あらすじ
大名題の家に生れ、類いまれな美貌で“江戸の華”と謳われた八代目団十郎。しかし彼は、肉親との葛藤に悩み、芝居町を弾圧するご政道に不安をつのらせ、ついに仇持ちの浪人宮永直樹への破滅的な愛にのめり込む。謎の死に至る団十郎の伝説的な生涯を、江戸歌舞伎を背景に描いた、初期の代表的長編小説。
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Posted by ブクログ
読んで30年以上経つのに、未だに折に触れて思い出す。(本筋とは全く絡みません…)
主人公である宮永直樹の隣人・弥平次には、居候がいる。妹を騙して死なせた男の瞼に、弥平次は「くろす」を刺青したのだ。キリシタン禁制のご時世、外へ出られなくなった男。閉じ込められている訳でもないのに、自害する心意気もなく、1日2つ与えられる握り飯で命尽きる日を待つだけ。
お屋敷暮らしで端の一室に置いてる…とかってんじゃない。職人暮らしの狭い空間で、四六時中憎悪の対象の気配、どうかするとその体温を感じるように接している生活。
妹が喜ぶ訳でもましてや帰って来る訳でもないのに。そこまでエネルギーを、自分の人生を注力するか。憎悪というよりは、もはや情熱に近い。ストックホルム症候群が生じるでもなく、弥平次の一生を蝕む、なんて暗い情熱。逃亡も折檻もなく、無為に時が流れていくだけ。どんなメンタルが二人を支えてるんだ、一体?
こういう隣家を看過するってエピソードも、宮永の横顔に厚みを持たせていたんだって今更ながら気づく、今日この頃。
Posted by ブクログ
若くして自殺した美貌の八世市川団十郎の破滅的な恋の苦悩と悦楽。恋人は仇持ちの浪人。・・・辛いけど最高に面白いよ。
杉本苑子の本がほとんど絶版なのは本当に悲しい。
Posted by ブクログ
(昔書いた感想を引っ張ってこようシリーズ)
これはついこないだもちょろっと書いたような気がするけど・・・。
BL、つかジュネ!!って感じの少年愛小説なんですけど(・・・)、歌舞伎役者の九代目市川団十郎が主人公。この団十郎がものすごい美少年っぷり。
イメージとしてはすごい山岸凉子っぽい。「神隠し」て読み切りの美少年くんみたいな感じ。水も滴る美少年。線が細くて骨ばってて性格もどこか思いつめたとこがあって、何をしでかすか分からない危うさを秘めている、ってな感じ?
まあ、そんな美少年くんが仇持ちの浪人への破滅的な愛にのめり込んでまっしぐらってな話です。
しかしこの団十郎がけなげでけなげで泣けてくるわ!しかもツンケンした人かと思いきや結構他の人の心配まで焼いてたりしていい人だったりもして、かわゆさに身悶える。相手の男がムカつく(笑)もっと大事にせんかい!!
本当に、本当に、本当に、団十郎ちゃんかわいいので!ホモ好き腐女子は是非読むように。ムダに歌舞伎の知識も身に付くぞ(笑)
Posted by ブクログ
八代目団十郎の死とその周辺の梨園のどろどろを描いた長編。今も引き継がれてる名が沢山出てきて今見るとどきどきします…
八代目の自殺は謎らしいんですが創作としても十分読み応えあります。女性向けですね。少年時代の八代目(当時海老蔵)の女王様っぷりにときめく…!
Posted by ブクログ
大名題の家に生まれ、類まれな美貌で“江戸の華”と謳われた八代目市川団十郎。
その華やかな外見とは裏腹に、団十郎は肉親との葛藤に悩み、芝居町を弾圧するご政道(遠山の金さん出てくる!)に不安をつのらせ、ついには仇持ちの浪人・宮永直樹への破滅的な愛にのめりこむ。
江戸歌舞伎の舞台を背景に、謎の死に至る団十郎の伝説的な悲劇を細やかに描いた長編作品。
葬儀へ向かう団十郎を見て、「八代目・・・、きれいね」とため息をもらす女たちに向って、(あれはわたしのものだ!)と声にならない叫びを全身にめぐらす宮永先生。
団十郎を裸にして、「うつくしい」「いつか必ず二人の仲は壊れる・・・そう予感しながらこのうつくしいものをわたしは傷つけた」とうめく宮永先生。
「団十郎」「団十郎・・・」と二度くり返し息を引き取る宮永先生。
いやー、宮永先生に大注目してしまいました。
しかし昭和44年にこれが刊行されちゃうのがすごいわ。
(現代ならBLと呼ばれてしまう事でしょう)
でもきちんと大名題たちの事も書き分けられていて、読んでてとてもおもしろかったです。
成田屋・高麗屋・音羽屋はもちろん、その妻・妾・子どもたち。下っ端の駒三や宮永先生の隣に住む弥平次、先生の妹(実は娘)小菊。それぞれの登場人物の人生を、事細かに見せられているような、そんな重みがある作品でした。