吉本ばななのレビュー一覧
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「あなたと恋人と食べるごはんが、いつか「家族」と食べるごはんになりますように。そしてそれの積み重ねが、かけがえのない地層となってあなたの人生を創りますように。できればそれが幸せなものでありますように。」
「キャンドルを灯して、ビールやワインなど飲みながら、暮れ行く空を眺めていつもと同じ人たちと食べる晩ごはんのメニューを考える瞬間の幸せは、人生の数々ある幸せの中でもそうとう大きいと思う。しかしそれも、食卓を囲む家族を愛していてこそだ。そんな愛があなたの世界にありますように。」
これらの文章が特に心に響いた。最近、夕ごはんのメニューを考えることをストレスに感じつつあったけど、今一度原点に戻りたいな -
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ネタバレ弥生と叔母のゆきのの2人の話。正確にいうとまったく2人だけの話ではないが、私はこの2人のための話だと思う。この2人が姉妹だとは考えも付かなかったが、分かってからもう一度読むと血縁関係があることがありありと分かった。特に、ゆきのがいなくなった家で母親が弥生に電話をかけたシーンなんか血のつながりをよく表している。母親がけろっとした声色で「早く帰ってらっしゃい。」というシーンは、あまりにもあっさりしすぎていて違和感を覚えた。
血のつながりというのは果てしないもので絶対的なものだと思った。それに早くから気づいた哲夫はすごい。
哲夫と弥生の関係はすごく好きだった。哲夫が真面目すぎる故に成り立っている恋愛 -
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「私」とゲイである日出雄は、かつて2人と恋愛関係にあった喬がエイズで死期が近いことを知り、喬の長年行きたがっていたエジプトへ旅行を決める。
やはり視覚、嗅覚に訴えてかけてくる描写が最大の魅力。今回の主人公はアクセサリーデザイナーだったので、宝石とエジプトの景色を重ね合わせてちりばめられた珠玉の表現には読んでいるだけで癒された。
共に旅する友人たちの頬が夕日に照らされて、ピンクに青に、ゆっくりと輝くシーン。ピラミッドがオレンジに染まり、その稜線が金色に縁取られるシーン。
神がまだ生活に根付いているエジプトの神秘性と、布やアクセサリーなどの単純なのに複雑な色彩、香水瓶から香るエキゾチックな花の香 -
Posted by ブクログ
新幹線でほぼ4時間分
第一部は、多重人格を治療中の少女マリカと彼女に残された最後の人格の少年オレンジ、そして彼女(彼)を10年来支えてきた元医者ジュンコでバリを訪れる話。第二部は、第一部を綴る上で作者が仲間たちと訪れたバリの思い出が日記になっている。
バリの明るく澄んだ風景とマリカあるいはオレンジの暗い過去や鬱屈とした心とのコントラストに引き込まれる。バリでの旅を通して、だんだんと心が解れていきジュンコとマリカの関係性が医者一患者ではなく人間一人間になっていく。
その過程で自ら離れていく第二人格オレンジもまた魅力的な登場人物だ。マリカを外界の恐怖から守る姿はまさに王子様そのものだった。オレン -
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とてつもない悲しみも逆に喜びも同じ熱量でいつまでも続くものではなくて、だからこそ毎日そこにある当たり前の暮らし、日常の力はとてつもなくて、どんなに深い傷を負っても人類がここまで生命を繋いでこれたのはそのおかげなのか、と思った。それさえあれば生きていけるというのは本当だと思った。
このお話ではサイパンのように、日常とはかけ離れたところにある、時間の流れが日本の自分の日常とは全く違うゆっくりしたところで人生のいっときを過ごすというのも、自分の中に確固たる日常生活があるからこそ素晴らしい体験なのだと思った。後からその記憶を思い返すときに、その時に隣にいた人の記憶ごと懐かしめることは素敵なことだと思う