阿部暁子のレビュー一覧
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薫子と私は誕生日が一緒だ。なので、食料品売り場に乗り込んで食料を買い込み『こっちは誕生日なんだから最強だ。』の一文は爽快だった。以下は、気に入った箇所を備忘として少し端折って記した。
今日は薄曇りだ。やさしい水色に、粉砂糖を振りまいて、そっと刷毛で広げたような雲がかかっている。
もう何ヶ月も、いや何年も、自分に価値を感じられずに生きてきた。今、私はあの人を助けたのではなくて、助けてもらったのだ。
今日は朝から雨が降り続いており、フロントガラスを濡らす水滴が、スピードに煽られて流星のように散っていく。
自分のためだけに揚げ物をするのって面倒でしょう。
仕事があり、家があり、いつか自分のもとに生まれてくる子のために貯めていたお金もあり、きっとこれからも生きていくことはできる。だけど、私はそれだけでは心をたもてない。
わりと嫌いじゃないというぶっきらぼうな一言で、今、命をつないだ。
まだまだあるのだけど後半はメモすることさえ忘れた。本の両端から手が伸びてきて私の顔を固定する。トイレに行こう、飲み物を取りに行こう、それすら許さない。んー違うか。のめり込んだと伝えたいだけなのだけれど。それはそうと、料理がしたくなったので、スーパーに行こうと思う。卵味噌食べたいので。 -
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ネタバレあらすじ
仕事熱心なキャリアウーマンの薫子は、急死した弟の婚約者・せつなと対面する。12歳年下で無愛想なせつなに戸惑う薫子だったが、体調を崩した自身を介抱されたことを機に、彼女の卓越した家事と料理の腕前を知る。弟の死の真相を探るため、ふたりは家事代行サービス「カフネ」のペアとして働き始める。様々な家庭の事情や弟の親友との出会いを通じて、互いの抱える孤独や病、隠された過去と向き合い、新たな絆を紡ぎ出していく。
感想
亡き弟の婚約者であるせつなと薫子が喫茶店で会う導入から、一気に物語の世界へ引き込まれた。12歳も年下で、遅刻しても謝らず作業服姿でぶっきらぼうなせつなと、バリバリ働く薫子。対照的なふたりの出会いから、薫子の卒倒をきっかけに立場が逆転し、荒れ果てた部屋を手際よく整え絶品料理を振る舞うせつなの姿が明かされる展開は実に鮮やかだった。
弟の死の真相を追うため、家事代行「カフネ」でペアを組んだふたりが、訪問先の人々と関わりながら変わっていく姿が丁寧に描かれている。弟の親友宅での代行を通じて自らの知らなかった弟の真実を知り、料理のプロでありながら自宅では料理ができず病を抱えるせつなの過酷な人生を知るにつれ、薫子は不器用ながらも豊かな人間味を取り戻していく。別れた夫とのさっぱりとしたやり取りも心地よいアクセントになっていた。
ラストで薫子がせつなと「家族」になろうと手を差し伸べ、頑なに拒んでいたせつながそれを受け入れる結末は、情景の描写も含めて実に美しく、胸に深く沁み入った。
希薄になりがちな現代の人間関係において、人と人との絆を本当に深めるためには、薫子が見せたような、少し「昭和的」とも言える泥臭いおせっかいさや踏み込む勇気こそが必要なのだろう。家族の形や人との繋がりの尊さを、温かい食事の湯気とともに思い出させてくれる心揺さぶられる一冊だった。 -
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ひったくり犯を取り逃した女子大生の春風(はるか)。
被害に遭った昔馴染みの老婆に、このことはもう忘れてと春風は言われるも、つらそうな老婆を放って置けず、ひったくりを一緒に追いかけた謎の男子高校生・錬とともに、犯人捜しを始める。
犯人に目星が付いて終わるかと思いきや、事態と各人の目論見は複雑に絡まっており…
正義感の強い主人公春風と、只者ではなさそうな男子高校生錬のバディで進んでいく捜査の描写は、テンポが良く面白い。
面白いなーと読み進めていくと、ひったくりの犯行の裏にあった、二重三重の事件の存在が明るみになり、それぞれの犯罪に手を染めた各々の切迫した状況、心情が明かされていく。
ー中心は暗闇に沈んで何も見えないのに、その輪郭だけが強烈なかがやきを放つ。ー
タイトルの意味を捉えるこの一文を本書で見た時、この金環日蝕が本書において何を表現しているのか、いろいろ浮かび上がり、考えてしまう。
犯罪に関わってしまった様々な人たちは、どのような闇に呑まれてしまうのか。闇に呑まれてしまうと、もう逃れることはできないのだろうか?変わることは、できないのだろうか?
