宮崎真紀のレビュー一覧
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病室のテレビは国会が襲撃されたクーデター事件を放送している。一九八一年のスペイン。弁護士のマリアは三十五歳。バルセロナの病院で死にかけている。複数の事件に関わっているらしく病室には監視がついている。事件は一応終っているのだが、逃亡中の容疑者がいて、刑事が時折訪れて尋問めいた話をしていく。マリアは脳腫瘍の手術後で、しかも腫瘍はまだ取り切れていない。髪の毛は剃られ、身体にはチューブがつながれている。
多視点で語られる。遡行したり、現時点にもどったり、行きつ戻りつを繰り返しながら、絡み合う人物同士のもつれあった関係を一つ一つ解きほぐし、一本の筋の通った物語に纏め上げてゆく。親の因果が子に報い、というのは見世物小屋の口上だが、まさに、それを地で行く因果応報の地獄絵図だ。拷問、暗殺、監禁、調教とこれでもかというくらい救いようのない残酷さに満ち溢れている。
三年前、マリアはある事件を担当した。セサル・アルカラという警部がラモネダというたれ込み屋を拷問し瀕死の重傷を負わせた、とその妻が訴えた。証拠も証言も揃っていた。警部は投獄され、マリアの仕事はそれを機会に倍増した。しかし警部の暴行には理由があった。彼はプブリオ議員の悪行を暴く証拠を握っていたが、逆に娘を誘拐され、事実を話せば娘を殺すと脅されていた。ラモネダを傷めつけたのは娘の居所を吐かせるためだったのだ。
一九四一年、セサルの父マルセロは、フランコ独裁政権下のファランヘ党バダホス県支部長を務めるギリェルモ・モラの次男アンドレスの家庭教師に雇われていた。プブリオは当時貰の私設秘書としてすべてを掌握する片腕だった。そんなとき、モラが共産党シンパに襲撃される事件が起きた。暗殺を計画したのはモラの妻だった。イサベル夫人に惹かれていたマルセロは夫人の逃亡に手を貸して逮捕された後、夫人殺しの罪で処刑されてしまう。しかし、真犯人は他にいた。
第二次世界大戦中、スペインは参戦に積極的ではなかった。余力がなかったのだ。ただ、ヒトラーの支援を受けていたフランコは「青い旅団」をロシア戦線に派兵した。父による母の虐待を指弾した長男フェルナンドを、モラはその一員に加えることで罰した。アンドレスは守り手の母と兄を失い施設に放り込まれてしまう。イサベラの処刑を目撃してしまった兵士ペドロも、プブリオの手で同じくロシア行きとなる。
愛する者や自分の人生を奪われた者たちの復讐劇の幕が切って落とされる。三十五年という時間は、人をその容貌だけでなく精神の根底から変えてしまう。ましてやシベリアの強制収容所(グラーグ)という地獄を経験すれば、変わらない方がおかしかろう。死んだものと思われていたのを幸いに時間をかけて計画された復讐手段は手が込んでいた。
一方で権力を得たプブリオは議員職だけに飽き足らず、クーデターを計画し、権力の掌握を狙っていた。自分の邪魔になる警部の娘を誘拐し、口を封じたが、マリアという弁護士が獄中のセサルに接見し、証拠を嗅ぎ出そうと動き出したことに気がつき、マリアの元夫を使って脅しをかけるが、マリアには通じない。そこで、ラモネダをマリアに付き纏わせる。マリアとセサルは、娘のマルタを取り戻すことができるのか。夫人を殺した真犯人は誰か。
スペイン現代史を背景に、父の犯した罪によって人生を狂わされる子どもたちの悲惨極まりない人生を描く圧巻のミステリ。とはいえ、謎解き興味は薄い。あまりに多くの人間が視点人物となって事件を異なる角度から語りはじめるので、謎がいつまでも謎でいられなくなるのだ。そうなると、興味は人間ドラマの方に移るわけだが、今のこの国の現状と変わらず、悪は追及をすり抜け、運命に翻弄された弱者ばかりが憂き目を見ることになる。どこまで行っても霧の晴れない世界に放り込まれた者たちが互いに傷つけあうのを傍で見ているようでいたたまれなくなる。
小説の中で日本刀が大事な役割を果たしている。ただし、日本で作られたものではない。ピレネー近くの村で鍛冶職人をしているマリアの父が作ったものだ。日本人読者からすれば、それはちょっと、と思ってしまうのだが、鞘は泰山木と竹、鍔には龍が彫られているというから本物の拵えのようだ。原題は<La Tristeza del Samurái>(侍の悲しみ)。西洋人から見た武士道に対する憧憬は感じられるものの木に竹を接いだような違和感が残る。
バルセロナを舞台にしたミステリといえば、カルロス・ルイス・サフォンの『風の影』を思い出すが、スペインの近代史を背景にしている点以外にも、グラン・ギニョールを彷彿させる血塗れの残虐さや醜悪さの追求といった点に共通するものを感じる。裏切りとそれに対する報復に寄せる執着も並々ならぬものを感じる。国民性などという言葉で簡単に括りたくはないが、美観地区にちなんで、バルセロナ・ゴシックとでも名づけたいような独特の雰囲気がある。人にもよるが残酷描写が嫌いでなければハマってみるのも悪くないかもしれない。 -
