眉村卓のレビュー一覧
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著者の作品は時折読みたくなる。長編第2作という初期作品(1966年作品)だけあってもう若々しい熱量がすごい。大好きな司政管シリーズに通じる体制の内側から見た苦悩と変革だったり、市井の人々の生活感を取りこんでいたりと著者の特徴が全て盛り込まれています。それどころかその後の作品では消え去ったネットワークによる情報操作される世界も描かれています。傑作。P+D booksで再刊されたのは喜ばしい(紙質安っぽいけど)。
現在のスマートフォンが当たり前の生活を予言したようなイミジェックスという小さな箱によって子供の頃から感情、教育、思想を方向づけされた平和な世界。しかし、その裏側には思想統制や階級格差、経 -
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長年連れ添った伴侶を
見送った後の心境たる
や。
喩えるなら最終列車が
行ってしまったホーム
でしょうか。
静かで、すこし寒くて
だれもいないベンチに
ぽつんと座るような…。
立ち尽くす人もいれば
淋しく微笑む人もいる
でしょう。
笑い声の余韻、喧嘩の
後の湯呑みのぬくもり
…
時折、風が吹いて記憶
をそっと撫でていく。
愛した分だけ空っぽに
なると言うけれど、
それはね、満たされて
いた証なの。
ほら、夜空を見上げて
みれば星が瞬いている。
もう一度ただただ君の
名を呼びたいと、
だれしもいつかきっと
そう思う日がくるから
──
静かに涙が溢れてくる。
最終章に溢れる -
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日常を歩いていたはずの男がさまよいこんでしまったのは、ありえたかもしれない自分の別の人生だった。ということで本作は無数に分岐された世界の様相を描いたいわゆるパラレルワールドものの一作です。
SF作家の上村徳治がある日、A新聞社のビルのエレベーターを出ると、異変に気付く。十七年前に辞めた会社の前に来ているのだ。その会社はA新聞社のビルにはないはずなのに。上村が踏み入れてしまったのは会社を辞めずに、その会社で次長になっているもうひとつの自分がいる世界だった。
何より印象的だったのが、元の世界に戻りたい、という思いはありながらも、踏み入れる世界にも日常の営みがあることを感じて、淡々と静かに -
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〈いいのだ、いいのだ、それでいいのだ。
というより、何だっていいのだ。
どうせ近々この世からおさらばするのである。となれば、おさらばしない現実の存在を認めたっていいだろう〉
リアルタイムで読んできたひとならば、あるいはその当時を知るひとならば、まったく違った感慨を覚えるのかもしれませんが、私は詳しくないので、読んだ素直な気持ちを綴ることしかできません。
著者自身を思わせる作家、浦上映生がたゆたう現実と幻想、生と死の境。ただの回顧ではなく、小説への、フィクションへの強烈な愛と意志を感じました。SFのひとつの時代を支え、そして長い年月、書き続けた小説家が、小説家としての軌跡を、小説として -
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夫婦の絆って素晴らしい!読書芸人カズレーザーが絶賛していた作品。大きな感動を呼ぶ1冊。
子供の頃、本書の作者眉村卓の学園もののSF作品を読んでいた。数十年ぶりに筆者の作品を手に取る。
余命1年を宣告された妻。小説家の夫は妻のために毎日1作の短編小説を書くことを妻に約束する。余命宣告を越えて5年間の闘病生活。作品は全部で1778篇。その中から選んだ19篇から成る本書。
もちろん作品だけでなく筆者自らの作品解説。そしてこちらも感動の妻との思いでを語るエッセイ。妻との数多くの思い出が涙を誘う。
一日一話。プロの作家とはいえ、相当の苦労があったようである。それでも毎日妻のため出来立ての作品を届 -
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ネタバレ眉村卓氏が、癌で弱っていく妻に毎日一話のお話を書くことに決めて、5年(?)くらい書き続けた。
そのお話自体は、新聞で紹介されたり、抜粋して書籍になったりすでにしているらしいが、この新書はその経緯を著者自身が書き記し、どんな心もちでお話を書いていたのか、自分の書くお話がどのように変化していったのか、などの当時の心境や奥様の様子も少々紹介している。そしてこれまで他の媒体では紹介されていない「お話」を中心に、何篇かも収録されている。
最愛の伴侶が、余命わずかと知った時、人にできることは限られているとは思うが、作家ならではの「一日一話書く」という行為。私はとても共感できる。あえて闘病とは関係なく、物語 -
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これは行政官の物語である。司政官マセの内面の動きに焦点を当て、その施策と社会の動きを克明に追っていく。どこでどのような施策をとるか、ある種シミュレーション・ゲーム的な理知的な面白さに満ちている小説である。連邦事業団や連邦軍など司政官の権限が及びがたい伏兵の存在、そして物語の冒頭「いい人たち」と描写される先住民の予測不能な動向。
眉村卓は「インサイダー文学論」ということを謳っていた。組織の内部にいる人間の物語ということだが、内部の人間が必然的に持たざるを得ない矛盾も含めてある肯定的な立場で描いていこうという感じだろうか。「司政官」シリーズもまさにそれである。とはいえ、現実の私たちの世界の行 -
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『司政官』シリーズの第1長編『消滅の光輪』。『SFマガジン』連載後、早川書房で1巻の単行本として出版されたあと、ハルキ文庫から三分冊で出ていたが、絶版となっていたもの。東京創元社から、二分冊での登場である。
『SFマガジン』への連載の終了が30年前。最初は短めの長編くらいに考えていたらしく、「前編」「中編」……と連載が始まって、いつしか連載第何回になったという経緯は、今回のあとがきに書いてあるが、当時連載を待ち遠しく読んだことが懐かしい。単行本化されて再読しても面白かったが、30年して読んでもやはり面白い。
司政制度の衰退した時代、惑星ラグザーン。司政官マセは新任司政官として赴任する。 -
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「日本SFの第1世代」の眉村卓の代表作、司政官シリーズの全短編である。
眉村卓は 『まぼろしのペンフレンド』や 『なぞの転校生』、それから『ねらわれた学園』といったジュヴナイルSFが現役としても、10年以上前に癌の奥さんを介護しつつ、彼女のために毎日ショートショートを書くという看病生活で、すっかり本格的な作家活動からは退いてしまったかのようだが、この司政官シリーズなどは上記のジュヴナイル以上に復活して欲しかったものだ。司政官シリーズは7短編と『消滅の光輪』『引き潮のとき』という長大な2長編からなる。
遙か未来、宇宙進出を果たした人類。連邦軍が力で制した植民惑星に平時の体制を樹立し、その