ハン・ガンのレビュー一覧

  • 別れを告げない

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    冒頭では、これが済州四・三事件につながるなんて思いもしなかった。
    とかエラそうに書いてるけど、済州四三事件とかまったく知らなかったし。こんなに近い国なのに。
    小説本編にも注意書きは多いが、「訳者あとがき」はほぼこの事件の経緯、解説。
    本編より細かい字でみっしり。情報量とその内容の深刻さ、残酷さに圧倒された。
    となるとウィキペディアとか見ちゃうよね。でまたドシッとくる。
    タイトル「別れを告げない」は、作品中では映画のタイトルとして出てくるけど、「哀悼を終わらせない」という意味だと著者がはっきり述べているそう。
    幻想的な場面展開も詩人ならではかな。
    さすがノーベル文学賞受賞されただけある。
    斎藤真

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    2025年09月14日
  • 別れを告げない

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    舞い散る雪が、死者たちの頬にうっすらと積もり、白く覆ってゆく。
    等しく生者の頬にも降る雪は、刺すような痛みの感覚を残して、溶け去ってゆく。

    痛みと熱が生の証というならば、死は痛みの喪失と引き換えに、無限の沈黙の中に消えるということなのか。
    いや、例え肉体が凍りつき、もはや唇は閉ざされたままだとしても、死者には消えぬ痛みの記憶が残っている。
    死者には、語るべき言葉がある。

    だから、別れを告げない。
    雪は溶けて海へと流れ、空に昇って雲となり再び一ひらの雪片として地上へ戻ってくる。
    過去と未来は循環し、死と生は共にある。
    そんな地点ををつなぐのは、悲しみと嘆きの言葉だけじゃない。
    あなたにはわた

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    2025年09月13日
  • ギリシャ語の時間

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    一度読んだだけでは到底理解は出来ない。
    視力を失っていくギリシャ語講師(男)の回想と
    ある時から言葉を発することが出来なくなったギリシャ語受講生(女)の回想が続いて行く。
    冒頭と結末が同じなので二人がいかに交わっていくのかという話ではあるのだが、恋愛模様とは全く違う。
    哲学論と詩のような文体が入ることにより、物語より深い不思議な体験を味わえる。
    始めはそれが、読みにくいし、全く理解出来ず苦痛だったのが、慣れとともに心地良くなり次第には独特な言葉の禅体験をしたような晴れやかな気持ちになっていた。
    傷を抱えた者が世の中に馴染めず、かといって落としどころを見つけて合わせて生きていくのも苦しい。
    二分

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    2025年09月12日
  • 回復する人間

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    読みながら少したじろぐ。なぜハン•ガンさんは、異郷のゆかりもない僕に対して、抱え込んだ孤独を、疼き続ける痛みを告白するのかと。
    僕には、受け止めるだけの度量も、分かち合う優しさもないというのに。

    だが、彼女は決して弱音を吐いて、己の傷や悲しみを嘆き訴えているのではなかった。
    むしろ、誰からも助けの手が差し伸べられなく、独りで耐えるしかない痛みに押し潰されたときでさえも、消え去ることのない強さが人の内には秘められている、そう静かに告げていたのだ。


    人は自らの意志で、身体や生活を律して前へ進んでいるいると思い込んでいるけれど、果たしてそうだろうか。
    心がたとえ悲しみを求めていても、
    理性が抑

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    2025年09月04日
  • ギリシャ語の時間

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    中動態。プラトンのイデア論。使われていない言葉のギリシャ語(言葉の古層の比喩か)。目が見えなくなる男性。言葉を失った女性。若き日の初恋の破綻(男性)。裁判で負け子どもを手放す(女性)。ドイツから韓国に、母親と妹との別離、距離を隔てた地での親友(男性を愛している?)の死(男性)。ドイツでは異物としての視線にさらされる(男性)。その二人はソウルのカルチャースクールのギリシャ語講座で教え・教えられる関係にある。

    なんという複雑に錯綜した構造の小説だろう。執筆に2年間かかったのも頷ける。

    離別を経験し、見えなくなり、発声ができなくなっているからこその出会い(溶け合い)。

    そして、この二人を描写し

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    2025年08月05日
  • 別れを告げない

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    ページを開いた瞬間、まるで自分自身が壮絶な主人公の人生を生きることになったかのような錯覚に陥った。

    韓国現代史の中でも語られることを避けられてきた過去——済州四・三事件の痛ましい記憶である。ハン・ガンはその闇を見つめることを選び、真摯な眼差しで記憶の底から言葉を掬い上げた。その勇気と誠実な筆致に、深い敬意を表したい。

