幸村誠のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
アニメ以降の所謂「奴隷編」9巻から23巻まで8時間ぶっ通しで読んだ。とにかく面白かった。1日の3分の1もの時間を費やす価値があったとも言えるし、短い時間で濃密な物語を消化してしまったことがもったいなかったとも言える。複雑な心境。
『ヴィンランド・サガ』は中世北欧のヴァイキング全盛期という特殊な時代設定と、生きる意味を葛藤しながら探求する魅力的なキャラクターと普遍的な主題をマッチさせた、独特な世界観が魅力的な作品だ。
最も感銘を受けたのは、激動する時代のなかで生じる、価値観の変容の描きかただった。それは、伝説、神話、宗教といった聖なる物語世界に基づく「あの世に行けばいいことがある」という夢想的な人生観から、この世での楽土建設を目標とする現世主義への転換である。
戦士の死後の楽園ヴァルハラ、徳を積んだ善人が行ける天国という既成の共同幻想を否定し、主人公トルフィンと王子クヌートはより良い世界ーー人々が争う必要がなく、強者が弱者を虐げることもない優しい世界ーーをつくることに腐心するようになる。
トルフィンが転向を遂げるにいたるには、ある種の貴種流離譚を経て約15年の歳月を要している。ここのロングタームが良い意味で他の現代の物語作品とかけ離れた要素で、中世の男性の平均寿命が40歳であることを踏まえると、人生の約40%が正しい道に至る前フリってことになる。
成果主義的な見方ではトルフィンの生き方は非効率以外の何物でもない。だが、こういう生き方もあるんだな、あっていいんだな、これだけ長いあいだ間違った生き方をしても人は変われるんだ、変わっていいんだと素直に感銘を受けた。
これまで「当たり前」だった価値観が、時代の急速な変化によって「当たり前」でなくなる瞬間を、どう生きるか。中世北欧世界に生きるトルフィンたちの主題は、コロナ禍で変容を迫られる我々の現実世界にリンクし、答えの糸口を垂らしてくれるような気がする。
以下、気に入った台詞。
13巻のトルフィン「いつも「最初の手段」を選び取れるようになりたい。そしてどこまで「最後の手段」を選ばずにいられるか」
14巻のクヌート「この地上に楽土を築くということは神の定めた条理に逆らうということ 神への反逆だ」
そんでもって、アシェラッドの「豚にも劣る暗愚なデーン人どもよ」。なんてイイ語感、なんて優れた汎用性と煽り性能。多少の社会的信用を失うこと覚悟で、積極的に使っていきたい。 -
ネタバレ 購入済み
よい
独自の世界観を作っているのはもちろんすばらしいのですが、登場人物の葛藤(目標が高いからそれにだけ集中しなくては他のことに構ってる暇はない的な)にはすごく共感するし、乗り越える姿は励みになる