杉本苑子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
上巻を読み始めた先月からずっと、日常生活を送りながらも頭と心の一部は平安時代に行っちゃってたので、読み終えてからしばらくの間放心状態だった。すぐ現実に戻れなくて、戻りたくない気持ちもあって。ラストがあまりにも寂しくて涙が出た。
本作は紫式部の物語ではあるが、紫式部一家の、家族の物語でもある。そして天皇家や中ノ関白家はもちろん、複雑な藤原家一族どうしの関係の中で、それぞれが恋をしたり出仕したり、自分や家族の出世に喜び喜ばれ、妬み妬まれ、持ち上げられ蹴落とされ、多くの人が死に、生まれ、さまざまな人生が交錯してゆく。
〈本質的には現代人と変らぬ生き身の人間として、登場人物を描くことにつとめた〉と -
Posted by ブクログ
ネタバレ読んで30年以上経つのに、未だに折に触れて思い出す。(本筋とは全く絡みません…)
主人公である宮永直樹の隣人・弥平次には、居候がいる。妹を騙して死なせた男の瞼に、弥平次は「くろす」を刺青したのだ。キリシタン禁制のご時世、外へ出られなくなった男。閉じ込められている訳でもないのに、自害する心意気もなく、1日2つ与えられる握り飯で命尽きる日を待つだけ。
お屋敷暮らしで端の一室に置いてる…とかってんじゃない。職人暮らしの狭い空間で、四六時中憎悪の対象の気配、どうかするとその体温を感じるように接している生活。
妹が喜ぶ訳でもましてや帰って来る訳でもないのに。そこまでエネルギーを、自分の人生を注力するか -
Posted by ブクログ
平田が幕府からの短文による命に打ちのめされたのに始まり、また「もう自分はこれで自分は人生を終えるのだ」と悟る情景が続くように、
「武士としての心意気や絶望」や「幕府(あるいは村役)との折衝・勝負」が生々しくつづられている。一方で、美濃の地域の人々を想う様子も随所に描かれ、しかし他方で故郷である薩摩を想う(寂しく思う)様子も十分に記述されている。平時の戦との表現も印象的。感情に満ち、時代背景にも満ちた、とても充実した一冊を終えての読後感に浸っている。
今にして思えば、平田の「もう人生は終わり」との最初の思い(あきらめ)は、ある種の伏線だったのだなぁ。
(上巻にもほぼ共通したレビュー) -
Posted by ブクログ
(昔書いた感想を引っ張ってこようシリーズ)
これはついこないだもちょろっと書いたような気がするけど・・・。
BL、つかジュネ!!って感じの少年愛小説なんですけど(・・・)、歌舞伎役者の九代目市川団十郎が主人公。この団十郎がものすごい美少年っぷり。
イメージとしてはすごい山岸凉子っぽい。「神隠し」て読み切りの美少年くんみたいな感じ。水も滴る美少年。線が細くて骨ばってて性格もどこか思いつめたとこがあって、何をしでかすか分からない危うさを秘めている、ってな感じ?
まあ、そんな美少年くんが仇持ちの浪人への破滅的な愛にのめり込んでまっしぐらってな話です。
しかしこの団十郎がけなげでけなげで泣けてくるわ! -
Posted by ブクログ
サブタイトルにあるとおり、紫式部の物語。上巻568ページ、下巻498ページという長編。
紫式部の名前は、この作品では小市。姉は大市、弟は薬師麿(元服後は惟規)。
7歳の小市が、5歳の弟とともに、乳母と17歳の叔母の周防に連れられて、墓参りに行くところから始まる。
そして、27歳になった小市が、越前守に任ぜられた父為時について越前へと旅立とうとしている、ここまでが上巻。
はじめのうちは、父為時の世代を中心に、おじやおばを通してさまざまな人間関係が描かれており、小市の生活環境や立場などがよくわかる。もちろん、天皇やその周囲、兼家をはじめとする中ノ関白家なども描かれつつ、小市の成長につれて小 -
Posted by ブクログ
江戸の町で、増えてあふれるゴミと、そのゴミに翻弄される人たちのアンソロジー。
ある日、12両という大金を道端で見つけ、それをぬか味噌桶に隠したは良いものの、父の危篤で呼び出され一ヶ月戻れない。心配なぬか味噌は、帰宅したら虫がわき、もうすでに桶ごとゴミ屋が運んでしまっていた…。
有名な作家だけど、歴史者や時代物が苦手なので敬遠していた。本作に関しては、注目される主人公と、その周辺という描き方の作品が多く、時代物を苦手とするワタシにも読みやすいものが多かった。
中盤以降、奉行所だの謎の会社だのが入り乱れての、タイトル通りの「大戦争」的なはなしがあるのだが、あれこれ説明が多い割に、話は単調単純