高田崇史のレビュー一覧
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ネタバレ茨城県に住んでいたことがあるので、平将門は割とよく聞く歴史上の人物ではあったけれど、東京で聞く祟り神としての将門と、地元で愛される将門像のずれの理由はそういうことだったのかと納得する部分が多かった。
坂東市(当時は岩井市)にある茨城県自然博物館にはよく行ったけれど、その周辺に史跡が多く残されているとは全然知らなかった。
よくお土産に頂いていた「将門せんべい」(めっちゃ美味)が、要するに地元に愛されるヒーローである証拠のようなものなのね。
とはいえ、今回はまた事件が起きてはいなくて、延々将門に関する蘊蓄が続くのにはちょっとうんざり。
蘊蓄とミステリのバランスは大事だ。
次の作品で、今回再び登場の神山(みわやま)禮子が、また何らかの事件に巻き込まれるっぽい。 -
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歴史上の謎と現実の殺人事件を解決するQEDシリーズ3作目。本作は架空の人物が対象という珍しさ。本書でも触れられているが現実にも影響を与えた名探偵、いや創作上の人物はシャーロック・ホームズが多分初だろう。登場から150年くらい経っているのに今も彼を超える名探偵キャラはいないように思う。
さて本編だがシャーロキアンなら怒りかねない結論だがホームズ好きの我が身からしても面白い。というかホームズファンなら祟の言う疑問点には気づいているだろうし妄想的にも考えた事があるのではなかろうか。個人的にグラナダ版『シャーロック・ホームズの冒険』が超好きなのでそこに軽くだけど触れられているのも良かった。 -
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ネタバレ最初は薬剤師の棚旗奈々と、学校の先輩であり同業の桑原崇と、その友人である雑誌記者の小松崎が事件に巻き込まれる話だった。
しかし、主体的に物語を動かしていくには奈々が大人しすぎたせいか、その妹のやはり雑誌記者の沙織が加わり、事件と古代日本史の二本立てにするパターンが定まった。
と思いきや、今度は毒草師?
タタルと同程度に古代日本史の知識がある、自分ルールに忠実な史紋は、饒舌さではタタルに及ばないものの、その偏屈な人間性といい古代史への知識といい、タタルに似すぎていて、これでは却って話がこじれるのでは?と思ったら、別シリーズの人物のお披露目であったらしい。
今回は犯人もそっち系の人だったので、ちょっと渋滞しましたな。
熊野だから御名形(みなかた)という名前なのだと私が気づいたのは、南方熊楠に話が出てからなので、うかつにもほどがあった。
今回は全国にある神社が、ある意図をもって配置されているというタタルの説が最後に開陳されるのだけど、実際のところどうなのだろう。
例えば仏教だと宗派ごとにトップがあるけれど、神道ってその辺がどうなっているのかわからない。
お坊さんは上位格のお寺で修行して…というのがあるけれど、神主さんはどこでどう修行をしているのか。
そもそも、明治政府の行った廃仏毀釈で多くのお寺が取り壊されても、神社は残されたわけだけど、江戸時代の神社の役割がそもそもわからん。
神嘗祭とか新嘗祭は、古来より途切れることなく行われてきたのか?
