行成薫のレビュー一覧
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かつ丼・カレー・ラーメン・パン…飲食店を営む人たちの心温まるエピソードがゆるりと繋がる短編集。前作『本日のメニューは。』に登場したお店や働く人のその後もちらりと覗える。
普段飲食店で何気なく注文して食べているメニューの裏にもきっと数々の試行錯誤があって。できたての料理を美味しく食べて欲しいという作る側の思いにハッとなった。忙しいとつい機械的に口に運んでしまうけど、一食一食を大切に食べないとダメだなぁと。
前作同様、登場人物がみんな優しくてあたたかくて、ゆるい繋がりだと思われたストーリーがラストで素敵な繋がりに変わる瞬間に感動。タイトルが活きる素晴らしい構成。
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年始に流行り病にかかって以降、味覚と嗅覚障害に悩まされ食欲不振に陥っていた中、食事を楽しむリハビリにと思って手に取った一冊。
おいしい!を前面に押し出す食事本ではなく、食べることの手前にある気持ちと作り手の熱い思いの交差するあたたかいお話ばかり。無理に感動させにくる感じではなく、それでも生活は続いていく…っていう温度感がすごくやさしくて良かった。
緩やかに登場人物がクロスする5つの連作短編の中で、特に『おむすび狂詩曲』が好きだった。おにぎり ではなく おむすび なのがポイント。
その単語だけで手で結ばれた丸いフォルムと湯気の残る温度感が脳裏に浮かぶし、ふっくらしたお米が頭の中でほどける感じが再生される。
味や食感をうまく感じられない中で読むのは思い出せるのに実感できないのがもどかしくもあったけど、味覚と食欲が戻ったら一番に誰かが握ってくれたおむすびが食べたいなぁと思えた。
料理の作り手にはそれぞれの拘りがあって、食材の質や見た目、味もコストももちろん大事で。でもそれだけが料理の魅力ではないと気付かせてくれた一冊。 -
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ネタバレ・エンドロールというと、黒い画面に白いフォントで出演者の名前がつらつらと流れてくるのに寂しい感じがする。それは、これまで華やかだった映画の世界から一転、単調的に流れてくるエンドロールの対比からくるものなのか。この作品は、フィルムカメラを通して物語を読んでいる、そんな感じがした。だから、全体的に乾燥してるような、寂しい感じがしたのかもしれない。
・書評にこの作品はハッピーエンドなのか、バッドエンドなのか、どちらとも言い切れないとあった。確かにそうだと思ったが、プロポーズ大作戦が成功したこと、マコトは天国でヨッチに指輪を渡せたことを考えるとハッピーエンドなのかと、、。 -
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春「YOLO」、夏「夏の鉄板前は地獄」、秋「サンクス・ギビング」、冬「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」の季節ごとの4編と、その間をつなぐおむすび屋さんの掌編からなる、ごはんに因んだ短編集。行成薫のごはん小説として3作品目らしいのだが、いきなり本作から読んでしまった。しかも、今の季節感からいって春って気分じゃないなぁと思って秋の話、「サンクス・ギビング」から読み始めてしまった。フランスのシェフ・クロエの手がけるオーベルジュの在り方と地方の人々との関わり合い方がとても良い。いい話だなぁと読み進めて、「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」の重さにびっくりした。小さな漁港で生きる冬美という女性の20代からの50年を遡る話。冬美が思っているように何もなかった人生ではなく、子はいなくともちゃんと次世代に繋ぐものがあった人生だったことが読み進めていくと分かる。最後まで読んで涙をぬぐい、春と夏の話を読むと温かさに和んだ。オムレツの話も海の家の鉄板の話もどちらもよかった!
