矢部嵩のレビュー一覧
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「魔女の子供はやってこない」 書評:言葉と構造で織り成す異次元の物語
矢部嵩の『魔女の子供はやってこない』は、読む者を深く引き込み、現実と虚構の境界を曖昧にする圧倒的な表現力と構造の妙が光る作品だ。物語を追うごとに、狂気と奇妙な美しさが交錯する世界観が広がり、読む者の感覚を揺さぶり続ける。
まずこの本の表現力は圧巻だ。文章に添えられた「ぼりぼりぼりぼり」というルビが、その場の壮絶さや不気味さを直感的に伝える。さらに、モンタージュ風の描写では文章に番号を振り、視点の断片化を鮮やかに再現している。極めつけは、家の1階と2階での声を文章の配置で表現した部分だ。この手法によって、文字そのものが物語の一部となり、視覚と空間を同時に描き出している。読む者はまるでその場にいるかのような臨場感を味わうことができる。
物語全体が放つ不気味さと不条理さも、忘れられないインパクトを与える。人の死を「いいハンバーグ」に例える描写や、登場人物たちが次々と倫理観を逸脱していく場面には、読者としての常識が根底から揺さぶられる。「しんでいいほどきらいなひといるかな」「誰も救われない」といった感情が自然と湧き上がり、同時にそれぞれの行動や欲望の裏にある切実な理由に心が引き寄せられる。狂気の中に潜む人間らしさに気づいたとき、この物語の異質さがさらに胸に刻み込まれる。
一方で、この作品の核心には「友情」と「成長」というテーマもある。主人公は異常な出来事を経験しながら、友人との関わりや喪失を通じて変化し、自分自身を見つめ直していく。「ぬりえちゃんをたいせつにしたい」と願う主人公の気持ちは、物語が単なる不気味さだけでは語れないことを象徴している。友情を通じて成長する主人公の姿が、作品全体に温かさと深みを与えている。
また、矢部嵩の文章表現は、他にはないユニークさを持っている。「人の死を食べ物で例える」「日常の出来事のように描写する」といった手法は、不気味さをただのグロテスクに留めず、詩的で読者を引き込む力を持つ。たとえば、人の皮膚の裂け目を「いいハンバーグ」と例える描写は、その不気味さと同時に、どこか日常的なリアリティを感じさせる。奇抜な表現と予測不能な展開が織り成す独特の世界観は、読み進めるごとに新たな驚きを提供する。
この本を手に取ったきっかけが、職場の先輩の紹介だったというのも印象的だ。日常からはみ出したような読書体験をプレゼントしてくれたその勧めには感謝したい。本書は、文章表現、構造、そして感情において極限を追求した作品だ。読む人を選ぶかもしれないが、それでもこの物語は言葉と構造の力を信じさせてくれる。『魔女の子供はやってこない』は、倫理観や感性に挑戦しつつ、人生の循環や人間らしい感情を見つめ直させる、不思議で壮絶な読書体験を提供してくれる一冊である。
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Posted by ブクログ
ネタバレ卒業式会場に向かっていた中三の羊歯子は、気づくと暗い部屋で目覚めた。部屋は四角く石造りだった。部屋には2枚ドアがあり、内一方には張り紙がしてあった。
"卒業生各位 下記の通り卒業試験を実施する。ドアの開けられた部屋の数をnとし、死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。時間は無制限とする"
無限に囚われた少女たちの話。以前ハヤカワ文庫さんが行っていた、「ハヤカワ文庫の百合SFフェア」の対象作品のうちの1冊で、先に言っておくとなかなかの奇書、あるいは実験小説の類に近いかと思います。
ちなみに、ここは個人的見解によると思いますが、私はあまり百合味は感じませんでした。
卒業式に向かっていた少女、気が付くとそこは暗い石造りの部屋の中。部屋には2枚のドアと、そのうち一方に貼られた張り紙しかなく、張り紙には「卒業試験」と称する脱出の条件が。ドアを開けても開けても、一部屋につき一人の少女しかおらず、中三の女子は無限に増えていくばかり。
これは、そんな無間地獄に囚われた少女たちの記録です。
即座に隣室の少女を殺害しようとする少女がいれば、ひたすらドアを開け続ける少女、開拓を目指す少女もいる。
表題作は『〔少女庭国〕』ですが、『〔少女庭国補遺〕』がその3倍くらいある。基本的には、ずっと説明したような謎の空間に閉じ込められた少女たちがどう生きたかを追っているだけです。