子どもが天皇だった時はどうだったのか。
南北朝に分かれていた時は、それぞれに行っていたのか。
今の天皇と神道の関係はどの程度深いのか。
もし、古来から天皇及び朝廷が神道を取りまとめてきたのであれば、神社の設置位置はタタルの言うようにかなり図章的なものになってもおかしくはない。
けれど、その時その時の都合で置かれたものならば、たまたまの偶然だろうと思う。
改めて、自分の知識のなさに愕然としたけれど、何がわかっていないのかがわかったことが、今回の収穫なのかもしれない。 -
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ネタバレ今回は、タタルたちが出てくる現在パートでは事件が起こらず、幕間に語られる過去パートで殺人事件が起きている。
しかしよく読んでみると、現在の私と過去の私の語る内容が微妙に違う。
ずっともやもやしながら読むのだが、タタルたちは当然そのことを知らないわけで、延々と熊野にまつわるウンチクが語られていく。
熊野はずっとあこがれの地で、南方熊楠のことについてもちょっと触れられていたので、そこは単純に嬉しかったのだけど、事件のおぞましさがやりきれなくて、ページをめくる手が止まりがちだったのも事実だ。
古来から伝わる風習を現在の価値観で断罪することに意味はない、と思っていたけれど、それで辛い思いをしている人が後を絶たないのならば、断罪しててもやめさせることは必要と思うようになった。
縄文人、アイヌ人は神を恐れる気持ちが強いので嘘をつくことができないが、弥生人、大和朝廷の人たちは嘘を武器にして敵を攻略してきた、というタタルの主張は極論ではあるけれど、近代でも、和人は講和を結ぶ振りをして宴会でアイヌ人たちを虐殺したという事実があるからなあ。
ヤマトタケルの頃から変わっていないと言えば、そのとおりなのかもしれない。
このシリーズを読んでいると、日本人ですみませんという気持ちになってしまう。
まあ、読んでいる間だけなんだけど。 -
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ネタバレここ数年読んできた古代史をテーマにしたミステリは、なぜか岡山へと私を導いていく。
詠んだのは数年前でも書かれたのは数十年前だから、その当時に岡山ブームでもあったのだろうか。
それまでの古代史と言えば邪馬台国や出雲からの諏訪、というあたりが常套だったような気がしているのだけど。
岡山に半島から、戦にやぶれて逃げてきたものが住み着いたこと。
彼らは製鉄の技術革新を日本にもたらしたこと。
大和朝廷が彼らを滅ぼし、歴史から抹消し、鬼として封じたこと。
このあたりが今現在(または数十年前)の定説なのだろう。
で、今回タタルはほとんど出てこない。
密室殺人事件の被害者の婚約者の友だちが、小松崎の雑誌に事件解決の依頼の手紙を送ったことから、彼らは事件に巻き込まれていくのだが。
まずこの設定が不自然なのに、さらにその友達というのが、吉備津国の歴史(古代史)に詳しく、観光案内をしながら事件の説明も行うっていうのが、ありえないくらい不自然。
いつもいつもタタルの古代史説明では飽きると思われたのか、若い女性二人が説明し、奈々の合いの手でさらに補足していくという流れ。
友だちの婚約者が殺されたっていうのに、ずいぶんとのんびりしてるじゃありませんか。
桃太郎伝説を題材にした小説で、若い女性の名字が「桃田」と「猫村」って、絶対何か意味があるって思うよね。
特になかったみたいで、肩透かし。
タタルは最後に登場して、事件全体の構造を暴き、現実の法手続きは警察に任せて、さっさと退場。
このあたり、事件は暴くが事務処理は室町警視に丸投げする、薬師寺涼子みたいなものか。
あと、このシリーズの語り手である棚旗奈々を、徐々に苦手になってきている私。
タタルとの関係でいえば、カマトトすぎる。
妹との関係でいえば、分別くさ過ぎる。
カマトトはいいとしても、妹に対する態度は姉というより親戚のおばちゃんだ。
もうすぐ30歳の女性という感じが全然しなくて、私のなかでは一人の人間としてうまく立ち上ってこない。
というわけで、もうちょい奈々がなんとかならんかな、と思っている次第です。 -
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短編なのでサクサク読めた。
今回の書き出しテーマは『だから捨ててと言ったのに』…だいたい恋愛絡みか、夫婦関係こじらせ系が多かったように思う。
誰に対して言っているかで、作者ごとに思い付く話が違い、個性があって面白い。
アンソロジーは、知らない作家さんを知って、見つける機会にもなる。
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↓読んだ中で印象に残ったもの。
●良い話
砥上裕將『母の箪笥』
金子玲介『恋文』
●じわじわ来る系
潮谷験『無理解』
五十嵐律人『累犯家族』
背筋『こわくてキモくてかわいい、それ』
●設定の世界観が独特
黒澤いずみ『捨てる神と拾う神』
舞城王太郎『食パンと右肘』
多崎礼『海に還る』
麻耶雄高『探偵ですから』
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個人的には、金子玲介さんの『恋文』が一番馬鹿っぽく軽いテイストが面白かった。
また、多崎礼さんの『海に還る』は短編の設定にしては面白い。短いから逆に良かったのかな?
