あらすじ
スマホに支配された現代に通じる近未来物語。
娯楽も、ニュースも、労働も、そして食事までもコンピュータシステム「イミジェックス」よって提供されている第八都市。イミジェックスから絶えずもたらされる情報に身を任せていれば、人々は幸せに人生を送ることができる――と思わされていた。
イミジェックスによる洗脳は非常に効果的で、そこに存在しないものを“ある”と思わせたり、不都合な存在は見えないようにすることさえ可能にしていた。しかし、偶然にもイミジェックスのしがらみから逃れたラグ・サートは、コンピュータに支配される暮らしからの脱却を目指す革命団の一員と出会い、仲間に加わる決心をする。
打倒するべきはイミジェックスだけではなく、じつはその背後に“虫”の存在があった。ラグたちは限られたリソースのなかで、“虫”とイミジェックスを倒すすべを探っていく――。
あたかもスマホに支配されてしまったかのような現代とオーバーラップする、眉村卓、渾身の長篇。
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Posted by ブクログ
著者の作品は時折読みたくなる。長編第2作という初期作品(1966年作品)だけあってもう若々しい熱量がすごい。大好きな司政管シリーズに通じる体制の内側から見た苦悩と変革だったり、市井の人々の生活感を取りこんでいたりと著者の特徴が全て盛り込まれています。それどころかその後の作品では消え去ったネットワークによる情報操作される世界も描かれています。傑作。P+D booksで再刊されたのは喜ばしい(紙質安っぽいけど)。
現在のスマートフォンが当たり前の生活を予言したようなイミジェックスという小さな箱によって子供の頃から感情、教育、思想を方向づけされた平和な世界。しかし、その裏側には思想統制や階級格差、経済搾取といった現代の問題が全て描写されていて驚きます。そこに唐突に絡んでくる立ち位置不明な宇宙人?や反体制による革命への情熱、国家を上回る企業による統治など1周回ってもはや先端か。チャイナ・ミエヴィルの「都市と都市」の世界は40年前に描かれていた!
早川書房版で読んだけど解説の石川氏によれば、その辺の設定に説得力が不足しているとあるけれど発表から60年後の現在はそうなりつつあるからなぁ。説得力にかける未来が実現されつつある不条理な現在。一時期SFの発想力が企業には必要とかあったけど、その発想力も企業トップからすれば説得力に欠けると評価されて潰されるんだろうな。発想した人が自分で実現しなければ達成し得ないということもこんな作品を読めばわかります。それほどまでに組織化は恐ろしいけれど、力を発揮するためには必要だという矛盾を孕んでいるしくみだということを著者はすでに描いています。バイアスがかかったマスコミやあふれる偽情報に踊らされることなく自分で思考する力、実行する力が年をとってもますます必要な世界になったなと感じます。長編第1作「燃える傾斜」も読んでみようかな。