前2作、「本日のメニューは。」と「できたてごはんを君に。」もいずれ読みたい。 -
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ネタバレかなり面白かったし、読後感もさわやか。だが、物語の作り方は「名もなき世界のエンドロール」と同じように色んな時間軸を行ったり来たりして少しずつ真相を読者に伝えていく。この作風が続くと、この作風しか書けないのか勘ぐってしまう。面白かったけど。。。
ミツルと成瀬と海斗がどういう経緯で今対峙することになっているのかが、次第に明かされていき、終盤はページをめくる手が止まらなかった。海斗は成瀬の策略にハマらないで欲しかったけど、成瀬は既に王様で、それに比べると海斗は普通の人ということだから、仕方ないのか。
友達のために命をかけるミツルの生き様は真似できないけど憧れる。青春時代を思い出す良い話だった。 -
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油の匂いにまみれた暖簾をくぐると、
そこには労働の汗が立ち昇っている。
飲食店は、作家にとって
市井の人々を味わい深く描く舞台装置だ。
皿の縁に残るソースの跡まで、
人生の伏線に見えてくることがある。
それは、意味を欲しがる人間の癖。
ちょっと面倒くさくて、でも愛らしい。
誰もが気づかぬまま、
その癖をそっと育ててきたのだ。
社会の片隅で、自分自身の物語を
静かに煮詰めながら。
意味なんて、あとから付いてくる。
作家とは、その「あとから」を
少しだけ先回りして拾う人たちだ。
そして読者は、その一杯の描写に
自分の物語の匂いを感じてしまう。 -
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ふわっとろの金白が、狐色のカツを
やさしく包み込む。
揚げたての衣は、サクッ…じゅわっ…
出汁を吸って、旨みの泉へと沈んでいく。
小ネギがパラパラッと彩りを添え、
湯気とともに立ち昇る三つ葉の香り。
ご飯のひと粒ひと粒に染みる幸せ──
あら、今日はカツ丼の気分じゃない?
うーん、じゃあ、やりなおし。
玉ねぎが飴色にとろけるころ、
鍋の中では静かに魔法がはじまる。
トマトの酸味と赤ワインの深みが出逢い、
牛肉は、ほろり…と崩れる柔らかさに。
黄金に輝くルゥが器に注がれる瞬間、
花束がほどけるように、
スパイスの芳香が鼻先に咲きこぼれる──
え?カレーでもない?
うーーーーん、ならこれは?
キラキラと透き通る黄金のスープ。
鶏ガラの旨みが湯気に溶け、
焦がし醤油の香りが鼻腔をくすぐる。
しなやかに泳ぐ中細麺は、
箸で持ち上げればツルリと艶めいて、
スープをまとって口元へ誘う。
味玉の黄身はとろりと崩れ、
焼豚の脂の甘みと炙りの香ばしさが
ひと噛みごとに景色を塗り替える。
メンマの歯ごたえがリズムを刻み、
ネギの清涼が風を通し、
海苔がふわりと香るころ、
もう誰も、レンゲを止められない!
これだ…!今日は醤油ラーメンにします♪
お〜い、いったいチミは
レビュー欄をなんだと思っとるのかね?
いいんです。私は、胃袋と相談しながら
人生を決める女。
え?近ごろ食欲ない?
なら、この本をレンゲ代わりにどうぞ♡ -
Posted by ブクログ
忙しい母が作ってくれる
お弁当の中身はいつも同じで、
内心、「またこれ?」って
うんざりしてた高校の頃。
友だちのお弁当は彩りが綺麗で
可愛くていいなって思ってた。
湯気に包まれて台所に立つ母の背中。
無骨で大きかった、あのお弁当箱。
年頃の女の子らしくない
ぎっしり詰められた白いご飯。
今ならあの重みが、
お腹をすかせないようにという
母の愛だったんだとわかる。
メンチカツ。卵焼き。
あとは昨夜の残りものが少し。
読みながら思い出して、
ふと、また食べたいなって思ったら
思いがけず目の奥が熱くなった。
今では、私が娘に卵焼きを焼く日々。
いつか、娘も思うのかしら。
「また食べたいな」って──
温かいご飯と人情が、
心の奥の空白をそっと満たしてくれる、
そんな素敵な作品です。