ネクラ人間の魂を揺さぶるすごい小説。17歳の賢三たちに嫉妬してしまって、途中からなんだか読んでて辛かった。この小説は底辺の人間でもそれぞれの人生があるからガンバレみたいな話だと思うけど、ネクラ仲間がいる彼らは本当の意味での底辺ではないんだよね。チョコ編あたりから山口美甘子が神格化しはじめ、最後にはあの映画監督でさえ踏み台にしてしまう完全に超人になってしまっている。序盤の会話内容から見ても、さほど憑依型(天才型)の女優といった感じはしなかった、というかどちらかといえば頭でっかちの理論型に思えたんだけど、気づいたら天才になってた。その辺にリアリティがない気がした。まぁリアリティどうこうっていう小説ではないんだけども、ちょっと演出が雑というか男性本位に思う。賢三目線から恋愛軸で考えていくと、この小説は究極の寝取られ小説ともいえる。なんてったって賢三は思いを寄せる美甘子に見向きもされず、勝手にイケメンアイドルで処女を捨て、映画監督と頽廃的なセックスを繰り広げているのだ。そして大槻ケンヂの鬱屈した性癖を表れ、かどうかはわからないが、その美甘子のセックスシーンが、必要とは思えないレベルに微にいり細にいり、実に丁寧に描かれていて、読者の劣情を煽る。作者は、物語の主軸である賢三のバンドのライブシーンで幕を引いてすっきり気持ちよくなった読者を、エピローグの美甘子と監督の大人シーンでまた性欲の泥沼に叩き込むのだ。根性が捻じ曲がっているとしか思えない。タイトルの『グミ・チョコレート・パイン』は流山ではグリコのおまけ・チョコレート・パイナップルでおなじみであったジャンケンレースのことである。映画デビューを果たしてずっと先を行ってしまった美甘子に対して、「チョキで勝ちまくって絶対追いついてやる」といきまく賢三だが、全くもって勝てない。物語終盤で成長を遂げた凡人・賢三は、グーでもいいからとにかく勝ち続けよう、といわば急がば回れ的な考え、というか身の丈に合った歩幅で行こうって感じに落ち着く。それとは対照的に、超人・美甘子はエピローグで少年相手にチョキで勝ち続ける。この小説は生まれもって人間は不平等であることをこれでもかと突きつける、格差社会(?)小説もであるのだ。