潮谷験さん『無理解』と、五十嵐律人さん『累犯家族』は、表題テーマらしいイメージ。 -
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ネタバレ今回は、雑誌記者である奈々の妹・沙織が、鎌倉をテーマに記事を書くために、博覧強記の崇を鎌倉散策に引っ張り出したところから話が始まる。
鎌倉(地元)なんて、今更知らないことはないと思っていた奈々たち姉妹だが、鎌倉の名勝に隠された歴史の闇を聞き、実は知らないことだらけだったことを思い知らされるのだ。
奈々の妹が雑誌記者ということで、テーマの自由度が格段に広がった。
だって雑誌の記事にするといえば、なんでもありだもの。
なのでメインテーマであるところの鎌倉の歴史の闇と、フリーのジャーナリストである小松崎が取材しようとする社長失踪事件は直接重なることはない。
しかし最後まで読んでみれば、北条氏の野望と現在の事件が相似であることに気付く仕掛けになっている。
まあ、気づかなくても問題はない程度に。
ずっと、頼朝は人を信じることのできない小心者だと思っていた。
だから鎌倉という小さな世界に引きこもっていたのだ、と。
しかし、この本では逆に、頼朝は鎌倉という場所しか与えられなかったのだ、という。
源氏の頭領と祭り上げられ、実際は傀儡であった。と。
だから頼朝の子どもたちは、誰も長く生きることを許されなかったのだ。
源氏の名前がなくても幕府が機能するようになるまでの、お飾りだった。
視点を変えれば悪役が悲劇の人になる。
『ガラスの仮面』を思い出しましたよ、カーミラ。
義経が逃げ込んだからというのは後付けで、最初から奥州は狙われていたという説には納得させられた。
何しろそこに金がある事は、知れ渡っていたのだから。
こういう新たな視点を得ることができるから、このシリーズは好きだ。 -
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ネタバレもはや竜馬の暗殺の謎と、奈々たちが巻き込まれる事件との関係はほぼない。
なんなら殺人事件がなくたって成り立ちそうな、つまり人は死ななくても山奥で孤立した夜に、竜馬の暗殺についての個々の推察を述べるだけで話は成り立ってしまうレベル。
無理に殺人事件と絡めてしまったため、竜馬暗殺の謎といつものスサノオとかの神話レベルの謎の二本立てになってしまった。
これは明らかに別建ての謎であろう。
ただ、竜馬の暗殺に絡んで、幕末のいろんな史料をもとにした黒幕の説が列挙されたのは楽しかった。
私も作者と同じく、吉田松陰の考えた維新の姿と実際の維新では、天と地ほどの隔たりがあると思っている。
で、西郷隆盛については、作者と考えを異にする。
勝海舟教の熱烈な信者としては、勝先生が見込んだ西郷隆盛が、ことほどかように手の込んだ後ろ暗いことをやるとは思えんのだ。
竜馬暗殺の実行が見廻組だとして、黒幕が薩摩藩だとしたら、それは大久保利通なんじゃないの?
彼なら、裏でコソコソ陰謀をめぐらした挙げ句に西郷隆盛に押し付けることぐらいはやりそうじゃん。
公武合体派の先頭にいた島津斉彬に心から慕い従っていた西郷隆盛が、いつどこで幕府許すまじの急先鋒になったのか、いろいろ調べてもよくわからないのだが、、今私が考えているのは、江戸幕府の在り方よりも、徳川慶喜個人を許せなかったのではないかということ。
どうも幕府撲滅よりも、慶喜を亡き者にするために動いていたのではないか。
革命は血で贖うようなことを言っていたけれど、それは他人に血を流せと言っているのではなく、その覚悟で行えと言っているだけで、西郷隆盛が新徴組、引いては庄内藩を全滅させるのではなく、維新後も交流を持って海外留学の支援なども行っているのを見ると、やっぱり彼は懐の大きな人物であると思える。
だから、トップに立つ覚悟の見えない、腰の据わらない徳川慶喜を戴くことだけはできないと思い定めたのではないかと思うのだけど。
でもそうすると、江戸を火の海にしてもかまわんという姿勢はどうなのよ、という謎の答えは出てこないが。
閑話休題。
この先のシリーズを、大和朝廷以降の隠された黒歴史を暴いていくシンプルなつくりにするのか、もう少し現実の事件との関りを濃密にするかしないと、今作はシリーズの本筋の方が添え物的になっていて、龍馬にすっかり持っていかれた気がするわ。 -
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ネタバレ奥多摩のさらに山奥にある2つの集落をつなぐ鵲(かささぎ)橋。
その周辺では、昔から不審な事故死が多発していたのだった。
このシリーズの主人公…ではないよな、語り手…でもない、ヒロイン…とも違う、しいて言うならこのシリーズの聞き手である棚旗奈々の上司が、腹に竹槍を突きさされた死体を発見したことから、彼らはこの事件にかかわりを持つことになる。
今どきなぜ竹槍?
