宮崎真紀のレビュー一覧
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南米チリについて、正直な話、ぼくは何一つ知らない。
ぼくの勤めていた医療機器メーカーが、チリで大地震が起こるたびに医療物資の援助を行う日本赤十字社から特別オーダーを受けた特需景
気にボーナスが加算された。太平洋の向う岸で惨事が起こると喜ぶこの会社なんてまるで死の商人だね、と同僚と皮肉を交わした覚えがある
くらいだ。
そのチリに、1973年には、軍事クーデターの嵐が吹き抜けたのだそうだ。ニクソンの支援を受けたピノチェト将軍による軍事独裁政権は
17年の長きに渡って続くことになる。そんなことすら知らない日本人のぼくは平均的なのか? それともぼくだけが無知であるのか?
主人公のカジェタノ・ブルレは、現在7作まで出版されているシリーズ探偵であるそうだが、本作はその6作目であり、カジェタノが探偵
という職業になったきっかけを回想する内容のものである。彼は、病床にあるネルーダの玄関の扉を叩くことで、私立探偵の道に進んで行っ
たのである。この小説で登場する実在のノーベル賞受賞詩人ドン・パブロ・ネルーダは、この頃には前立腺癌を患っており、軍事クーデター
後12日目でその人生を閉じる。
ネルーダと関わることになった若きカジェタノ・ブルレは、ハバナ生まれの亡命キューバ人である。彼はアメリカで出逢ったチリ人の妻ア
ンヘラとともにチリに移り、パルパライソに住んでいたが、アンヘラは祖国に迫ろうとしている右派と闘うため、軍事訓練を受けにチェ・ゲ
バラの国メキシコに旅立つ。個人の幸福よりも思想的闘士の義務を優先する考えで、夫の元を去ったのだ。祖国を持たないカジェタノは妻の
信条をついぞ理解することができず、自らの将来を憂えるどん底の状況に陥った頃に、あまりにも有名すぎる隣人ドン・パブロ・ネルーダに
出逢ったのだ。
ネルーダの血を分けた子供かもしれない娘、また彼女を生んだ元愛人で医師の妻ベアトリスを探すよう依頼を受けたカジェタノは、捜索の
旅に出る。探偵心得を学ぶためにネルーダから渡された何冊ものジョルジュ・シムノン作、メグレ警視の小説シリーズを鞄に詰めて。ベアト
リス母娘を追う旅は、メキシコ、キューバ、東ドイツ、ボリビア、そしてチリはサンティアゴへと続く。そのたびに、ベアトリスという女性
が、その時代その国々で様々な顔を使い分け、全く違う女に移り変わってゆく踪跡に出会うのだが、どの国のどの地も複雑かつ危険極まりな
い政情を抱えており、カジェタノは、平和で安定した場所を舞台に落ち着いた捜査ができるメグレ警視を羨ましく思う一方、自らが立つ危険
に満ちた世界で成し遂げつつある追跡行の成果を、これは小説などとは違うが達成感は格段のもの、と誇り高く思う。
そうして徐々に探偵としての素質を見せ始めるカジェタノと、何人もの妻と結婚しては捨ててきたノーベル賞詩人の罪悪感に苦しむ私生活
の意味深げな対比が、長いお互いの電話連絡やネルーダの独白の章を通して描かれてゆくところに、世界と個人の、それぞれの罪や贖いが呼
応し、比較され、この小説世界に、かつて見たこともないような奥行やスケールが生まれるのだ。実に優れた力作であると思う。
ラストシーンは、チリの軍事クーデター、ネルーダの死、カジェタノの捜査の完了などが、すべてほぼ同時点・同地点に集約されてゆく見
事さなのだが、この作家のエネルギッシュな描写力は並大抵のものではない。クーデターが行われているとはとても思えない美しいチリの港
の朝を見つめるカジェタノの耳に、迫ってくるどこか遠い空爆や発砲の音、雑音で消えてゆくラジオのニュースなど、当の作家本人が長いあ
いだ亡命を強いられることになった1973年当時の一日の体験の重さを響かせて、大変重厚に仕上がったアンサンブルとなっている。
どこを通しても一級の娯楽作品であり、一級の品格である。史実に存在した人物や出来事と、作者がイマジネーションさせたベアトリス母
娘の仮想の旅を通して、読者はカジェタノとともに世界の動乱の日々を目にしてゆく。チェ・ゲバラ亡き後の砂塵。カストロのもたらしたハ
バナの張りつめた静寂。未だ崩壊には遠かったベルリンの冷たい壁。籠城するアジェンダ左派政権のラジオから流れる決意の叫び。ネルーダ
の棺桶(イコール希望)にすがる市民たちの姿。時代のうねりと人間たちの悲しい愛情とが徹底して心を打つ、危険でリリカルな一大行脚の
