解説の「何か・誰かを"選ぶ"とき、私たちの身に起きていることを極限まで解像度を高めて描写する」という表現がまさにこの作品を表していると思った。
前半の架パートにおける真実の傲慢さに気が付いていく場面は心がえぐられるようだった。無垢で恋愛経験の少ない女性の解像度が高すぎて、読むのがつらかった。真実自
...続きを読む身も「在庫処分のセールワゴン」の中にいるのに、結婚相談所で出会った男性に対して傲慢な気持ちで接しているところは、それが恋愛経験の乏しさによる客観的な視点の欠如からくるものだということが余計に残酷だった。一人目の金居さんも点数をつけるとしたら、いい大学を出て非常に行動力がある点などで、真実よりも点数が高いはずなのに、服がダサいという一点だけで断り、ましてやそんな金居さんを好きになれる人たちが羨ましいと思うのはとても傲慢だと思った。
一番印象的だったのは、架の女友達が真実の嘘を架に伝えるところだ。ここを読んでいるときはしんどくて明らかに心臓の鼓動が早くなった。そのなかでも美奈子の「自己評価が低いくせに、自己愛が半端ない」という言葉がクリティカルヒットした。自分では控えめな性格と言いつつ、インスタグラムでイタめの自撮りを載せ、自分に酔ったポエム的なことを書き、極めつけに彼氏の誕生日をアカウントの数字にする。言葉が悪くなるが、真実のインスタグラムは、今までモテてこなかった女性が、これまでひそかに劣等感を抱いていた「私たちと違う子」になれたことに対して舞い上がっているものとしてありありと想像できた。
また真実の元同僚の恵に話を聞く場面も印象的だった。最後の恵が泉ちゃんから正社員と誤解されたことにうれしさを感じていたことがうかがえる場面では、恵もまた狭い世界の優越感を誇っている「傲慢」な人であることがわかる。このような細かいところにも人間の醜い本性が垣間見れるのは辟易しつつも癖になる感じだった。
真実の善良なところも見ていられなかった。幼いころから母親に支配され、自分で人生の選択をしてこなかったから、自分で何も選べない。お泊りの時や面接で嘘がつけなかったり、空気の読めない発言をしたりと、誰に教わるものでもなく自然に身についていくものが身についておらず、それを大人になってから指摘されて困惑する真実の姿は、親のせいといえばそれまでだがみっともないと思った。真実の中にも親にすべてを決めてもらってきたから自分では何もできないとわかっていて自己評価は低くはあるが、その親にあなたは周りより優れているといわれてきたからこそ自己愛が強く、それが年齢を重ねてから歪んで発露する。適切な言葉かわからないが、本当にグロいと思った。
後半は前半のような読み応えこそなかったものの、最終的にハッピーエンドで終わってよかった。善良でと思っていた彼女の傲慢さを認め、傲慢だと思っていた彼氏の善良さに気づき、それでもなお一緒にいたいと思うことができるのは本当に素晴らしいことだと思った。