本書は、否、とこたえる。
以下は本書からの引用である。
私は弱い。私は囚われている。私はそれを認める。
けれど弱く脆い人間が、その弱さと脆さによって、立ち上がることができると私は信じる。
私は学び、努力し、時にゆらぎ、それを克服しようとあがきながら、私が変われるということを証明する。証明すると決意する時、私の未来はどんな鎖からも自由になり、無限の可能性をもって広がる。
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Posted by ブクログ
最愛の弟を亡くし、失意の中にいた薫子は弟の元恋人せつなと家事代行のボランティアを共にすることになる。
しかしせつなはある秘密を抱えていた。
色々な事情を抱えた人たちがいて、悪い人なんか一人も出ていなくて、ただ真面目で誠実に生きている人たちの前を向いていこうとする物語だった。
食べることは生きることって本当にそうだと思う。
この人たちの真面目さに、もっと甘えていいんだよと思いながらも一気に読んだ。
出てくる料理はどれも美味しそうで、薫子のそうじの描写も気持ちがスッキリした。
日々の生活の大切さを感じながら最後はあったかい気持ちになった。
久しぶりに読書して泣きました -
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ネタバレ切なくて苦しくて、それでも前を向いて生きていく人達から目を逸らせなかった。辛い時に美味しいものを食べて心がすっきり、みたいな物語を想像してたけど、生き方を縛り付けてしまうほどの重い愛や喪失、そして再生の物語に心を打たれた。
「人間は、こんなに打ちのめされている時でさえ、おいしいと感じてしまうのだ。」(p.96)
一人で生きていく選択も、誰かと生きていく選択も、簡単ではない。けれど、誰かと食べるご飯は美味しいし、単に栄養を摂取するという目的以外のところから力をもらえる。救いたいと願っても、必ずしも受け入れてもらえるとは限らない。本当に救いたいと思うなら、長い目が必要なのかもしれない。
「生まれてくることも、生きていくことも、苦しいことだと思う。すべての子供は親の欲望から生まれて、生まれたあとも親に虐げられる子供がたくさんいる。(中略)僕にはどうしても、子供を持つということは、またひとり不幸な思いをする人間をこの世に生み出すことに思えてしまう」(p.358)
という公隆と、
「あなたの意思なく生まれさせる罪をつぐなうために、用意していたものがたくさんあった。」(p.342)
という薫子。
人が生まれるということは、もちろんその分だけ辛さや悲しさも生まれる。どれだけ親が降りかかる障害から子を守ろうとも。子を生む罪深さを自覚しながらも、それでも子どもが欲しい気持ちを持つ薫子、子を持つことに懐疑的な公隆。どちらも当たり前の感覚で、でもどちらも同じく懸命に子どもを救おうとしていて、真っ当な大人だなと思った。
もちろん無責任に子を持つべきではないが、子どもが欲しいという気持ちに理由はいらない。理由が必要なら、人類はここまで進化しなかった。すべての子は親のエゴで生まれる。エゴで生んだのだから、その罪を償うように、それ以上に愛さなければいけない。そしてその愛で縛りすぎてもいけない。難しいけれど、考えることを放棄したくないなと思った。
薫子とせつなの印象が最初と最後でガラリと変わる。同じ場所でも、最初は曇り空みたいだったのが、最後は雲間から光や青空が見えてきたようだった。