あらすじ
草原の覇者チンギス・カンは、従来の騎馬隊に加えて、ボレウに歩兵部隊を、ナルスに工兵部隊を整備させていた。陰山の陽山寨を拠点に、騎馬隊と合流させ、まずは西夏の城郭へと軍を動かそうとする。ジャムカの息子マルガーシは、流れついたトクトアのもとで苛烈な修業を積み、次なる道へと動き出していた。ホラズム・シャー国の皇子、ジャラールッディーンは10歳で、護衛のテムル・メリクと共に旅に出る。予期せぬ邂逅が、二人を待ち受けていた。新たな幕開けの予感をもたらす第10巻。
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Posted by ブクログ
・チンギスは、ボレウやナルスといった新たな人材を登用し、戦の形を変え始めている。それは間違いなく大陸の大国・金国との戦を見据えたものだった。また、息子と兄弟に土地を与え統治する形を取り始めたが、軍の規模があまりに大きくなったことで、将軍達の心をどう掌握するかがリーダーとして問われると感じた。特にチンギスは心の内を部下に語るタイプでは無い。その場合、圧倒的なカリスマ性や実力・結果が伴わないと、すぐに部下に見限られると思う。チンギスはその強さを持つと描かれているが、もし今後部下の離反という展開があるなら、それはチンギスがカンとして足りない部分を見つめ直し、さらに強くなるきっかけになりそう。
・北方先生すごいのは、旧時代の主要人物を効果的に新時代に散りばめて描く能力だと思う。10巻はホルムズシャー国の登場があり、明らかに新章開幕の雰囲気。その中でも全く面白さが変わらないのは、前章の主要人物を切り捨てず新章に連れてきてくれているからだと思った。これは本当にすごい。
・メルキト族のアインガがついにチンギスの軍門に降りた。いよいよ草原はひとつになったという事だろう。
・タルグダイは相変わらずラシャーンと共に南で暮らしている。交易に力を入れ商人として暮らす様子が描かれており、今後交易に力を入れるモンゴル国との接点が描かれる予感。
・元ケレイト王国の将軍だったジャカガンボも、本格的に再登場の予感。流浪の末に、沙州ゆりゆうかんの元締め的な存在であるショウコウゴの要人、アサンと出会った。その彼の希望で、交易に力を入れるチンギスとの仲立ちを依頼されていた。チンギスが、友だったジャカガンボを殺さずに生かした事が、巡り巡って帰ってきそうだと思った。
・ジャムカの息子マルガーシの成長もかなり熱い。ジャムカと同じく黒貂の帽子をかぶる彼は、10巻から登場したホルムズシャー国のジャラールッディーンと出会い、ホルムズシャー国へ向かった。ホルムズシャー国はモンゴルの西のライバルになる気配があり、ここにジャムカとの戦いが継承されそう。ここでも北方先生がすごいのは、
ジャムカの息子であり継承者のマルガーシがホルムズシャー国と接点を持つ過程を、これでもかと丁寧に描く点にある。じっくり時をかけて他陣営に入ることで、違和感なく新たな相関図を受け入れられていると思う。
・10巻でいちばん良かったのは、ジャカガンボが語ったセリフ。彼はジランとジャムカについて話す時、「草原の男はみんな、彼が好きだったさ」と言った。胸を打たれた。このセリフは全読者の心の声でもあると思う。ジャムカを失った悲しみは、僕はまだ癒えてない。その中でのこのセリフはほんとに泣きそうになったし、読者の救済のセリフだと思った。