平野啓一郎のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
20年以上前のエッセイだが、楽しめた。
ソニーのAIBOとか、9.11同時多発テロとか、そんな頃の作品だが、話題の古さよりも、言い回しや説明の仕方、言語を用いて正確にかつできるだけフランクに伝えようとする姿勢が印象的。
「鍵というものは、あのキザギザした複雑な形状に或る種の色気があって、それは聞より明かされてはならない等の錠の内部の秘密を精密になぞったものであるのだが、その錠の秘密こそは、奥に隠された錠に守られるべき秘密と直接に通ずるものであるのだから、鍵の形状は、いわば錠の奥に控える秘密そのものの内から銀った堅固なネガということになる。宝物を収めた箱の鍵であるならば、それは、宝物そのものの秘密の巧みな物質化である。女の部屋の鍵であるならば、彼女という秘密の、掌の内に握って収められるほどに凝縮された姿態である。鍵っ子の首に紐でぶら下がっているのは、小さな金属製の不在、誰もいない彼の家の空虚である。」
「携帯覚話は、端的に言って恋愛の想像力を枯渇させ、それを随分と単純な直接的なものにし、更にはそこに至るまでの過程や別れといった本来かなり複雑な手続きを必要とする筈のものを大幅に簡略化し、或る意味では工夫を奪った。
嘗ての恋愛に於いては、お互いに完全に一人であるという時間が多くあった。その間に様々な想像を巡らせることは出来たであろうし、文学が生まれる余地は、恐らくはその会わない時間の長さにこそ存していたであろう。」
かっこいい。
なお、あとがきによれば、これでも「文体は自ずと砕けたものとなった。語句や固有名詞の使用に関しても、小説の執筆に際してよりはずっと緩やかな基準で採択されている。」というのだから、驚き。 -
Posted by ブクログ
試験勉強のため暫し読書をやめていましたが、終了したらこの人から読もうと決めていたので…2025年の初めは平野さんからです。
ショパンとサンドの関係は知ってはいたけれど、詳しくはなかった…小説なので…どこまでが、とも思うけれども、詳細な取材があってのことだと思うので、この物語りで語られるあり様から思うこと。
ドラクロワの芸術論は、正直難しい…ただ、かれの描く絵画から、その性格であったり思想を読み解くと、当時の画壇では異端児的ない扱いでサロンでも悪評があったにも関わらず、ロマン主義の旗手として第一線で活躍し続けたこと、そして比類なき仕事量を思うに、やはり仕事に対する理想と、それに向かう情熱が抜きん出ていたのだなぁ…と改めて認識した。
一方でショパンとの会話には、若者のような何気ない無邪気さがあり、正直で優しい言葉のやり取りが心地よかった。
同じ結核を患い(確か、ドラクロワは結核性の咽頭炎を患ったと聞く)、病弱さゆえのもどかしさも共有していたからこそ、励まし合い、支え合うこともできたのかも知れない。
今の時代であれば、こんな苦しみを抱えることもなく、治療してより長く活動できたのに…と、しても仕方のない想像をしてしまう。この時代に2人を呼び戻したい気がする…。
に、しても、だ。。。
サンドとは、何と矛盾した人間であろう!
あの時代にあって、女性の自立を謳い、自らが夫の助け無しに生きていこうとする見本となりつつ、自身の子供には、まぁ、なんと愚かなことよ。。。
世間体や風評を気にして、また被害妄想的な発想だったり…到底、考えられないような思い込みをしてまたり…所詮、そんなものかと、興ざめ。。。
ワガママな娘しかり、弱腰で優柔不断な息子しかり…
母性的な愛で包んだとされるショパンとの関係性は、自惚れ以外、何物でもないように思う。
病弱、繊細、時にヒステリックで世間知らずな気難しく理想主義な芸術家…と扱いが難しいような散々なイメージをつけてショパンを貶すけれど、実のところ、自分の方が余程子供じみていて、下品に思えるわ。
彼女は勇ましい女ではあれど、賢い母では無い…その矛盾が自身を苦しめ、周りも苦しめ、強いては愛してくれる人達を傷つけてゆく…そのことに気づかないとは…彼女を見ていると浅はかさにうんざり。。。
ショパンが世に残る名曲の数々を残せたことは、確かに彼女のお陰でもあったのだろうが、この物語りを読む限り、むしろそれは一部に過ぎなくて、多分に、ショパン自身の魂の清らかさと、上品さ、感性のなせる所以であって、サンドの献身はさほどの影響は無い、いや、あってほしくない!と思わせるほどに、私はサンドのような人間は嫌いだ。。。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ不思議な話だったな。
非現実的でふわふわした感じが村上春樹っぽいなと思った。
「消えた蜜蜂」
人間は自分が気にな物事の確証や反証を得るために、
人生をかけるところがある。それを感じる話だった。
Kは実家の養蜂場が廃業して、兄が出て行っちゃったことが悲しかったんじゃないのかなと思った。
証拠不十分で敗訴になったこと、それ以降近隣住民が同情的だったこと全てが納得いかなくて、
ずっと怒っていたんじゃないかな。
はがきを真似して書いて、「クレームがこない」という事を体験することで、敗訴にした世間だったり同情的だった住民の無知を確認して自分を納得させているように感じた。 -
購入済み
語り口が昔っぽい
作中にも言及しているように 三島由紀夫や川端康成が書いたような現代の日常では使わない言い回しが多用されている。しかし読者に与える印象は、三島のように鮮烈華麗でもなく川端のように凄みがあるわけでもない。この作者の文体からはやや沈んだ古風な印象を受ける。
ストーリー展開はいま大流行しているAIや一昔前に流行したVRの近未来版でSFであることになる。テーマや展開は面白いのだが、文体がどうも馴染めない。 -
Posted by ブクログ
ファッション誌のキャッチコピーみたいなタイトルですが、「かっこいい」という概念について論じた本です。
意外にも、その歴史は浅く、戦後に作られた言葉だそうです。「人はどうあるべきか」という考えが、封建制や全体主義下とは異なり、個人に一定程度委ねられた結果、個人が憧憬の念を抱く対象が多様化し、その中で体感によって得た憧れを表す言葉として「かっこいい」が誕生したと書かれていました。
大切なのは、かっこいい対象を決める「体感」も、社会からの影響を強く受けているということだと思います。戦前の様に統制的に押し付けられるものではないにしても、社会の雰囲気、近しい人達の状況、企業のマーケティング等によって、自身の「かっこいい」が左右されることも珍しくなく、意図しない方向に扇動されることがないように、また自身がどのようは考えを持っているか内省するために、何故それを「かっこいい」と感じたかについて、可能な限り言語化しようとする試みは、常に必要なのだと思いました。
戦後の音楽、ファッション、アートの変遷についても多くの紙面を割いており、(私とは違い、)興味のある人は、その部分も楽しめるのではないでしょうか。