旅をどうぞご賞味あれ! -
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「時の地図」の続編。前作と同じくH・G・ウェルズが狂言回しを演じ、上巻は殆ど「遊星からの物体X」の19世紀版。それはそれで面白いけど、同時進行する時間の帝王ギリアム・マリーとアメリカのお嬢様エマ・ハーロウの恋愛ヨタ話は何処でどう物体Xと絡んでSFになるの?と心配しながら読み進んでいると、下巻でチャールズ・ウィンズロー、シャクルトン将軍、妻のクレア等「時の地図」の登場人物が出てくるあたりから物語は加速、必死の逃避行の末、上巻ではギリアムに見向きもしなかったエマは地下道で一緒に死ぬことを選び宇宙人を道連れに二人で自爆!(ほとんどエイリアン2) 究極の純愛に涙したところで怒涛のエンディングに突入、ラストは振り出しに戻って、円筒型宇宙船から出てきたものは!? もう最高のハッピーエンドです。途中からエンディングは見えてきますが、作者の手のひらで転がされるのが逆に心地よい。宇宙SFと歴史改変とタイムトラベルと恋愛物が混ざり合った一大エンタティメント。お勧めです!
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前作『夢迷宮への片道切符』でミーガンが着けたはずの決着はまだついていなかった。
滅びに直面しながらも、状況を理解できていない妖精族は、第三勢力のアイアン族の意図通り互いに争い始めた。妖精界を危機から救うため、ミーガンとアッシュは再び困難な冒険に旅立つこととなる。
彼らの活躍により、妖精族の争いは一旦休止となったが、ミーガンとアッシュの行った選択は二人にとって過酷な結果をもたらすことになる。
ケットシーのグリマルキンは今作でもミーガンの保護者である。誠に猫らしいやり方で、影に日向にミーガンを守護し続けるグリマルキンは猫好きの私にとってアイドルである。 -
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割合本格的な正統派ファンタジー。
人の夢や信仰から成り立っている存在は、人から忘れられる事で消滅していくという縛りは、神話・ファンタジーで定番の設定だが、この作品ではそれだけではなく…。似たような状況はミヒャエル・エンデの『はてしない物語』でも見られたが、それとはまたちょっと違う驚きの展開である。(しばらくファンタジーから遠ざかっていたので、もしかしたら既出な設定かもしれない。不勉強ですみません)
語りも巧く、読者をどんどん物語の中へ引き込んでいく。冒険から帰って、一回り成長したミーガンが頼もしい。あらゆる面で猫らしいケットシーのグリマルキンが、なんだかんだ言いつつも結局、保護者的振る舞いをしてしまっているのも猫好きには楽しい。 -
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元死刑囚で最高司令官の毒見役となったイレーナ。前巻では彼女の活躍で極秘理に進行していた陰謀が阻止されたが、彼女自身は魔力を持つことが明らかになり処刑命令が下されてしまう。タイトルの「帰還」とは、彼女の故郷であるシティアを指す。敵対国イクシアとはまるで異なるこの国で、イレーナは魔術師として指導を受けることになるが……。
前巻の重苦しさからは開放されるが、相変わらずイレーナには苦難ばかりが襲いかかる。大半は彼女の言動に原因があるトラブルメーカーだ。とはいえ、家族との再会や馬との交流など微笑ましい要素も多い。
ストーリーは大きな流れを作り出し、シリーズの向かう先が少しだけ見えてきた。 -
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ネタバレ毒見師イレーナの六作目。
とうとう最終章。
後半三冊はまとめて読めて良かった。
それぐらい混沌として、問題山積、危険がいっぱいだった。
どうもお話の中では、三か月ぐらいしかたっていないようだったが。
「結社」がシティアを牛耳り、イクシアの最高司令官をも操っていた。
少しづつ「結社」から味方をはぎとり、
反撃の機会をうかがうイレーナ達。
だが、「結社」は魔術師から魔力を奪う薬を作り出していて、
前作でリーフの怪我を魔力で直し、今度は自分の傷も治したヴァレクから、