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    2025年07月26日
  • 回復する人間

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    ネタバレ

    肉体に受ける血の流れる傷の他に、罪悪感や後悔や喪失感も紛れもない傷。
    この本に収録されている七編の主人公や登場人物たちほどでなくとも、それらの傷は多くの人にあると思う。
    もちろん、私にも。
    読んでいて、登場人物たちの傷と共に自分の古い傷を改めて意識する。
    登場人物たちはたとえば表題となっている「回復する人間」ではタイトルどおり傷から回復するのだろうか?
    どうやって?
    目が離せなくなる。
    だが、彼らは必ずしも回復するわけではない、と私は思う。

    ただ、登場人物たちは自らの傷との向き合い方、折り合い方を通して私たちがそれぞれ持つ傷に寄り添う。
    傷を抱えたわたしに寄り添う。
    それは同じような痛みを感

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    2025年07月26日
  • 別れを告げない

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    1948年、韓国のリゾート済州島で島民10万人以上が虐殺された。一種の赤狩り?
    朝鮮戦争前の混乱期なのだろうが、この事実を初めて知った。
    この小説は、この事件?をベースに、現代に生きる女性たちが描かれている。
    ストーリーを描いてもピンと来ない。
    木工で指を怪我し入院した女性のために、自死を考えていた友人が
    雪深いアトリエに鳥にエサをやりに行くはめに。
    しかし鳥は死んでいて、彼女は母の幻影を見る、、、、
    母親は済州島虐殺の生き残りなのだ。
    先入観か、文章から韓国の「恨」を感じた。何かある。
    よくわからなかったが、なんだか心に残った。

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    2025年07月19日
  • ギリシャ語の時間

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    視力を失いつつあるギリシャ語講師と言葉を話すことができなくなってしまった女性。
    どちらもコミュニケーションにあってほしい機能が損なわれつつあったり、損なわれている。
    だが、目が見え、言葉を話すことができるからといって、わたしたちは互いを本当に理解し合えているのだろうか。
    その意味で、ギリシャ語講師もギリシャ語を学ぶ女性も他人ではない。
    繊細で美しくたおやかなハン・ガンの詩人の言葉で描かれるそれぞれの置かれている状況や胸のうち。
    それをたどりつつストーリーを追えるのはどこか贅沢なことに思える。
    問題は何一つ解決したわけではないし、二人もやはり分かり合えているわけではない、たぶん。
    にもかかわらず

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    2025年07月17日
  • 別れを告げない

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    ネタバレ

    主人公がたどり着いたインソンの家にインソンは確かに現れて、小鳥もいたのだと思う。
    インソンが語った島や母親たちの歴史にときに眉をしかめ、身震いした。
    激しく表現される怒りより静かな怒りの方が深いことはままあるが、作者の筆を動かしたのはその静かな怒りと忘却を拒む強い意志に違いない。
    ハン・ガンが描き出す美しく繊細で静謐な世界に浸るのはこの上ない喜びだが、詩のような美しい描写を続ける彼女の目は歴史の傷から逸らされることはない。
    じゃあ、自分に何ができるのかというと、事実を知り悼むこと。
    何処の国のできごとなのかとか、自分は何処の国の人間なのかなど関係ない。
    わたしたちは同じ血の通った人間なのだ。

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    2025年07月01日
  • 回復する人間

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    どれもこれもリアルな傷を抱える女性たちが(ひとりだけ、普通の男性が出てくる)でてきて、それぞれの回復の過程が描かれている。
    回復仕切らない人もいるし、回復を拒む人もいる。
    だけど、人は自然状態で回復していく生き物なのだと感じる。
    生きることは痛いことなのだろう。

    短編「回復する人間」の文章が好きでした。
    文字で遊んでるというような、軽いのに重く静かで、圧巻でした。
    「火とかげ」の痛みと鮮やかな色を感じさせる物語も良かった。
    復活に色がないという着地も見事。

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    2025年06月24日
  • 別れを告げない

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    構成が面白い
    初めて読む形態

    夢なのか現実なのか死んでいるのか
    後半辺りがよくわからなかったけれど
    そんなことはどうでもいいくらい静かに衝撃を受ける
    文体がとても美しい

    『菜食主義者』は少し気持ち悪かった
    次は『少年が来る』を読みたい

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    2025年06月22日
  • すべての、白いものたちの

