「探偵はバーにいる」のシリーズを映画も本もどちらも見ていない。かなり話題になってもいたし、そこそこ興味もあったのだが私なりには優先順位が低かったといえる。
本書がそれらの前日譚であるということを知らずに手にとってみた。
内容的にありがちなストーリーでありそうでいて、実はこれまでに経験したことのないス
...続きを読むリルを随所で感じることができた。
ミステリーであるとの先入観をもって読んでいたが、殺人があったり、盗難があったりのいわゆる刑事事件がなかなか勃発しない。
「俺」は自堕落な日々の中で、自分自身に言い訳をしながら飲んだくれ、遊び歩いている、と思いきや、北海道大学の学生、つまり秀才であること、そして週1回のゼミには必ず出席すること、家庭教師のアルバイトを決して休まない等々のぎりぎりの線での自尊心を持ち合わせており、そのことが自分自身も読者も「俺」に安心し、許容している。
物語は作者の経験(体験)も盛り込まれているということであるが、どの部分が実話であるかはもちろん不明である。いつ、推理を働かせるような事件が発生するのか、今か今かと読み進んでいったが結局そういう意味での事件といえる出来事が出現したのは、九割方読み進んでからであった。
最後の一割で少しばかりの推理の要素を含んだ事件に巻き込まれ、とりあえずはハッピーエンドなんだろう、という終わり方で締める。
全般的に新鮮な文体で中身の濃い作品であった。
非常に興味をもった点
1 「飯島」の裏稼業が物語において何の影響も及ぼさない、単なる効果音的存在であったこと。
2 「俺」の氏名が最後まで明かされなかったこと。