小森陽一のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
ネタバレ小森陽一氏の村上春樹論である。『海辺のカフカ』を再読した後、この本を読んでみようと思い立ち、再読をして今回読み終えた。
自分自身の研究のアプローチに役立った点がある。自分が援用しようとする理論を十分に説明した後で、それを作品の解釈に当てはめていく点である。まあ当然のこととはいえ、これをやることが必要なのだなと改めて感じた。
小森氏はこの『海辺のカフカ』において村上春樹を痛烈に批判する。そして文学の貶めるものだという。だが、かくいう小森氏の文学観はどこから来ているのだろうか。どうもそれが十分に説明されているとはいいがたい。その文学観はアプリオリに設定されていて、自明のもの、そしてそれしかないもののように扱われている。そしてそれに、『海辺のカフカ』は反している、と批判しているのだ。
その批判の論旨はそれなりに説得力がある。『海辺のカフカ』における「入り口の石」の意味など、新たに理解できるものもある。だが、氏が批判する『海辺のカフカ』に示された諸々のものを読者に提示するということも、また文学の意味合いであり、働きなのではないだろうか。
私には、村上春樹が『海辺のカフカ』で提示したことそのものこそが、現代日本の姿であり、現代という社会のありようなのだと思う。そうした中で我々は生きざるを得ないのであり、その中にあってわずかな希望を、ラストシーンで田村カフカ君が示しているのではないか。
無論、私は筋金入りの村上春樹ファンである。よって、批判意見はあまり賛成できないというバイアスがかかっている。それを認めた上でも、やはり小森氏の批判もまたある種のバイアスがかかっているように思う。 -
Posted by ブクログ
刑事を夢みて今は交番勤務を続ける早川勇作は、手柄をたてれば刑事部に引き抜いてもらえるという思いが先走り、上司の命令に背いて持ち場を離れてまで一人で犯人を追いかけるなどの行動が続いていた。そんな勇作にある日辞令が。覚せい剤所持犯を逮捕した次の日だったので、いよいよ刑事になれると意気込んだ勇作だったが、行き先は思いもしなかった所――【警視庁警備部警備第二課装備第四係】――警備犬を育成する課であった。
映画がおもしろかったし、レビューで小説の方がさらにおもしろいとあったので読んでみた。ノベライズではなく原案小説らしく、ストーリーは半分程映画とは違う。著者の初めての小説らしく、小説というよりは脚本を読んでいる感じではあったが、話自体は楽しめた。警察犬と比べると認知度も低く、その違いさえよく知られていない警備犬。犬嫌いの勇作とシロの出会い~初めての第四係出動。クライマックスはほぼ一緒なので行動や結末はわかっていたのだが、それでも熱いものがこみ上げた。シロと勇作の”親和”はまだ始まったばかり。続編希望。 -
Posted by ブクログ
姉のような存在であるさくらさんに対する創造上の「レイプ」−。「「従軍慰安婦」の問題の根っ子にあったのは、記憶と歴史認識の問題です。しかもそれは、近代国家によって人為的に遂行された侵略戦争、植民地支配を拡大していくための帝国主義的戦争の中で、暴力を行使する軍隊という男性たちの組織に、密接不可能に組み込まれた戦争における性暴力、強姦=「レイプ」の組織的日常化の問題でした。pp.256-257」「ハルモニたちは、最も抑圧された女性の側から「記憶の証言」の声を上げていったのです。彼女たちの運動は、ホロコーストをめぐる「記憶の証言」や、植民地における虐殺や暴力の「記憶の証言」とともに、1990年代の「歴史」から「記憶」へ、という世界的な大きな流れをつくる、とても大切な力になっていったのです。p.262」「「文学」という2字熟語は、漢字で書かれた死者たちの言葉すべてについての学問のことです。p.277」