しかし本文の大半はこの事件ではなく、『竹取物語』は呪の物語、騙りであるということを桑原崇が延々と棚旗奈々に話すことに費やされている。
まあこれも、シリーズの常套展開なのだけど。
かぐや姫に求婚する5人の貴族たちは、実在のモデルがいる、というのは聞いたことがあった。
その元となった人たちの名が明かされたとき、『竹取物語』を書いた人の名前が私にもわかったけれど、それはあくまで物語上の事実であって、作者未詳というのが実際のところなのだけど、ではなぜ作者を未詳のままにしてあるのかというと…と考え始めると、歴史を疑う目はとどまるところを知らなくなる。
桑原崇によると、かぐや姫は衣通(そとおり)姫であり、小野小町であるという。
つまり貴族以外は人間にあらずと言った平安時代に、機織り女は、遊び女扱いもされる存在であったのだという。
たかが遊び女のかぐや姫に対して、高価な秘宝を惜しげもなく捧げようというのだから、貴族の男は酔狂である、ということなのだろうか。
このシリーズのもうひとつの常套は、タイトルとは別の謎を追うことによって、タイトルの謎に収斂していくという構造だ。
今回のそれは「七夕」における呪。
鵲橋を挟んだ村の男女が婚約する、結婚する、という流れは、さすがの私でも「七夕」やん、と思った。
しかしこのシリーズの聞き手である棚旗(たなはた)奈々。
この名前に隠された秘密はないのかい?
だれも、桑原崇ですら、散々七夕のウンチクを語りながら、彼女の名前について触れることはなかったのが気になるのだが。
「たなはた」で「なな」なんだよ。
誰か突っ込めよ。 -
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ネタバレ今回は、歌仙絵をねらう連続窃盗強盗事件から、日光東照宮の謎に迫る。
日本史に明るくない私には、今回のような有名なテーマでも、途中zzz…となる場面もあった。
というか、日光東照宮に歌仙絵が飾られていることからこの窃盗強盗事件についての話が及ぶものの、テーマが遠くないかい?
犯人は警察官というのは意外でしたが、動機がこれまた奇想天外というか、崇にしか解き明かせないよね?という動機。
日光山と月山をむすぶルートにホテルを建設されると脈が途絶えるから…とは。
しかも本命以外はカモフラージュでABC殺人事件方式、事件を隠すなら時間の中というもの。
脈という本来見えないようなもの、建物があっても分断されることはないんじゃないかと思うが、はたして。
この本が書かれたのはだいぶ前だと思うが、現在(2025年)でもその脈は分断されずにいるのだろうか。 -
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ネタバレ今回は、三十年前の殺人事件の被害者の孫が、その密室の謎を大学生時代の桑原崇に解いてもらったという、過去の事件の話。
しかも飲み会での話題。
弓削家という陰陽師の家系であることから、被害者の孫である和也は、犯人は式神を使って祖父を殺したのだと主張する。
「そんなものあるはずはない」という大方の人たちと意を異にするのがタタルで、「見えないだけで存在している」と言う。
それはいったいどういう意味か?
