平野啓一郎のレビュー一覧
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ネタバレソランジュとクレザンジェの結婚からサンド夫人との決別に至るまでテンポよく物語が進んでいく。
クレザンジェの策略成功のために奔走する様は彼の感情の浮き沈みも相まって面白かった。
この下巻で気がついたのは以下の3点。
①ソランジュの許嫁であったプレオーについて、サンド夫人がその「潔さと未練との入り交じった」「誤字だらけの文章を綴って」きた彼を「娘婿に迎えるのはいかにももの足らぬ青年だった」と断じているシーン。フランス人が(日本人でもそうかもしれないが)言語を大切にし、その扱い方によって人を見てその人となりを判断しているということを表した部分だと思った。上流階級に属し、さらに自身が作家である -
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ネタバレ『葬送 第一部 上』
音楽家・ショパンと画家・ドラクロワを取り巻く人々の物語。
ショパンの葬式から始まり、そこに至るまでの3年間に何が起こるのかが気になり読み進めていく。
第一部の上巻は人物説明・描写も多めにとられている印象であるため、少し進みが重たい感じもしたが、後半から徐々に物語に動きが出てきた。
心に引っかかったのは主にドラクロワの言葉。
「(アングル派の絵を指して)絵の中にはある奇妙な時間が流れている。たるんだ時間とも言うべき時間がね。」
これはいかに自分自身が絵画を描くために生き生きと情景を捉え、表現しているかを説いている場面。
「(今の若い画家を指して)絵は決して語ら -
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人類初の有人火星探査を成功させた主人公が隠す火星探査の2年で起こった出来事が徐々に解き明かされ、その出来事が近日行われるアメリカ大統領選に影響を与える、みたいな話。
僕らが暮らす現実世界で、接する人毎に対応の仕方を変えるように(一部の人は裏表無い人柄という評価のもと清廉潔白な顔をして自己をどこに対しても通す狂人がいるけれど)、この物語では自分の姿形や性格さえも手術によって自在に変化させることができるみたい。すごい。
SF小説でよく思うのは著者がイメージする近未来的な世界、特に今ない技術を読者が正しくイメージして物語を読むことができるかが重要だよなァ、っていうことで、これはものによって結構難儀 -
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単なるバラバラ殺人を扱ったミステリーにはしたくないというような作者の強い拘りがあって、主人公のエリート、崇に小難しい事を語らせているのだろうが、崇の頭の中の描写とそれ以外のレベルの高低差が大きく、こちらの、先を読み進めたい気持ちと、崇の言わんとする事をキャッチしたい気持ちが噛み合わず、せっかくの面白さが減ってしまったように思った。
赦し、死刑、ネット社会、今にも決壊しそうな人間関係、マスコミのあり方、捜査の仕方など、扱っているテーマはよくあるものだった。となると、やはり崇の存在が、同じようなテーマを扱う小説と一線を画しており、彼の考察は必要となるのだろうか。
最も印象に残り、共感でき -
ネタバレ 購入済み
アイデンティティを揺がす一作
「ある男」というタイトルは不確かな人物を指す筈だ。そんな曖昧で内容がなかなか見えてこないタイトルが故に「ある男」とはどんな奴だ?と気になり、さらには映画化も決まっているということで手にとってみた。
「ある男」というのは奴のことを差しているのだと思うが、正直なところ、その「ある男」は特別何か光って見えるとかそんなものではなく、日常のどこかに溶け込んでいるような平凡な人物であったなぁというのが私の受けた印象。
ではなぜ奴を「ある男」と呼んでいるかというと、名前を偽って生きてきていたからだ。
奴がしていたように、もし私の妻が名前を偽って、さらには戸籍を他人と交換して生きてきたのだとしたら私はどう思う -
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「カッコいい」をその語源、語感、語用の変遷から、類語から掘り下げて考察。クール、男らしさ、ヒップ。しびれる感覚。ここまで、こだわって論が展開されると、どうも著者と対話したくなり、自らの思考がノイズとなる。これは私の悪い癖であるが…。
例えば、「カッコいい」とは、そのタイミングの価値観に基づく妄念。つまり思い込みであり、一年前のデザイナーシャツが時代遅れでカッコ悪くなる事もあり得る。更に、他者から承認を期待した相対的な物であり、絶対的価値観ではない。自覚する自己を引き上げ、投影する自己における理想の姿こそが、自らのカッコ良さであり、言い換えるなら、承認欲求の期待だ。自己がそれを成し得ない場合、 -
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オムニバス形式。
大切な人を亡くして悲しいときに、自分自身と死者にどう向き合うかという視点と、
悲しみの真っ只中にいる他人とどう関わるのかという視点があると感じた。
宇多田ヒカルの「夕凪」という曲の原題は「Ghost」なのだが、あの曲の理解が少し深まった気がする。私は悲しいことがあったとき、「夕凪」を聴けなくなったため、本を読めなくなったエピソードに共感を覚えた。今まさに自分で物語を書いているから本が読めないのなら、あの曲が聴けなくなったのはその時まさに自分で言葉を書き連ねていたか、詠っていたからなんだと思った。
もっと深く話を聞き進めたいところで章が終わる。共著者の本を読みたくなった。 -
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第二分冊となるこの巻では、ショパンの愛人であるジョルジュ・サンドの娘ソランジュと、彫刻家のオーギュスト・クレザンジェの結婚の前後の話となっています。
自分の利益を追求するクレザンジェが舞台回しの役を担い、ジョルジュ・サンドとソランジュの母娘の決裂と、サンドとショパンの破局がもたらされることになります。前巻にくらべると重厚な芸術談義などは控えめになっており、ストーリーそのものをたのしんで読むことができました。
最後は、ドラクロワがリュクサンブール宮の天井画を完成させる場面がえがかれています。「人生は短く、芸術は永遠である」というのはしばしば語られる箴言ですが、その運命を一身に引き受けることに -
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ネタバレえすえふ、のようでえすえふじゃないのかな、と思ったんだけど結局やっぱりSFなんだろうな…カテゴリは恋愛小説にしたけど←
SFとしてはリアル志向の拡張型。火星探査船、サイボーグ蚊(笑)、《散影/divisuals=相互監視装置》に《プラネット/plan-net=無領土国家》などなど設定も盛り沢山で、そのあたり挑戦的でいいなぁと思います。
相互監視、という表現をしたけど字面とは少し違って、万人がアクセス出来る監視カメラネットワーク、みたいなものなのだけれどこれは、こんなにすんなり受け入れられるものだろうか、という感じは少し。
一部の層にだけ閲覧が許可されているから反感が生まれる、という理