今から20年くらい前の、よしもとばななさんの6篇収録の短篇集です。
主人公たちはそれぞれ、自分の運命を受け止めながらよく考えていて、
自分の哲学をもっているほどで、そうやって、真剣に考え抜いて考えを言葉にしたうえで、
怠惰とは違うけれどもより生きやすい方向へと顔を向けているような感じがしました。
自分であれこれ考えても、言葉にして残して、書きながら再度考えるということを
しなかったりしないでしょうか、そういう人は大勢いるのだと思いますけれども。
頭のいい人で、特に言語能力に長けていると言われる女性からすると、
そんなことをしなくても、しゃべることで考えの整理はつく、と
言われるのかもしれないです。
それでも、やはり、「書いて読む」という客観的行為によって、
整理がついて、考えが深まって、ゆえに自分の進むべき道がわかったり、
ただただそれだけで癒されたりすることがあるんじゃないでしょうか。
主人公たちの考えの深さや筋の通りかたは、まさに、こういったレベルにあります。
日記を毎日つけていたとか、ノートに思いを書き連ねたとか、そういう描写はありません。
だからきっと、相当な生きることへの真剣さによって、
そうやって考え抜かれた哲学が、主人公たちによって語られている。
どれだけ大変な思いをしているか、どれだけ自分の人生の在り様に危機感を持ち真摯であるかが
うかがい知れるというものです。そして、孤独です。
この場合での孤独であるということは、自立していることの裏返しでもあるでしょう。
自立するということは、孤独な時間の中でいろいろと自分なりに真剣に考えることだ、ということを、
若きよしもとばななさんは表現し、そして自らも実践したのではないか。
それは、よしもとさんに限らず、多くの文学者がやってきたことでもあるでしょう。
と、考えることに重きをおいて書きましたが、
この「とかげ」はその考えの深さや独特さなどを楽しめて、
さらにストーリーというか、主人公の境遇に醍醐味があるような作品群なのですけれど、
そういうところも楽しめます。純文学のカテゴリにはいるのかなぁと思いますが、
つまらないとか、読んでいて退屈になるとか、そういうことはないですね。
瑞々しい感性による言葉が、きっと、読者の脳に潤いをもたらすことでしょう。