平安貴族からすると、官位五位未満は人ではないのだ。
とはいえ、実際には貴族の世話をしたりする庶民もいる。
そして、さらにその下には、賤民がいた。
朝廷にまつろわぬ民の末裔。
それは人ではなく、鬼や蝦夷やキツネや河童のように別のものとして扱われ、身分も住処も与えられることはなかった。
流れ者として芸を売ったり身を売ったり。
そういう一族が、華やかな都に確かにいたのだ。
人ではないのだから、当然目には見えない。
そんなことがあるのだろうか。
目に見えないといっても、現にそこに彼らは存在しているのに。
しかし、例えばいつも通る道に不意に現れた更地を見て、ここには依然何が建っていたのだろうと思うことがしばしばある。
絶対に目にしているはずなのに、思い出せない。
私にはそこが見えていなかったのだ、きっと。
今回はちゃんとした密室殺人だなあと思って読んでいたのに、やっぱりちゃんとした密室ではなかった。
人の心が作った階級が、同じ人間たちを見えない存在にしてしまう。
今も、学校や地域で村八分という、見えない扱いを許す行為は残されている。
それは愚かな行為であると、皆が自覚しなければなくならないのだろう。 -
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ネタバレつくづく和歌というものは侮れない。
表面に見えている言葉と、言葉の中に隠された裏の真意。
『百人一首の呪』の時も思ったけれども、歌を曼荼羅図のように並べて意味を問うという発想がなかったものだから、今回も三十六歌仙の歌を並べ替えて閉じた環を作れることに驚いた。
藤原公任は本当にそこまで考えて選出したのだろうか。
だとしたら平安時代の貴族の和歌に対する情熱は、私が思っている以上のものなのだな。
そしてもし、そこまで考えていなかったものを、作者が強引に作り上げたのだとしたら、作者の情熱に頭が下がる。
そして今作は、「三十六歌仙絵」から始まる家康の呪だ。
なんとしてでも天皇家を押さえて徳川家を上に、という野望。
いつから家康はそんなことを考えていたのだろう。
でも、家康と後水尾天皇との確執は知っていたから、まったくの絵空事ではない説得力を感じてしまった。
金食い虫の貴族社会は縮小し、天皇の権威は徳川将軍家に移行させるために天皇家の面子を潰しまくった家康。
そして日光東照宮は天皇家ににらみを利かすために、数々の仕掛けを施した。
それを実行したのが天海僧正と言われている。
が、天海僧正にはさらに隠された野望があった。
…僧正にまで上り詰めながら、野望は捨てられないの?
悟りは開けなかったの?
歴史は好きなんだが、宗教が絡むと途端に難しくなってしまう。
まあ、これからもボチボチ勉強するとして。
いきなり明かされた犯人の動機が突拍子もなさ過ぎて。
犯人にとって100年ほど昔の歴史と、今現在の自分の恋愛とでは、歴史のほうが大事だったんだね。
それから事件とは全然関係ない話だけど、最初の被害者の息子である慶一。
親の敷いたレールの上しか動けない人生。
でも、それが楽だと思っている。
選択しなくていい、責任を持たなくていい人生。
これが、自分のことのようによくわかる。
私も「好きなようにしなさい」と言われると困ってしまうので。
正解がないと不安になる。
だから『あつ森』も『マンクラ』もできない。
決められたゴールがないと、どうやってスタートしたらいいのかわからないのだ。
慶一の狡さは、私の狡さと同じだな。 -
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ネタバレ今度はシャーロキアンのパーティーでの殺人事件に巻き込まれるとは、人嫌いにしてはずいぶん社交的な場にいたものだな、桑原崇。
と思ったら、またもや大学時代のつながりで、しかもシャーロキアンに物申したいことがあったから、という理由付き。
シャーロック・ホームズのシリーズは、一応全部読んだはずだけど、さほど詳しいわけではなかったので、シャーロキアンといわれる人たちが、重箱の隅をつつくような細かなところにこだわりながら自説を展開していく様は、非常に面白かった。
モリアーティ教授と滝に落ちる前後で、別人のように人となりが変わってしまったというのは、うっすら感じていたような気もするけれど、多分作者のホームズに対する熱が冷めたんだろうなあくらいにしか感じていなかったと思う。
