についての考えも、「生」についての考えも館脇とどれだけ接してもほぼ影響されない。それでも最初と最後で見方が変わるのは、櫻子さんのことを17+1冊を通して僕が詳しく知ることができたからなのだと思う。人の気持ちを高々数冊で理解することなどできないんだ。これだけの冊数を重ねて漸く人を理解することができる。人の心の奥底を見通すことが、人の骨を見ることがどれだけ大変か。僕はそれをこのシリーズで知った。このことは決して忘れたくない。
日常の中で
櫻子さんシリーズ、まだ出版して下さるとは夢にも思いませんでした。
櫻子さんが旅立ってから、それぞれのスタートを切ったみんなが、櫻子さんやヘクター、そして梅さんを懐古しながら日常の中でなにかと出会って、だけどそれは櫻子さんが繋げたものだったり。所々で櫻子さんが、櫻子さんらしい文で返信していることに安心を覚えたり。
小説の中の人々なのに、みんな元気そうで良かったなあなんて昔の友人のSNSを覗いたようなそんな気持ちになりました。
百合子ちゃんのおばあさまからのメッセージ、よかった。感動した。
最後に、いーちゃんもヘクターもみんなが九条家に集まったこと、きっと梅さんが笑ってるだろうなあ。喜んでいるだろうなあ。
このシリーズが大好き。
Posted by ブクログ
表示がないが、文庫書き下ろしか。
櫻子さんと正太郎がほとんど出てこない、脇役によるスピンオフ3短編。
「アクリシオスとまだらの紐」は、えぞ新聞の記者八鍬による”まむし”を使った祖父殺害事件の真相解明で、母親の恋人から逃れようとした娘が、祖父は事故死に遭遇したものだった。
「石油王と本物のシードケーキ」は事件ではなく、鴻上百合子が正太郎の永山のおばあちゃんに会ったことがきっかけで、亡くなった当麻の祖母が百合子の結婚の時のために絵の額に入れておいた手紙を発見する。そして東京にいる正太郎とデートの約束をする。
「ラ・ヴォワザン夫人殺人事件」は薔子さんが引き継いだ別荘竜胆庵の庭の手入れを磯崎先生に任せる。二人は近所に媚薬をうたったハーブを売るサロンがあることを知って出かけ、知り合いになるが、オーナーが死んで殺人事件かと疑われるが、あっさり真相にたどり着く。