北野勇作のレビュー一覧
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私は昔からきっちりする事が苦手である。文化祭準備や飲食店でのバイトなど、テキパキと無駄のない動きをするのは向いていない。今まではそれは性格だの欠点だのと思ってきたが、単にシナリオがきちんとインストールされていなかっただけなのかもしれない。シナリオのインストールや情報共有は、同じヒトデナシ同士で手を取り合って行うようだ。誰かが忘れてしまっても、こうする事で情報が復活するらしい。自分は孤独の一匹狼だったので、その点がダメだったのかもしれない。私はそう推論する。
生きる上では働くことは必然であり、働くことは常に憂鬱であり、それはすなわち生きること自体が必然的に憂鬱ということになってしまう。しかし、最近身の回りで不思議な現象が起こり始めた。街中の至るところでヒトデナシ達を見かけ、彼らが談笑する声が聞こえ、気づいたら一緒に泥コーヒーを啜りカヌレまで味わっている。彼らはヒトのような姿をしている時もあれば、建物や物だったりする。自分の周りに、今を生きるもの、かつて生きていたもの、これから生まれ変わるもの達が溢れている。
今日も美味いよ、カメリ。
美味い美味い。
この一杯のために今日も働いて生きてるんだよな。
そうそう、この一杯のために精一杯生きるんだよ。
ありがとうカメリ。
ありがとう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレおもしろかった。
途中まではどこかsfっぽいスケールの大きさを感じさせつつもかめくんの何気ない日常を描いていたが、終盤でのは少し背筋が寒くなるような展開になっていて思わず鳥肌がたった。
また、さいごにこの小説がかめくんが書いたものであると分かった時、一気にこの作品が切なさを帯びるのが印象に残った。
周りの人物はかめくんと一定の距離をとっていて、それゆえなのかお互いの関係が身軽なのが私にとっては心地よかった。そのなかで、時折彼らが見せるかめくんを気遣う描写が愛おしく見えた。
バットエンドのように捉えられるが多いと思うこの小説。
私も同意見だが、くらげ荘に移ってからは、少なくともかめくんは幸福に見えた。
SFをあまり読んだことない人でも手の取りやすいと思う良い作品でした。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ好きなポッドキャスト「謎解き!ハードボイルド読書探偵局」で一編ずつ精読する読書会が行われていて(あと3編は配信まだ)、正直そっちを愉しむために読んでみようか、という不埒な動機だった。
が、えらく面白くて、大好きになった!
北野勇作さんは「NOVA」などアンソロジーで数編読んだだけ。
朝宮運河・編「宿で死ぬー宿泊ホラー傑作選」の「螺旋階段」という映像化不可能な異形の短編が印象深かった。
本作のカバーでキュートなイラストが描かれているので、読みながらついつい漫画化するならスケラッコかな~とか、つばなかな~、いや諸星大二郎かも、とか想像していたが、おそらく本作も映像化不可能……というか、キャラクターデザインや美術など決定しないほうが楽しみが増すのではないか、と思う。
確定不可能性を担保し続けるほうが魅力が増す、脳内に結ばれては移っていく像を追う、小説ならではの味。
それでもやっぱり敢えて連想してみるならば、
堀貴秀「JUNK HEAD」、弐瓶勉「BLAME!」、つくみず「少女終末旅行」の、メガストラクチャーや生体機械、の壮大さとグロテスクさと、
リドリー・スコット「ブレードランナー」、押井守および士郎正宗「攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL」の、レプリカントや電脳、の悲哀さと、
シナリオやテレビドラマやニセモノや、から、「世にも奇妙な物語」の「ロンドンは作られていない」の模擬記憶や独我論(今回初めて知ったが清水義範「唯我独存」が原作)、大塚寧々が主演した「壁の小説」とか、
……と、大仰なものばかり連ねてしまったが、
そんなハードSF、本気に自己の存在を根底から覆しかねない世界の不気味さが、とおーーーーーーくに仄見える洞窟の入口の、一歩手前どころか二歩も三歩も手前で、カメリは、別に、入らない。本気にならない。
ここがいい。
解説で森見登美彦が「理想的ボンヤリ屋さん」と書いている(し、本書の魅力は解説でしっかり表されているので素人が繰り返す必要はないのだ)が、そのへんがいいのだ。
ポストヒューマンにおいて、ヒトデナシたちがテレビの映像をもとにヒトの真似をする。
真似ることが嬉しい、ここに読み手は悲哀を感じざるを得ない、
だってそもそも人が神を真似ているのだから、とリドリー・スコットなら虚無的に描くだろうが、
いやまあ「レプリカメ」(模造亀)だしね、と脱力。
演技、再現、本物と偽物の実感、といった本気のテーマを、「ヒトはテレビの中に引っ越してしまった」という絶妙な世界観で表して、敢えて奥底まで探求しない。この塩梅。
あとは優しい言葉の掛け合い。これもいい。
「まあでもこれもよかったね」というフォローや、「おおおーいカメリ」と呼びかけてくれるとか、世界の素材たぶヒトデナシたちの優しさよ。
ここがまたいいんだけど、テレビの内容が地味に古いんだよな~。
世界中の老若男女に読んでもらいたいけれど、駄洒落を駆使した設定(カヌレ→「カエルみたいにヌレッとしている」はひどい!)も相俟って、主な読者は日本の中年になるだとう、と思っていたら、なんとテレビはモノクロだったと終盤に判明! 笑ってしまった。
ちなみに作者のツイッターによれば、「どろんころんど」「カメリ」「ヒトデの星」が泥世界3部作らしい。読みたい。すごい多作な作家なのだ。
また作者いわく「カメとヌートリア、ダブルヒロインによるポストヒューマン百合バディSFです。いや、ホントだってば」。
また「かめくんはカメの「ブレードランナー」、と憶えてください」とも。
ついでに先のポッドキャストの胴元さんいわく「ポストヒューマン造語駄洒落巨大怪獣百合ケモナーハードカメSF」!
