目の前の人に、念じた言葉を喋らせることができる不思議な力「腹話術」に目覚めたとある男性。
彼は、いま世間で注目を集め大きなうねりを生み出そうとしている一人の政治家を危険視し、「腹話術」の能力で近づこうとするが…………
全ての謎が分かりやすく明かされてスッキリするというタイプの話ではなく、読み終わっても「あれはどういうことだったんだろう?」というモヤモヤが残る。
突然の鳥の視点とこちらを見上げる潤也……という体験が一体何を意味するのか、バーのマスターの謎など、後半で明かされそうな気配もあったけど明確な種明かしはないまま。
想像や考察のし甲斐があると言えばそうだけど、2編ともどこか消化不良のような読後感が残る。
ただ、2005年に単行本で発行された本作は2026年の今読んでみても、現在の日本や世界の情勢を正確に描いているように見えるのが不思議。
中東情勢の不安定化や、憲法改正、首相が襲撃を受けるなんていうのがまさにそれだ。「はい論破」の論調にチクリと刺すようなシーンも。
作中には「腹話術」という特殊能力が登場するが、伊坂氏にも「未来視」のような何かが備わっているのではないかと思ってしまうほど。
もしくは我々の社会が20年前から何も変わってないのか……?という気すらする。
作中で自分にかなり刺さり気に入ったとある台詞があるのでここに残しておく。
「今、この国の国民はどういう人生を送っているか、知っているのか?テレビとパソコンの前に座り、そこに流れてくる情報や娯楽を次々と眺めているだけだ。死ぬまでの間、そうやってただ、漫然と生きている。食事も入浴も、仕事も恋愛も、すべて、こなすだけだ。無自覚に、無為に時間を費し、そのくせ、人生は短い、と嘆く。もっと言えば、まともに生活することもままならない人間が多すぎる。彼らは無料の娯楽で、毎日を過ごす。テレビとインターネットだ。豊富な情報と、単調な生活から生まれてくるのは、短絡的な発想や憎悪だけだ」
現代との違いと言えばパソコンがスマホに置き換わったくらいで、それ以外はまさしく現代の日本の様子をそのまま言い当てているように感じる。