ストーリー紹介だけをさらっと見るとデスゲーム系小説っぽいのですが、そういう感じではなく、数倍速でみる建国史のような、予想外に壮大な話。
そんな中でも中三女子はやっぱり中三女子で、リアルな口語に近いセリフ(「~~じゃんでも」や「まじだとやだねっつってたのだから」など)が簡単に脳内再生できてしまって、こんな荒唐無稽な話なのに感情移入しやすいのが不気味で何となく嫌な感じ。
それと同時に、知覚できない上位存在に弄ばれる卑小な存在である人類、のような概念を感じ取ってしまい、虚無的な気分になれます。
ちょっと変わった小説を読みたい方にお勧めです。 -
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ネタバレ〈ドアの開けられた部屋の数をnとし死んだ卒業生の人数をmとする時、n-m=1とせよ。時間は無制限とする〉という卒業試験に放り込まれた中3女子たちのお話。
〔少女庭国〕よりも〔少女庭国補遺〕からが本番でした。
大叙事詩…勃興と滅亡を繰り返す中3女子たち。
世界には部屋と扉と中3女子しかなくて、生きていくとしたらそれらでどうにかやっていくしかない。食べ物飲み物、生活の道具…部屋と扉と中3女子しかないので“それらでやっていくしかない”。
レポートのように書かれる子もいれば、しっかりストーリー仕立てで描かれる子もいました。
SF、デスゲーム系、百合、架空の歴史書…どれにも当て嵌まるし、でも初めて読む質のお話。終わらない小説でした。
過去方向へ進んでいった子たちが、一面に花々が咲き乱れる部屋に辿り着くのが良かったです。(何から生えてんだ…)と思ったので、その感慨もちょっとで終わりました。 -
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『〔映〕アムリタ』シリーズを思い起こさせるような「自己同一性に対する挑戦」的テーマが随所で匂わせられるが、そこまで踏み込むことなく程よいところで戻ってきてくれる。いや、厳密には戻れてはいないような気もするが、そこらへんの"正常の定義"が読んでいると次第に分からなくなってくる。
現実感のない会話のやり取りは謎の中毒性がある。
この作者の描く登場人物たちは異常な行動をとるほど、口ではまともそうなことを言っているので手に負えない。
読みながらつい鼻を掻いてしまう。
こんなもんわざわざ描写すな、と思うこと仕切りで、目が滑ると言うよりも目を滑らさざるを得ないという状況に追いやられる。でも面白い。 -
Posted by ブクログ
暗黒系ガールミーツガールの怪作。
第1話:ああなるほどねー
第2話:幻想的な作風
第3話:趣味悪いな
第4話:目が醒める。ここからが本番。
第5話:単話としての完成度はこれがピカイチ
第6話:何この名作!
人間の少女である主人公が、魔女の少女に出会って、運命が変わっていくお話。
魔女は人の願いをかなえてくれる。でもその願いは思ったとおりに成就するとは限らない。
小学生的な視野の狭さと、「猿の手」的なコテコテの悪意とが混然一体となって、事態を悪化させて流れがとにかく悪趣味で好き。
グロ描写もキモ描写も盛りだくさんで、倫理的にもいろいろ踏み越えてしまっているので、読み手はものすごく選ぶ作品。
ただこれらの属性が許容できる方であれば、間違いなく至福の物語。グロキモの中から醸し出される仄かな抒情が堪らん
矢部嵩作品、探して読んでみようかと思います。素晴らしかった
将来的には角川つばさ文庫入りを目指して欲しい! -
Posted by ブクログ
ネタバレ悪趣味と言える状況下に放り込まれた少女達が殺し合いをさせられる。端的に言い表せば、それだけの作品であるけれど、〝少女〟という年代の多様さが書き表されている様にも感じました。
怖いもの知らずで無鉄砲な行動に出る子、終わりの見えない現状に閉塞感を感じる子、誰かの為に頑張れる子、仕切りたがりでリーダー気質の子。特殊な環境下ながら、少女らしさを発揮して現状を何とかしようと悩んで行動している少女達。皆、一様に同じ行動を取るわけではなく、似ていながらも違う行動を取り、違う結末を迎えている。その多様さが少女の持つ個性を魅せられている気がしました。
少女庭国補遺では、単調に自殺し殺し殺されてゆき、時折開拓や入植がされ、話し合い殺し合いと繰り返しの様に似た展開が続きます。その殆どが悲劇的な結末を迎えるのですが、その希望の無い中に見えるからこそ、百合と言える展開が映えている気がします。
そして、そんな悲劇的な物語が続いたからこそ、最後の石田好子と本田加奈子の2人が一際平和に見え、2人きりの空間にずっと浸っていたくなる様に思えました。