今回、もしかしたらモリアーティがホームズに成り代わったのでは?というトンデモ仮説を立ててみたけれど、あっさり玉砕。
単なる思い付きで真相がわかるほど、ホームズの謎は単純ではない。
でも、そのうえで、今作はちょっとマニアックすぎたと思う。
ホームズについてはマニアックでいいけれど、薬剤師たちが主人公だからと言って薬の知識が重要すぎて、もはや全くついていけない。
薬の知識に関していえば、解釈の違いなどは許されないわけで、がちがちに固められてしまった真相が今一つ魅力に欠けたんだよね。
夢オチのように都合のいい展開だったから。 -
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ネタバレ七福神と六歌仙。
神と人との対応はいいとして、数が違うではないかとの声を力技でねじ伏せる博覧強記。
分析とこじつけのコラボレーションに、頭がくらくらしてくる。(いい意味で)
明邦大学では「七福神」の研究をすると不審死を招くことから、その研究はタブー視されていた。
その時点で、大学の姿勢って、研究者の矜持って何よと思うが。
しかし兄の遺志を継いで七福神研究をしたいという貴子が、棚旗奈々を通じて桑原崇とともにその謎を追う。
という建前の割に、これから卒論の準備をするという、まだ研究の端緒にも立っていない状態というのを差し引いても、貴子の知識がほぼなくて、桑原崇が一人で畳みかけてくる。
異論をさしはさませることなく、「~とはこういうことだ」「~だからこうなる」「つまりから~だ」という断定の連続。
ああ、このスタイルがそもそも呪(しゅ)なのだな。
しかし、一族の秘密を守るために家族をも手にかけてしまうというのは、なんてすさまじい呪、呪いであるのか。
しかも、その秘密ってのがさあ…。
京都弁の、裏の意を含んだ柔らかい表のことば。
それはすなわち、平安の時代の人たちが、人を呪ったり魔を避けるために日常的に使っていた生活の知恵なんだろう。
と思うと、時代を重ねてあることの重さ、というものが強く感じられる。
少なくとも「ぶぶ漬けいかかですか」と言われたら「あ、どうも、ご馳走になります」とありがたくいただいてしまう道産子には、思いもよらないくらいの重さなのだろう。 -
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ネタバレ以前からずっと、読みたくてしょうがなかったシリーズ。
この偏執的に知識過剰な雰囲気が、とにかく好きなのである。
京極夏彦の一連のシリーズしかり、高橋克彦の浮世絵シリーズしかり。
本職の研究者たちが日々研究していることを、エンターテインメントの小説の中で、自らの仮説を立て、検証し、素人には「これしかないのでは」という結論にまで持っていく。
読んでいてわくわくします。
今作では、百人一首のコレクターである人物が自宅で殺された事件というのが一応のミステリ部分になっていますが、7~8割ほどは百人一首自体の謎の解明に費やされています。
なぜ百人百首ではなく、百人一首と名付けられたのか。
その当時の著名な歌人が外されたり、さほどでもない人が選ばれたりしたのはなぜか。
なぜ代表作でもない凡庸な歌が選ばれた人がいるのか。
さらに、選者である藤原定家と、後鳥羽上皇との関係性について言及する。
没落貴族である定家がお家再興をするためには、卓越した和歌の才能を前面に出していくしかない。
当初は後鳥羽上皇とともに和歌を詠み、その解釈などを語り合ったはずなのだが、徐々に二人の間は離れていく。
後鳥羽上皇の口出しが定家には煩わしくなり、いうことを聞かない定家が上皇には煙たくなった。
その後承久の乱で敗れた後鳥羽上皇は、生涯を流刑地で送ることとなり、怨霊や祟りが日常茶飯だった平安人・定家が鎮魂のために行ったのが百人一首の選定ではなかったのか。
と、いう話。
百人一首の謎が解けて初めて、「ん?もしかして被害者も定家と同じことしたのでは?」となる。
そして、探偵役である桑原崇の本職が薬剤師であることも、今回は意味があった。
本当に博覧強記なのは作者なんだよ。くぅ~。
このシリーズ、どれもこのクオリティを維持できているんだとしたら、すごすぎる。
次巻を読むのが今から待ちきれない。