あらすじ
はっと、平蔵が舟の中へ身を伏せた。荒屋敷の潜門がしずかに開き浪人風の男があらわれ、あたりに眼をくばっている。(これほどのやつがいたのか……)平蔵の全身をするどい緊張がつらぬいた。──密偵・おまさの窮地を救うため、ひとり敵地にのりこんだ平蔵の凄絶な剣技を描く「血闘」、のちの展開に大きな役目を果たすことになる、盗賊・大滝の五郎蔵が初登場の「敵」ほか、「霧の七郎」「五年目の客」「密通」「あばたの新助」「おみね徳次郎」「夜鷹殺し」の全八篇。
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Posted by ブクログ
霧の七郎
人情話、になるのかな。一度は息子を狙おうとした人物すらも、許し息子の剣の師匠としてしまう。世のため人のために使うなら悪銭すらも見逃す。ここらへんの臨機応変さは時代やなぁと。
五年目の客
元売春婦お吉が過去の売春の発覚を恐れて殺してしまうって流れは今も昔も変わらんなぁと思う。音吉の方は何も気づいてないのに勝手に恐れて抱かれるところとかは何か皮肉めいたものを感じた。結局自分のことしか考えていない女ってことがありありとわかるというか。下手にお吉が引っ捕らえられるより、罪は不問にされたけど平蔵にぴしゃりと言われる方が爽快感があるのはどうしてだろう。
密通
やっぱり鬼平は人間関係にリアリティがある。人間関係だけは現代でもこんな事件が起こりそう、と思えてくる。自分の側近の妻を狙う社長、それに気づいた部下が側近の妻を連れて逃走したため、盗難事件をでっちあげて秘密裏に二人を始末しようとした、的な。
血闘
こういうドキドキハラハラがあってこその時代劇!さすがに平蔵が死ぬことはないとは思っていても緊張感がある、というより緊張感こめて読める自分の読解力が上がったということか。
あばたの新助
鬼平は時代劇故にこういう悲しい事件も起こる。人はあっさり死んじまうからねぇこの時代。まんまと美人局に引っ掛かった佐々木はずるずると悪の道へ、最後に何とか踏み留まるも死んでしまう。一線越えちまった奴の行く末は悲劇ってことかね。
おみね徳次郎
江戸の峰不二子みたいな奴が出てきたな。強かな女とでも言おうか。一回きりの登場なのが惜しいくらい。
敵
今風に言えばヤクザの抗争みたいなお話。五朗蔵が徐々に追い詰められていく様子が読んでいて手に汗握る。平蔵の出番は少ないけれど最後に美味しい所を持っていくから満足感がある。人物相関図がほしい!
夜鷹殺し
ザ・ハードボイルドみたいな話。おまさが殺されてしまうのではとヒヤヒヤした。孤独になった悲しみから、息子を奪った売女を殺害していく長兵衛。何か、切り裂きジャックみたいとか思ったり。
Posted by ブクログ
この巻では、様々な理由で犯罪に手を染めてしまう侍を見つめる平蔵のまなざしが印象的だった。
『あばたの新助』
平蔵の部下の一人が、女盗の色仕掛けに抗えず、盗賊の手助けをしてしまう。部下は、責任を取って女盗を捕え、自害しようとするが、盗賊達に殺されてしまう。火盗改メの一員が盗賊に手を貸すというのは前代未聞の御法度だが、平蔵は残されたも者達に配慮し、その部下を名誉の殉職として周りに伝える。
『夜鷹殺し』
実直でまじめな侍が、悲しみと絶望と憎悪によって異常殺人鬼に変貌してしまう。その姿をみた平蔵は、「人のこころの底には、なにが、ひそんでいるか、知れたものではない」と言い、「ひょんなことで、このおれだとて」とまで言う。そして、そのような殺人鬼に対しても、その最期まで武士としての誇りを守るチャンスを与える。
人間の弱さを認め、その死に様を無下にすることをしない鬼平の振る舞いに瞠目。