平野啓一郎のレビュー一覧

  • 日蝕・一月物語

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    ネタバレ

    〈日蝕〉
    例えば、昼は夜があるからこそ存在する。
    生は死の訪れによって完結し「生涯」となる。
    物事は、自らと対をなすものによって定まるようだ。どちらか一方だけでは不完全なのだろう。
    だとすれば、男と女を兼備する存在は、完全性を体現したはずだ。しかし社会はこれを焚刑に処した。何やら示唆的であり、とても痛ましい。

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    2025年07月12日
  • 空白を満たしなさい(下)

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    後半が切ない... 小説で久しぶりに泣きました。
    自分の死期を悟って、残る大切な家族や知人のために何かすることって第三者から見ても胸が張り裂けそうな思いになります。
    平野さん、最後の一文がうまい...!徹生がどうなるのか断定的な描写はなく、読者の想像に任せる感じだと思いますが、言い切らないでくれたこと、書き切らないでくれたことにかなり救われました。

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    2025年06月14日
  • サロメ

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    ワイルドのサロメは、ギュスターブモロー展覧会で過去に福岡市美術館で開催されたときに絵を見ました。戯曲です。平野圭一郎さんが訳していて、三島由紀夫さんや渋沢竜彦さんも影響受けた作家のようです。内容は過激ですが、なぜこういう物語が書かれたのか考えてみたいと思います。本文より解説や注釈の方が多いのに驚きました。

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    2025年04月25日
  • 文明の憂鬱

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    20年以上前のエッセイだが、楽しめた。

    ソニーのAIBOとか、9.11同時多発テロとか、そんな頃の作品だが、話題の古さよりも、言い回しや説明の仕方、言語を用いて正確にかつできるだけフランクに伝えようとする姿勢が印象的。

    「鍵というものは、あのキザギザした複雑な形状に或る種の色気があって、それは聞より明かされてはならない等の錠の内部の秘密を精密になぞったものであるのだが、その錠の秘密こそは、奥に隠された錠に守られるべき秘密と直接に通ずるものであるのだから、鍵の形状は、いわば錠の奥に控える秘密そのものの内から銀った堅固なネガということになる。宝物を収めた箱の鍵であるならば、それは、宝物そのものの秘密の巧みな物質化である。女の部屋の鍵であるならば、彼女という秘密の、掌の内に握って収められるほどに凝縮された姿態である。鍵っ子の首に紐でぶら下がっているのは、小さな金属製の不在、誰もいない彼の家の空虚である。」

    「携帯覚話は、端的に言って恋愛の想像力を枯渇させ、それを随分と単純な直接的なものにし、更にはそこに至るまでの過程や別れといった本来かなり複雑な手続きを必要とする筈のものを大幅に簡略化し、或る意味では工夫を奪った。
    嘗ての恋愛に於いては、お互いに完全に一人であるという時間が多くあった。その間に様々な想像を巡らせることは出来たであろうし、文学が生まれる余地は、恐らくはその会わない時間の長さにこそ存していたであろう。」

    かっこいい。
    なお、あとがきによれば、これでも「文体は自ずと砕けたものとなった。語句や固有名詞の使用に関しても、小説の執筆に際してよりはずっと緩やかな基準で採択されている。」というのだから、驚き。

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    2025年04月14日
  • 空白を満たしなさい(上)

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    3/22 人が蘇るとか現実にはなさそうだけど、あったりするのか…?と思わせるようなリアリティある話で引き込まれた。

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    2025年04月14日
  • 葬送 第一部(下)

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    試験勉強のため暫し読書をやめていましたが、終了したらこの人から読もうと決めていたので…2025年の初めは平野さんからです。

    ショパンとサンドの関係は知ってはいたけれど、詳しくはなかった…小説なので…どこまでが、とも思うけれども、詳細な取材があってのことだと思うので、この物語りで語られるあり様から思うこと。

    ドラクロワの芸術論は、正直難しい…ただ、かれの描く絵画から、その性格であったり思想を読み解くと、当時の画壇では異端児的ない扱いでサロンでも悪評があったにも関わらず、ロマン主義の旗手として第一線で活躍し続けたこと、そして比類なき仕事量を思うに、やはり仕事に対する理想と、それに向かう情熱が抜きん出ていたのだなぁ…と改めて認識した。

    一方でショパンとの会話には、若者のような何気ない無邪気さがあり、正直で優しい言葉のやり取りが心地よかった。

    同じ結核を患い(確か、ドラクロワは結核性の咽頭炎を患ったと聞く)、病弱さゆえのもどかしさも共有していたからこそ、励まし合い、支え合うこともできたのかも知れない。

    今の時代であれば、こんな苦しみを抱えることもなく、治療してより長く活動できたのに…と、しても仕方のない想像をしてしまう。この時代に2人を呼び戻したい気がする…。


    に、しても、だ。。。

    サンドとは、何と矛盾した人間であろう!
    あの時代にあって、女性の自立を謳い、自らが夫の助け無しに生きていこうとする見本となりつつ、自身の子供には、まぁ、なんと愚かなことよ。。。