そうそう、根底が駄洒落にあるのかハードSFにあるのか、ベクトルの起点が全然わからない感じも、いいのだ。
追記。
野阿梓が2000年代のSF小説のベストに、
冲方丁『マルドゥック・スクランブル』、佐藤亜紀『天使』、古川日出男『アラビアの夜の種族』、北野勇作『かめくん』、『山尾悠子作品集成』
を挙げているんだとか。
佐藤、山尾は納得だが、本書も並んでいるあたり、嬉しい。
以下に目次を示すが、各章のタイトルが、興味を催すと同時に、その章の端的なあらすじになっているのも、面白い。
とはいえ各話読み切りというよりは、前までの話が緩やかに繋がってきているあたりは、藤子・F・不二雄的歴史観かもしれない。
いやまったくいいものを読んだ。
■カメリ、リボンをもらう
■カメリ、行列に並ぶ
■カメリ、ハワイ旅行を当てる
■カメリ、エスカルゴを作る
■カメリ、テレビに出る
■カメリ、子守りをする
■カメリ、掘り出し物を探す
■カメリ、メトロで迷う
■カメリ、山があるから登る
■カメリ、海辺でバカンス
■カメリ、ツリーに飾られる
◇あとがきっぽいもの
◇解説 森見登美彦 -
Posted by ブクログ
妄想癖のあるようなタイプの読書家にのみ(ここ大事)オススメできる変な本。
文字数が少ないということは表現できることに大きく制限がかかるということ。そのため、何を言っているのかよく分からないというような文章になりがちなのにも関わらず、しっかりまとめられていてビビる。SFというジャンルもあって、サラッと読んでしまうと「何のこっちゃ??」となるのも仕方ない。じっくり読むべし。
この本は、自分なりの解釈を、余白にどんどん書き込んでいくのが面白い。はじめからそうすることを想定されているかのように余白が配置されているのもいい。「正しい解釈なんかどうでも良い、自分なりに解釈しながら楽しむのが読書だ!」なんて人には是非おすすめの一冊。個人的には、一話ごとに自分でタイトルをつけていくのが楽しかった。 -
Posted by ブクログ
さて困りました。これをどう紹介したらいいものか。そんなこと、言われたほうが困るとは思うのですが。内容が内容なので、説明がどうにも難儀である。でもとりあえず、何とかやってみようと思います。
というわけで、北野勇作著『100文字SF』。名は体を表す、読んで字のごとく、そのままずばりの内容で、著者がTwitterで綴ってきた(そして今もなお書き続けている)ほぼ100字の小説集です。
もとはといえば、キノブックスから『じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』という児童書のシリーズとして刊行されていましたが、担当編集者の退職を機に、方針の変更で打ち切りとなってしまったとのこと。
その後もTwitterでは投稿を続けつつ、やはり改めて書籍化したいという思いから、「興味のある方は連絡ください」と掲げていたところ、早川書房よりこうして、晴れて一冊にまとめられる運びとなったそう。
著者の北野勇作は、日本SF大賞受賞作の『かめくん』をはじめ、寡作ながらSF分野では定評あり。コミックエッセイ『年収150万円一家』(森川弘子)に登場する、夫のSF作家としてお馴染みの方もいるかも。
めでたく重版もされているという本書には、厳選された全200編が収録。現在も「#マイクロノベル」という呼称とハッシュタグで日々書き続けられる物語の数は、すでに2,000を超えているとか。
真っ白な表紙にイラストなし、文字オンリーの潔いデザイン。裏表紙のあらすじ文も、カバー見返しの著者プロフィールも、巻末の既刊・新刊紹介に、帯の推薦文まですべてほぼ100字という徹底ぶりに驚嘆。
つきましては、今回の紹介文も頭を捻りまして、「ほぼ100字」のパラグラフばかりで構成してみました。ぎりぎりまで削ることで濃厚に凝縮された、珠玉のSFエッセンスを、じっくり存分にお愉しみください。