ラブ・レターのほうのレビューが残っていたので転載。
とてもかわいらしくて爽やかな、それでいて心の奥が、ホットミルクを飲んだときのようにあたたかくなるお話でした。
主人公の愛美(まなみ)は小学5年生で、隣の席の楽(らく)くんの、大好きな馬の話をする声の嬉しそうな色とか、髪が太陽に透けて茶色に輝
...続きを読むくことが気になって仕方ない。そんなとき、友達のともかちゃんから、今学校で「仲良しレター」がはやっていると聞く。だけど友達に送ってもどきどきしないんだもの、やっぱり好きな男の子に送りたいよね、とはにかむともかちゃん。そのきらきらした笑顔を見て、愛美は、自分も楽くんに手紙を送りたい、送ろう、と、つたない言葉でつづり始める……。
あさのあつこと言えば、児童書「バッテリー」で有名です。主人公・巧(たくみ)の、野球へのまっすぐすぎるまっすぐな思いが、読めば誰しも圧倒されるか強く共感するかだと言ってもいいほどリアルに描かれた作品。わりに最近出版された「福音の少年」も、そんな男の子たちの物語だった。だから私は、すっかりあさのあつこは「少年」の書き手なのだと思っていました。
でもこの作品のなかで笑ったり反発したりしている少女たちの心の、なんてまっすぐなこと。
学校帰りに買い物をしたことがばれて先生に怒られたとき、ともかちゃんは「お金、わたしが持ってきたの、先生。愛美ちゃんに貸してあげました。わたしが、愛美ちゃんについてきてって頼んだから、貸してあげたの」。
お姉ちゃんは、玄関先で彼氏とキスをしていたのを見咎めた電話がかかってきて、お母さんに怒られたときに言った。「(その電話の主が名乗らなかったことに)わたし、そんなやつ絶対、許さない。自分は、絶対傷つかないとこにいて、他人のこと傷つけようとするやつなんか、ばかだよ」
ね、きれいでしょう。まっすぐでそこに迷いがなくて、自分にもこんな時期があったかな、でも今はどうなのと、赤くなってしまいそうな凛とした姿でしょう。
そんな人たちに囲まれて、愛美は毎日をすごしながら、少しずつ少しずつ、きっとそんなに整っているとは言えない字で、何度も消しては書き直しながら、楽くんに伝えたいことを手紙に込め続ける。きれいな夕日を見て、カレーの匂いを嗅いで、ピアノを弾いて、楽くんに伝えたいことを見つけては文字にしていく。
こうして手紙にする前、愛美の気持ちは、きっと「気になる」とか「もっと知りたい」とか、名前のつけられない感情だったように思います。
でも手紙に書くことをさがしているとき、彼女は知らないうちに、楽くんといっしょに町を歩き、空を眺めていたんじゃないかな。手紙を書きながらもどんどん、思いをふくらませて、どんどん楽くんへの気持ちを育てていた。
だから手紙の最後に愛美は、ちゃんと感情に、「好き」と名前を付けることができたんじゃないでしょうか。
楽くんも返事を書きながら、愛美への思いをふくらませたり、もうふくらまないと気付いたり、するんでしょうね。
続きが読みたい、ないとわかっていても、わかっているからこそ、そう思える作品でした。