あらすじ
自身の体験も織り交ぜながら描く並行世界。
SF作家の〈ぼく〉が、収録のため放送局のエレベーターに乗り込むと、降りた先にあったのは、スタジオではなく、かつて〈ぼく〉が一般社員として勤めていた会社だった。しかもいつの間にか〈ぼく〉が資材部次長になっており、亡くなったはずの同級生が生きていて――。
その後も2ヵ月ごとに、第一工場総務課長、フリーライター、大地震で焼け出された人間と〈ぼく〉の肩書や状況は目まぐるしく変わっていき、「ぼくはひょっとするとこの世界では、自分のおさまるべき場を、発見出来ないで終るかも知れない」と思うようになる。
眉村卓が、自身の体験も織り交ぜながら描くパラレルワールドの世界。「もしあのとき違う選択をしていたら……」という誰もが思い描く空想世界を見事にまとめた名作。
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Posted by ブクログ
日常を歩いていたはずの男がさまよいこんでしまったのは、ありえたかもしれない自分の別の人生だった。ということで本作は無数に分岐された世界の様相を描いたいわゆるパラレルワールドものの一作です。
SF作家の上村徳治がある日、A新聞社のビルのエレベーターを出ると、異変に気付く。十七年前に辞めた会社の前に来ているのだ。その会社はA新聞社のビルにはないはずなのに。上村が踏み入れてしまったのは会社を辞めずに、その会社で次長になっているもうひとつの自分がいる世界だった。
何より印象的だったのが、元の世界に戻りたい、という思いはありながらも、踏み入れる世界にも日常の営みがあることを感じて、淡々と静かに受け入れていく語り手の姿でした。あくまで日常の地続きに非日常が存在する。後半はディストピア的な世界観が広がっていき、意外な展開も見せるのですが、派手なインパクトで胸を鷲掴みしてくるというよりは、全体的にはしみじみと胸に染み入ってくるような作品でした。