Posted by ブクログ
★3.5
東側ではないヨーロッパにあって、スペインがこれ程長きに渡り戦争と独裁政権下に身を置いていたとは知らなかった。それも1970年代までとは驚きだ。確かにスペイン内戦は聞いたことがあり、内戦時の悲劇を描いた『蝶の舌』も印象深い映画だった。
本作品は内戦後のスペインが舞台だが、言論統制が敷かれ、反体制派と見なされた人々は容赦なく粛清されるまったく自由のない社会。それゆえ、誰が敵で誰が味方なのか分からない状況が終盤まで続き、最後まで緊迫感が途切れることはなかった。個人的には編集長が味方で良かったが。
ヒロイン達はなかなか魅力的なキャラなのだが、あの社会情勢下で生きて行くのには、これからも様々な危機に直面し、葛藤し、足掻く日々であろうことは想像に難くない。特にベアトリス。シリーズ中に亡命できるといいのだが…。 -
Posted by ブクログ
魔術師範に伴われ、生まれ故郷シティアに帰還をはたし、両親と兄に再会したイレーナ。両親は暖かく歓迎してくれたものの、魔力を持つ兄リーフはよそよそしい態度を崩さない。
長く故郷から離れていたイレーナには、イクシアの密偵の疑いがかけられていた…そして、残虐な少女連続誘拐事件が。
その犯人の狙いは、魔力に目覚めたイレーナ?
またまた誰を信じてよいかわからない状況で、危なっかしくも強力な魔力をふるうイレーナ。
前作で得た信頼出来る友人たちや、恋人のヴァレク、本作で出会った愛馬キキにも助けられ、危険な敵に立ち向かうところは、第1章よりも読みやすく、面白かった。
もしかしたら、訳者さんが変わって良かったのかも。
しかし、ヴァレクは…こうなると前作で2人が恋人同士になっておかないといけないのはわかるけど、イレーナに魔力を送ることまで出来るって、ヴァレクも魔力あるんじゃないの?! -
Posted by ブクログ
ネタバレ前作では新しい世界を知り、家族と出会い(再会?)しながら、メインプロットとしては殺人鬼を追う話だったが、今回は一気に話が大きくなり、国を乗っ取ろうとする陰謀にイレーナ一派が立ち向かう話。
自分の能力に戸惑いながらも困難に立ち向かう姿は従来通りながら、今やすっかりリーダーに成長していく姿が描かれていて、話の規模も大きくなった。
・・・が、その分話が大味だし、説明不足のところも多々あって若干読みにくくなった気がする。もう少しじっくり描いてもよかった気がする。
せっかく世界観もキャラもしっかり出来ているのだから、長編シリーズに十分できる内容だし。
一応物語は落ち着くが、火種はいっぱい残っているから次のシリーズも楽しみ。 -
Posted by ブクログ
前作「時の地図」がとっても面白かったので、何とあの続編が!と期待に満ち満ちて読み出したのだが…。うーん、どうだろう。
「時の地図」は名作SFを換骨奪胎したおふざけが本当に楽しく、最後には正当派SFらしい大きなまなざしが感じられて、いたく感心した。本作でも「宇宙戦争」をはじめとするよく知られたSFが自在な手つきで料理されているのだが、上巻の段階ではどうにも心が弾まない。下巻の半分を過ぎたくらいになってようやく流れに乗ることができたが、そこまでは正直辛かったなあ。
冒頭で全体の仕掛けは見えている。まあ、作者も特に隠そうとはしていない感じだ。そこがなあ、タイムトラベルものとしては興趣をそぐ気がする。あっと驚かせてほしいのよ。ラストで多元宇宙について言及されるが、目新しさがなくてちょっとがっかり。
これは「期待しすぎて空回り」という私によくあるパターンだったようだ。面白いお話だとは思います。これから読む人は、くれぐれも「時の地図」を読んでからにされるように。 -
Posted by ブクログ
ネタバレとても深い内容だった。
話を読む中でわかってくる、人々の神話や非科学的なモノを信じる力が失われた結果による妖精界の変化、ミーガンが狙われる理由、ミーガン・妖精猫・パック・アッシュの冒険には、驚かされるものばかりだった。
アメコメっぽい言い回しは否めないけど、それを差し引いても、すごく面白かった思う。
最後、母親に会えるも、作中でイーサンをさらった犯人の情報を得る対価として支払ったものの重さがミーガンにわかっていないというのはすごく悲しかった。そしてアッシュと交わした契約を果たすべく、それを受け入れるところはカッコいいと思った。
パックがダウンしてからまた出るかなと思っていたけど、ずっと出なかったのはちょっと残念だった。
ミーガンとパックの恋模様かと思いきや、アッシュにどんどん惹かれあっていくところはとても面白いと思った。
ファンタジー類はずっと抵抗があったけど、これを読んで、とてもその魅力に引き込まれた。