北野勇作のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
100文字という制限下でSFを綴る。
読んでいて思うのは、この100文字という制限であるからこそ、無限に広がる世界が内包されているのだな、という感覚。
これは、FC時代からゲームに親しんできた世代なら共感してくれるだろうと思います。あの荒いドットで表現された世界に、どれだけ興奮し没入して、描ききれなかったことも描かなかったことも想像し世界を構築してきたことか。
技術の進歩によって解像度が上がったことは素晴らしいことであって、現実との境目があやふやになってきているのは、高精度の限界に挑戦していくということで頼もしいことです。ただ、見えるものに感動するのと、見えないものを補完して感動するのは違っ -
購入済み
「54字の物語」や「一行怪談」のような超ショートショート集。
SFだけあって星新一先生みたいな話もあれば、ホラーに近い奇妙な話もあって面白かった。
話の前後があれこれ想像でき、世界を拡げてみられるものが特に面白いと思った。 -
Posted by ブクログ
こちらも再読ですが好きです。
ぼんやりと見えてくるとおとかあと春子が暮らす世界の状況はとても厳しいのですが、ほのぼのしていました。「保育園送り迎えSF」。
春子はとても可愛くて子育ての大変さと子どもの成長のきらめきも感じたのですが、とおは何かよく分からないものですし、かあは家の天井と融合している。
とおの、家族を守りたい、を強く感じました。先は長くない、いつかはツケを払わなくてはならない、とわかっていても。
3.11を思わせる大災害で、ラストの、誰かが決めた全てを押し流そうとする描写はあの津波を思わせたのですが、あとがき読むと震災前の2009年に既に書かれていたようでした。
まともなものはひと -
Posted by ブクログ
大災害に見舞われ壊滅し、再構築され隔離された『人に化けた者』が生きる町で生きる家族の物語
少し詳しく書くと人間が作り上げた人工巨大人による暴走によって街を破壊し、人工巨大人の超活性細胞が人間を飲み込み、そして人間に呑み込まれ、互いに『生きる』ために再構築された世界で生きる家族の物語です。妻は、暴走による巨大人の『肉の津波』に呑み込まれ、人に再構築出来ず、家の天井の壁と一体した生命体と化します。そんな妻から生まれた春子。"私"はこの小さな世界で、春子の保育園の送り迎えをする。
そう、この物語は『日常』を描いています。
時に生存のため、狐の如く化けた人が、呑み込まれた人 -
Posted by ブクログ
ヒトが作り出したレプリカメ、カメリのお話。壊れた世界でヒトがいなくなって代わりにヒトデナシが世界を修正する世界。そこのカフェで働いているカメリ。ちょっとした冒険をしたり、ヒトデナシやマスターなどの役に立ったりする。可愛い模造亀。
森見登美彦さんが解説を書いている!と思って手にとって、珍しく解説から読んでみたら面白そうだったので購入しました。読み始めてしばらくして、最高じゃん!と思った。どの辺が最高かというと、まずカメリが喋らないのになんか可愛い。そしてご都合主義的なことも多いもののどうにかピンチを切り抜ける。ヒトデナシたちの会話も楽しい。カメリがよくわからないままいろんなところでなんとなくや -
Posted by ブクログ
北野SFの原点にして、一つの到達点であり、後の北野勇作のすべてが集約された傑作物語。
また、2000年代の日本SF復活の幕開けとなる長編の一つ。
10年ぶりの再刊で読み返したけど、10年間に北野勇作の作品をいろいろ読んだので、10年前より作品がより理解できるようになったと思う・
背景レイヤにかなりハードなSF設定があるのに、その前景レイヤに日常とノスタルジーを感じさせる風景、どこかずれているけどほのぼのとした優しい世界。
それを描き出す作者の文章が考え抜かれ、でもなんか読みやすく、擬音の巧みさもあり、淡々と進むけど奥が深い小説。
この風景がカメモリのどこかにひっそりと冬眠して、いつかかめ -
Posted by ブクログ
不思議な世界観。
いえ、SFの設定としては決して珍しいものではないのですが。
かめくんは「レプリカメ」です。
亀に似せて作られました。
人に混じって生活していますが仕事や生活面で弱い立場です。
作られた存在ですがりんごやパンの耳を買って食べます。
口がきけなくてワープロを使って会話します。
そういったことから、
どちらかというと受身で周囲の人たちを観察している感じ。
でも内面でいろいろな事を不思議に思い、常に考えています。
そんなかめくん視点で語られる世界は静かで優しく、でも切なくて。
そしてよく考えると怖い。
淡々とかめくんの生活が語られていく中で、
底知れない不安と悲劇の予感がじわじわと