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    白い、は、生と死に近い色。白い小石は、波で削られて、丸く、少し透けて見える。それは、今まで傷ついたからだ。その小石を、誰かが拾い、机の引き出しにしまうこと。ときおり、光にすかして、またそっと引き出しに戻すこと。そういったことで、救われる傷もあるような気がした。

    生と死のはざま、あわい。そこで揺らいでいる者たち。私は、死ぬことについてよく考える。そのあとに、すこし生きることについて考える。生きることと死ぬことを考えるではなく、私にとっては、死ぬことを考えた後で、生き続けることについて思うの。

    白く笑っていた、という言葉は、静かに耐えながらそれでも笑っていようと決めた人の笑みのことをいうらしい

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    2025年09月17日
  • 回復する人間

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    静かで落ち着いた美しい文章なのに鋭利な刃物を突きつけられているよう。読みながら心のどこかがヒリヒリした。「左手」はとても怖かった。印象に残る短編が詰まっている。

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    2025年06月01日
  • 別れを告げない

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    作家のキョンハが悪夢を見るようになって旧友のインソンが住む済州島に会いに向かった。彼女の懇願に負けてオウムを助けるために無人の家に行くことになった。済州島の四・三事件を題材にした愛についての物語。インソンはその事件を忘れられない母の狂気の渦に巻き込まれそうになっている。そしてその渦にキョンハも連れて行かれ…。鳥達や雪片などの自然の美しさと対照的なのが人間の心の光と闇である。人間とはもともと残酷な生き物かもしれない。そして、過去を決して忘れないこと。それは自分以外のあらゆる存在を愛し赦すことから始まる。私が今まで読んだハン・ガンの小説の中で最も深く完成度が高い。それどころか今生きている作家の中で

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    2025年05月23日
  • ギリシャ語の時間

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    美しい痛みに満ちた物語。狂おしい寂寥に満ちた物語。言葉を失った女と視力を失い続ける男。ギリシャ語の授業で出会った二人の喪失を通してこの世界の闇を炙り出す。彼の彼女の数々の記憶から見出される孤独と悲しみ。生きていく上で欠かせない存在の消失。哲学的でありながら詩的な散文。ハン・ガンの見る世界は優しい儚さと繊細な苦痛に満ちている。生きることはあがくことかもしれない。生きることは辛いことかもしれない。それでも生を選択し続ける。神なんて存在しない。ただ、他者を求める狂気に似た感情と愛が存在するだけ。全てを許す愛が。

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    2025年05月23日
  • ギリシャ語の時間

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    ネタバレ

    「この本は、生きていくということに対する、私の最も明るい答え」。ハン・ガンはそう語る。なぜそう言えるのか?
    端的に言えば、人間は完全に理解し合えなくても互いに存在を認め合うことで、間に<剣>が置かれて触れられない世界でも、なんとか生きていけるから…だろうか?
    だからハン・ガンは「『ギリシャ語の時間』はまだ終わっていない。この本の結末は、開かれている」、開かれている…と語っているのではないだろうか?

    この物語は、視覚を失っていく男と自ら口を閉ざす女、の両面から「断片的」に語られる(この断片的、はハン・ガン作品の特徴、特に『すべての、白いものたちの』では)。
    断片的な表現により、読者を積極的に言

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    2025年03月31日
  • 回復する人間

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    ここ3ヶ月ほどの間に『すべての白いものたち』『菜食主義者』『そっと静かに』の3冊を読みハン・ガンさんに強く惹かれる自分と向き合う充足した時間を過ごしてきました。
    『回復する人間』は詩的で静謐な文章が美しい『すべての白いものたちの』と同じ斎藤真理子さんが翻訳された短編集です。
    初出年月日の1番古い「火とかげ」が7つの短編のうち最後に掲載されていて2003年初出。韓国でのタイトルにも使われたこの作品が、韓国の文芸評論家シン・ヒョンチョルに「この本の関心事は(中略)〈傷と回復〉だ」と言わしめた7つの物語のいずれの基底ともなっているテーマが2003年の時点で作者にとって重要でその後ほぼ10年に亘り深く

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    2025年03月29日
  • 回復する人間

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    読んだときに自分が、どんな状況か、どんな気持ちでいるのか、にもよるかもしれないけど、素晴らしかった。ハン・ガンは初めて読む。衝撃的。すぐに再読。今度はなるべく音読している。

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    2025年02月07日
  • ギリシャ語の時間

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    初めて読んだ韓国文学です。
    言葉で声に出されない感情への美しく、深く、鋭い洞察。雪のような冷たさと微かな明るさが読後にしんしんと降り積もるようでした。

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    2025年02月01日