    世間体や風評を気にして、また被害妄想的な発想だったり…到底、考えられないような思い込みをしてまたり…所詮、そんなものかと、興ざめ。。。


    ワガママな娘しかり、弱腰で優柔不断な息子しかり…
    母性的な愛で包んだとされるショパンとの関係性は、自惚れ以外、何物でもないように思う。

    病弱、繊細、時にヒステリックで世間知らずな気難しく理想主義な芸術家…と扱いが難しいような散々なイメージをつけてショパンを貶すけれど、実のところ、自分の方が余程子供じみていて、下品に思えるわ。


    彼女は勇ましい女ではあれど、賢い母では無い…その矛盾が自身を苦しめ、周りも苦しめ、強いては愛してくれる人達を傷つけてゆく…そのことに気づかないとは…彼女を見ていると浅はかさにうんざり。。。


    ショパンが世に残る名曲の数々を残せたことは、確かに彼女のお陰でもあったのだろうが、この物語りを読む限り、むしろそれは一部に過ぎなくて、多分に、ショパン自身の魂の清らかさと、上品さ、感性のなせる所以であって、サンドの献身はさほどの影響は無い、いや、あってほしくない!と思わせるほどに、私はサンドのような人間は嫌いだ。。。

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    2025年03月09日
  • ドーン

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    分人思想についての本を読み、こちらを読んだ。
    「結局、なんの話だったんだろう」というのが正直なところ大雑把な感想。
    だけど、宇宙船内の様子などまんまコロナ禍の時に起こった事だ。
    密室に同じ人間が長時間いると軋轢が生まれるその様は、コロナ禍を体験した身からするととてつもないリアリティがあった。
    分人思想についても物語を通して理解が深まった。

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    2025年03月08日
  • 文明の憂鬱

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     芥川賞受賞作家、平野啓一郎の2000年頃の時事に対する随筆。流石に二十年以上も前のことなのでAIBOや狂牛病の問題など、些か古くはあったものの、気付けば忘れ去られていたことの中に、結局のところ何だったのかと、その本質も知ることがいかに難しく、またそういった物事に対して考えるということが、いかに大事なのかと知らされた。
     個人的には「錠と鍵とを巡るイメージ」、「新しい身体」などは共通点が垣間見えて興味深かった。しかし平野啓一郎は、こういった時事の随筆よりは小説の方が断然その表現力が圧倒していると思うのは私だけであろうか。

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    2025年02月12日
  • 透明な迷宮

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    ネタバレ

    不思議な話だったな。
    非現実的でふわふわした感じが村上春樹っぽいなと思った。



    「消えた蜜蜂」
    人間は自分が気にな物事の確証や反証を得るために、
    人生をかけるところがある。それを感じる話だった。

    Kは実家の養蜂場が廃業して、兄が出て行っちゃったことが悲しかったんじゃないのかなと思った。

    証拠不十分で敗訴になったこと、それ以降近隣住民が同情的だったこと全てが納得いかなくて、
    ずっと怒っていたんじゃないかな。

    はがきを真似して書いて、「クレームがこない」という事を体験することで、敗訴にした世間だったり同情的だった住民の無知を確認して自分を納得させているように感じた。

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    2025年01月08日
  • 本心 分冊版 プロローグ/第一章 <母>を作った事情

    購入済み

    語り口が昔っぽい

    作中にも言及しているように 三島由紀夫や川端康成が書いたような現代の日常では使わない言い回しが多用されている。しかし読者に与える印象は、三島のように鮮烈華麗でもなく川端のように凄みがあるわけでもない。この作者の文体からはやや沈んだ古風な印象を受ける。
    ストーリー展開はいま大流行しているAIや一昔前に流行したVRの近未来版でSFであることになる。テーマや展開は面白いのだが、文体がどうも馴染めない。

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    2024年12月04日
  • 空白を満たしなさい(上)

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    前半サスペンス要素強くどんどん読み進めたが、後半(下巻)ちょっと精神的な話がメインすぎてトーンダウンしてしまった。
    小説そのものの感想ではないが、分人思考という考え方は納得。父親が死にそうになったとき、あぁ娘としてはもう生きられないんだな、と感覚的に思った。
    友達にも、この人といると素直になれるという人がいる。
    本当の自分というより、厳密に言えば関わる人の数だけ分人がいるということだ。