魔力を奪ってしまう。
イレーナの魔力も戻らないまま、ヴァレクも魔力を失ってしまうのか。
最後にもっとドンパチ(死後?)するのかと思ったら、
あっさり最高司令官はシティア攻撃をあきらめたのが意外だった。
妊婦とは思えない無茶をいろいろしてきたが、
無事に二人の赤ん坊が産まれて良かった。
後半の三部作は、イレーナというよりかはヴァレクの物語だったような気がする。 -
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ネタバレ毒見師イレーナの五作目。
前作のラストで妊娠を疑っていたイレーナだが、
現実のものとなった。
しかも、それはオノーラが妊娠を狙って避妊薬を打ち消す薬を
打込んだ結果だった。
最高司令官が、ヴァレクと同じようにオノーラの胸に、
自分の頭文字を刻み忠誠を誓わせていたことや、
ヴァレクの忠誠を疑っていること、
さらには死刑にしたはずの魔術師を客として受け入れていたことで、
ヴァレクは忠誠を捨て、イレーナに結婚を申し込む。
イレーナがシティアに戻り議会を薬で牛耳る「結社」と闘う一方、
ヴァレクは嵐の盗賊団の捜査を命じられていた。
その捜査で水を操る姉と嵐を呼ぶ弟の魔術師に出会うが、
実は自分の妹と弟であり、自分の両親のもとに帰ることとなる。
さらには兄たちの死を受け入れたことによって、魔力を得る。
イレーナが魔力を失い、ヴァレクが得ることになるとは。
最後に、
ヴァレクがふたりのこどものために未来を築くと言ったときに、
イレーナが全てのこどものために、と言い直したのが感動的だった。 -
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ネタバレ毒見師イレーナの二作目。
最高司令官の毒見役としての任は解かれたものの、
魔力を持つ者として死刑宣告を受けイクシアを離れたイレーナ。
故郷のシティアに戻り両親と再会し暖かく迎え入れられる。
だが兄リーフはイレーナを受け入れず、憎悪をあらわにする。
魔術師養成所へ向かい、自分の魔力をコントロールすることを習うが、
娘たちがさらわれ酷い目にあわされたあげくに殺される事件が起きていた。
イレーナをイクシアのスパイだと襲ってきたイクシア国王の甥とは、
友人になることができるのか。
前作でイレーナにいろいろ盛りすぎだと思っていたが、
馬と心を通じさせることができ、
怪我や傷を癒す力があり。「物語の紡ぎ手」にリクルートされたが、
強力な魔力をもち心と身体を癒した「霊魂の探しびと」と同じ魔力をもつと、
さらに盛られていた。
それはさておき、
登場人物たちの感情の動きがぎこちないというか、
説得力がないというか、
人物像が薄っぺらいというか。
例えば、
兄リーフが、幼い時にイレーナがただの行方不明ではなく
さらわれたと知っていながら嫉妬心から黙っていたとか、
それを後悔して探し続けたとか、自殺を図ったとか、
再会した時には怒りと憎悪を感じたという流れを、
(その展開もなんだか不自然に感じるが)
もうちょっとうまく表現できないのだろうか。
一人称で書かれることの限界なのk。
物乞いをしていた少年に「働く」ことを教え、
いろんな小遣い稼ぎを覚えて成長していく様が、
楽しかった。
青い目の馬キキはかわいいし、
武術を教えてくれたアーリとジェンコ、
大使に化けた最高司令官、そしてヴァレクに再会できて、
前作より面白かったとは思う。 -
Posted by ブクログ
哲学や自己啓発要素が強く「またか」と思う部分もあるがそれでも、とても素晴らしい本だった。
少なくとも私にはとても深く心地よく沁みた。
ヤマザキマリさんが帯に書いている通りだと思った。
おそらくこの物語で書かれている内容は 山のようにある他の哲学書や自己啓発本と同じこと。
でも本書は過去や人を赦し、人を愛し与え続けてきた マルおばあちゃんにより語られることに価値がある。 見知らぬ著者にひたすらに説教されるより、 人生の知恵の泉であり大先輩である年寄りに語られた方が 素直に心を開いて聞けるのも納得がいく。
説教くさいところは全部流し読みしたとしても 物語自体がとても素敵で心温まるのでおすすめしたい。
マルおばあちゃんとの自転車の旅は とても幸せなラストを迎えて終わる。 こんなに心が豊かで生まれ変わるような気持ちになれた 「哲学書」はこれが初めてかもしれない。