山本一力のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
『損料屋喜八郎始末控え』シリーズ2作目は5編からなる連作。再読。
* * * * *
1作目より更に趣向が凝らされ、楽しませてくれる作品に仕上がっていました。
前半3編の中心は定番どおり喜八郎の活躍なのですが、伊勢屋については人間味溢れる意外な横顔も描かれていて、シリーズの奥行きを広げてくれていました。
特筆すべきは後半2編です。
まず、喜八郎と伊勢屋という知恵者が騙りに遭う「逃げ水」。首謀者はなんと江戸所払いとなった笠倉屋でした。おまけに笠倉屋本人は最後まで姿を現さず書状のみの登場で、意趣返しというよりピリッと辛い無沙汰の挨拶という設定が、全くもってシャレていました。
そして、最終話「初雪だるま」が秀逸でした。
喜八郎と秀弥以外のレギュラー陣が手を組み、恋には奥手な2人を取り持つという内容で、実にいい年になりそうなエンディングとなっています。
2作目にしてシリーズ完結かと思わせるほどの出来栄えでした。満足しました。 -
Posted by ブクログ
『損料屋喜八郎始末控え』シリーズ第1作。深川で小さな損料屋を営む喜八郎が、真っ当に生きる人たちの暮らしを守る姿を描く経済時代小説。4編からなる連作。再読。
* * * * *
田沼バブル経済と定信緊縮財政。真逆の政治体制に翻弄される江戸が舞台です。
そして主人公は、深川で損料屋を営む元同心の喜八郎という男。この喜八郎が実に魅力的。
損料屋の規模は小さいものの、優れた洞察力と抜群の経営センスで大店の札差たちと互角以上に渡り合い、真っ当に生きる江戸の庶民たちの暮らしを守ろうとする喜八郎が、なんとも粋でカッコイイんです。
やはり何度読んでもおもしろい! シリーズ化が納得できるほどの出来栄えで、一力節の本領が存分に発揮された名作です。 -
Posted by ブクログ
内容(「BOOK」データベースより)
深川の老舗大店・桔梗屋のあるじ太兵衛と賭場の貸元・霊巌寺の猪之吉は偶然に出会う。ひとの目利きに厳しい太兵衛は、猪之吉の人柄を感じ取り、一献お付き合い願いたいと申し出た。大店のあるじと貸元の、肚をわった五分の付き合いが始まった。そんなある日、油問屋・鎌倉屋鉦左衛門による桔梗屋乗っ取りの企みが明らかになる。重い病を患う太兵衛は、桔梗屋の後見を猪之吉に託し、息を引き取る。やがて桔梗屋をめぐり、鎌倉屋の意を受けた乗っ取り屋一味と、猪之吉一党との知力と死力を尽くした闘いが始まるが…。直木賞作家の人情味あふれる時代長篇。
令和2年1月16日~19日 -
Posted by ブクログ
何気なく眼に留めて入手し…読み始めてみて…頁を繰る毎に、この一冊に出会えたことを感謝してみたくなった…素敵な作品だった!!
「カズサビーチ」というのは、日本に来航した外国船の船長が「あそこは?」と尋ねて「上総」という回答を得たことから、船が接近した辺りを「カズサビーチ」と呼び習わして、航海日誌にそういう表現で記した…ということで登場した名前である。
物語は、鯨漁と鯨油の採集を行いながら遥かな日本海を目指す<マンハッタン>の旅と、「遭難者は最優先で助けるべきである」という船長のクーパーの信条―海難で同じく捕鯨船の船長だった父を失った過去にも触れられている…―の故に2隻の日本船の人達を救助した様子や、救助した22名の日本人を送り届ける顛末が主にクーパー達の目線で描かれ、時々救助された日本人達の側の目線で進む話しや、過去の経過に関する挿話が入って来るというような形で進行する。
困難な操業や長い航海に向き合う高潔な男、<マンハッタン>の乗員や業界関係者、更に街の人達にも敬意を払われる男という感のクーパーが、更に<マンハッタン>に乗り合わせた乗員達が、異なる文化の下ながら、彼と同じ海の仕事に携わる男達や、折り目正しく高い矜持を有するサムライ達に出会う。
“アジア系”、“欧州系”、“アフリカ系”というような意味ではない、「同じ人種」が思わぬ形で交わることとなったという出来事だったのかもしれない。危険も伴う仕事に真摯に誇りを持って臨み、出くわした人達に心を開こうとするような種類の人達どうしが邂逅したというような出来事として、<マンハッタン>による遭難者救助の一件が本作では伝えられていると思う。
本作の何れの部分も、「鮮やかな映像」が思い浮かぶような、美しい場面に溢れている。作中で様々な出来事が起こった時の情景、クーパー達が眼にした日本の沿岸の様子や、日本の港に入ることになった時に眼にすることになった様子など、情景の描写が好い。そして作中人物達が動く様子、偶々出くわした異文化に驚く日米双方の人達の様子等、なかなかに面白い。<マンハッタン>の乗組員達と助けられた日本人達が交歓する場面では、笑い声や歌声が聞こえて来そうだ…
手頃な、読み易い分量ながら、非常に濃い中身で同時に愉しい。クーパーの率いる<マンハッタン>が日本海を目指して大航海をしていたような時代を想えば、現代は何処へ行くのももっと速く簡単で、異なる文物を巡る情報も余る程に在る。そういう中だからこそ「出くわした人達に心を開こうとするような種類の人達どうしが邂逅したというような出来事」という、この『カズサビーチ』の物語は尊いのかもしれない。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ評価は5.
内容(BOOKデーターベース)
希望を胸に身一つで上方から江戸へ下った豆腐職人の永吉。己の技量一筋に生きる永吉を支えるおふみ。やがて夫婦となった二人は、京と江戸との味覚の違いに悩みながらもやっと表通りに店を構える。明るく気丈なおふみの支えで、様々な困難を乗り越えながら、なんとか光が差してきた。やがて、ふたりは三人の子に恵まれる。あるときから、おふみはなぜか長男の栄太郎ばかりを可愛がるようになる。そして、一家にやがて暗い影が・・・。親子二代にわたって人情の機微を描ききった、第126回直木賞受賞の傑作時代小説。
2世代に渡っての話なので、少しずつ話が薄くなってしまうのは仕方ないか。母長男の関係に最後まで苛ついた・・・程のめり込んで読んだ。 -
Posted by ブクログ
☆5つはちょっと甘いかなと思いつつ・・・。
山本さんは2作目。前作「損料屋喜八郎始末控え」の感想に「これがデビュー作ですから、その後を期待したいと思います。」などとえらそうに書いてしまいましたが、いやはや期待を裏切らない出来です。乙川優三郎氏を押さえての直木賞受賞作というのが充分頷ける作品です。
実は中盤で少し破綻した感じがありまして、ややヒヤヒヤしたのです。母親の溺愛。それに対する長男の反発と逃避。このまま行くと物語が壊れるのではないかと。しかし、最期に綺麗にまとめられています。山本周五郎や藤沢周平のうまさには敵わないかもしれませんが、これはこれで一力節と言っていいような気がします。
今後がますます楽しみです。