    自分の価値観と自分が合致してると幸せ、みたいな文章がありなるほどと感じた。

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    2024年11月29日
  • サロメ

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    難しかった。
    サロメと首だけの知識で読み始めたが、比喩、詩的表現が続き物語が進むようで進まない。
    解説を読んでようやく理解できた。
    推理小説のようであり、大学の授業を思い出すようであり。

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    2024年11月10日
  • 高瀬川

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    読んでみて感じたのが、実験的な小説だなという
    印象でした。
    表題作の「高瀬川」は、ある男女の一夜を舞台に
    繰り広げられる生と性の物語です。
    物語の中で森鴎外の「高瀬川」が出てくるのですが、本作との共通点が見られるのか分からないが
    気になりました。
    「追憶」は言葉がバラバラに散りばめられいて、最初は意味が分からない印象だったが、ページを進むにつれて、文章がまとまっていくので、最後の
    ページでスッキリしました。

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    2024年11月04日
  • 日蝕・一月物語

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    芥川賞受賞作の「日蝕」よりも、もうひとつの「一月物語」の方がストーリーとしては面白かった。

    高子を貰い受けた坊主が山奥の庵で実際には何を行ったのかは、はっきりとは書いてないが、流れ的には、光源氏的生臭坊主なのかと思ってしまった。

    前半は、夏目漱石の「草枕」と雰囲気が似ていた。文体は当時読もうとして苦しんだ明治文語体風だし、場面設定も似た感じだし。

    二篇ともルビだらけなので、一頁あたり15行と空間がとってあって、その点は配慮があるつくりだった。

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    2024年10月08日
  • これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講

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    全体的に横文字が広く多く使われていた印象。
    それなのに文学代表の平野啓一郎さんの文章はスッと入るし、本人の半生を知れてファンとして棚ぼたでした。
    最後の人類学代表の山極寿一さんの話は為になった。猿になる前に村に定住しようかなと思った

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    2024年09月27日
  • 透明な迷宮

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    6篇が収められているんだけど、それぞれ設定がさまざまで、それぞれの文体がその時代を感じさせて、そういうテクニックは、すごいなーと思います。本のタイトル通り不穏な感じがまた怖いのであります

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    2024年08月21日
  • かたちだけの愛

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    美しさに翻弄され、いつのまにか誰もが愛してしまう久美。でも彼女にとっては相手の配慮より、相手の無我夢中の自己満足を通してでないと、信用できない。だからやたらと試してみたりする。
    このひとたちは、なんなの?と眉ひそめながら読み進める。幻痛、分人、そして愛。理解することは難しいです。でもこの文章はなんか沁みた!
    「彼はその金瘡のように眩しい光を放つ痛みに眩暈を感じた。そして全身に戦慄の波紋が幾重にも広がって交わり合うたびに鈴のような恍惚が響いた」
     すべての登場人物が甘美な悪夢を見ているようなそんな印象を残しました。

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    2024年07月30日
  • 透明な迷宮

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    不思議なお話。
    夢なのか、現実なのか、妄想なのか。
    短編集でありながら長編作読んだような重みがあった。

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    2024年07月14日
  • あなたが、いなかった、あなた

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    芸術家が、油絵か、彫刻か、はたまたインスタレーションか、映像作品か、自分が伝えたいことをいろんなフォーマットで試してる、みたいな、一冊。平野さんのこの実験を同じ次元で受け取れる人がいるのなら、2人の会話を盗み聞きしてみたい。

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    2024年07月12日
  • 「カッコいい」とは何か

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    ファッション誌のキャッチコピーみたいなタイトルですが、「かっこいい」という概念について論じた本です。

    意外にも、その歴史は浅く、戦後に作られた言葉だそうです。「人はどうあるべきか」という考えが、封建制や全体主義下とは異なり、個人に一定程度委ねられた結果、個人が憧憬の念を抱く対象が多様化し、その中で体感によって得た憧れを表す言葉として「かっこいい」が誕生したと書かれていました。

    大切なのは、かっこいい対象を決める「体感」も、社会からの影響を強く受けているということだと思います。戦前の様に統制的に押し付けられるものではないにしても、社会の雰囲気、近しい人達の状況、企業のマーケティング等によって、自身の「かっこいい」が左右されることも珍しくなく、意図しない方向に扇動されることがないように、また自身がどのようは考えを持っているか内省するために、何故それを「かっこいい」と感じたかについて、可能な限り言語化しようとする試みは、常に必要なのだと思いました。

    戦後の音楽、ファッション、アートの変遷についても多くの紙面を割いており、(私とは違い、)興味のある人は、その部分も楽しめるのではないでしょうか。

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    2024年06月24日