梁石日のレビュー一覧
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梁石日『新装版 血と骨 下』幻冬舎文庫。
再読。著者の実在の父親をモデルにした全体的にどんよりと澱んだ重たい雰囲気が漂う長編小説。
昔の父親は家長としての威厳を持ち、その代わりに必死に働き、家族のことを大切にしていた。そして、会社の中で出世を重ね、地位と権力を手に入れる。しかし、男というのは権力を持てば、酒や博奕、女性に走るという残念な生き物なのだ。
主人公の金俊平の余りにも自己中心的で恐ろしく凶暴な生き様は昔の父親像と重なる部分もありながら、随分と掛け離れた部分もある。朝鮮人と日本人との違いという訳ではないようだ。
余りにも惨めで、悲しい末路だ。家族を省みることなく、金だけを信じて、 -
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梁石日『新装版 血と骨 上』幻冬舎文庫。
再読。著者の実在の父親をモデルにした全体的にどんよりと澱んだ重たい雰囲気が漂う長編小説。ビートたけし主演で映画化もされているが、最初に読んだのはその前である。
余りにも自己中心的で恐ろしく凶暴な男の生き様とそんな男に翻弄されながらも必死に生きる家族の姿が描かれる。
在日朝鮮人という出自にあがらうかのように大酒を喰らい、狂ったように暴れ、家族を犠牲にしても何とも思わぬ男の愚かさよ。と思うのだが、程度の差こそあれ、自分も過去には散々馬鹿なことをして来たと反省すること仕切り。
1930年頃、東邦産業という大阪の蒲鉾工場で働く蒲鉾職人の金俊平。金俊平 -
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上巻に続き面白い。執筆されたのが随分前にも関わらず、かなり新鮮な小説(小説というか文学?)。というのも、とにかく話が淡々と進んでいく。「えっ?今のくだりはもう終わったの?」となる感じ。普通こういう進み方をすると退屈になってしまうのが私なのだが、これは全くの逆。起伏もないし大した伏線回収が無いのにここまで惹きつけられるのは、卓越したキャラクター設定のなされる技か。大阪が舞台設定というのも、大阪で生まれ育った私に分かりやすく、尚のこと血と骨の世界に入り込めたのかもしれない。戦前戦後の大阪を、金俊平を通して見ることができてとても良かったと思う。
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狂った現実を淡々と描いたこの作品の、登録人数の少なさに少し驚きつつ。戦争というひとつの大きな事柄への関心のなさが表れているようで、なんとなく焦る。
慰安婦問題。色々と問題になっているけれど、一度読んでみるのがいいと思う。その上で、自分の心がどう感じるか、どう考えるか。それが結論じゃないかなと。
本作はあくまでフィクションなんだけど、戦争という大きな流れ、人を人として扱わないことが日常化する狂った時代を描いたという点では、どこまでもノンフィクションに近いんだろうと思う。
慰安婦たちもさることながら、人間が駒のように、虫けらのように扱われる描写も、胸が痛い。そこには人権も尊厳も何も存在せず、あ -
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済州島で暮らす下級両班(富裕層)の18歳の春玉は親が決めた結婚に不安を抱いていた。それは夫となる男がまだ10歳の少年だったからだ。
両班の男性の冠礼式(成人式)は年々早まる傾向にあった。それは出世の階段を一日でも早く登らせるために、一日でも早く成人としての儀式を執り行うというためだったが、結果、肉体的にも精神的にもまだ幼い少年に嫁を迎えるという奇妙な習慣になった。
不安を抱きながら嫁いだ春玉に姑はつらく当たり、賄い婦のように見下す。頼りの夫は乳離れ出来ていない少年というだけでなく、母にべったりのマザコン。春玉には居場所がなかった…
その頃、済州島は日韓併合により日本の管轄下に置 -
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命より尊いものはない、とか、命はお金じゃ買えない、と戦後の日本人は教わってきたと思う。
でも貧困国ではそんなのは常識ではない。わずかなお金で子供を売ったり、人を殺したりする。自分の命は大事だが、人の命はお金で測る。
物語の舞台はタイ。貧困からわずかな金で子供をブローカーに売る親がいて、突然都会へと連れていかれる子供がいる。
子供は都会で売春をさせられる。まだ10歳ににも満たない年から、幼児性愛者の倒錯した性の相手をする。子供を買うのは先進国から来た旅行者。自らの性の欲求を満たすために、未成熟な子供に危険な行為をおこない、心身ともに破壊する。
親は子供が都会でいかがわしい仕事をさ -
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テツとガクの二人が。歌舞伎町で繰り広げる死闘。その姿にあの街のすさまじい姿と、無国籍性が浮き彫りになっていると言うことを確認して、非常に面白かったです。
これは先日読んでいた本です。相も変わらず歌舞伎町が部隊の作品を取り上げているんで読者の方もいい加減食傷気味でしょうが頑張って記事を書きます。この物語の主人公はテツとガクと言う通り名を持つ二人の在日韓国人なのですけど、僕が印象に残っているのはテツの愛人で抜群の肢体を持つオカマの通称、タマゴというキャラクターでした。彼女の存在感がひときわ際立っていて、主人公の二人を食ってしまっているなぁ、と言うのが読み終えた感想でした。
物語の最初のほうで -
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作者の自伝的な要素が強く含まれています。事業に失敗して仙台へと逃れた主人公がそこでも居場所を見出せずにもがくんですが、それが自分と重なりましてね。女性の部分を除いて。
この小説は著者の梁石日が事業に失敗して大阪を出奔して、仙台の親戚のところで暮らしていた時の事がおそらく下敷きになっているのでしょう。あらすじを簡単に書くと、主人公の朴秀生は事業を飛ばして大阪から仙台に出奔して義兄が経営する喫茶店の雇われマスターをしても、全く反省する様子がなく、金が出来れば、酒や「おねいちゃん」にのめりこんで散在する、そんな彼の彷徨する魂の行く先は…。という内容です。
まぁ、はっきりいって、ヒッジョーに爛れて -
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酷薄な現実を切り出して描くことにおいて、小説は優れたメディアだ。迫真力は映像メディアに軍配が上がるだろうが、小説はひとつのテーマを複眼的に浮き上がらせることが可能であり、多層的な時間軸でアプローチできることも強みだ。本書は小説の持つ武器をてんこ盛り状態にして、読者の眼前に悪夢を突きつけてくる。
本書のテーマ自体が誰しも目を背けたくなるものだということもあるが、著者の筆の力が禍々しさに物質感を加えていることは疑いない。
決して難解な小説ではなく短時間一気読みも可能と思われる。問題は最終ページを読み終えた後だろう。本書から受け渡された難問にどう向き合うべきなのか、それを考える時間のほうが読書時