吉野弘人のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
昔ながらの刑事とAI捜査官のバディもの
上記の要素自体はよくあるが、『昔ながらの刑事』が子を持つ母親である点は本書の特徴ではないかと思う。脇を固めるチームメンバーもしっかり深掘りされるので、最後まで読み進めるとチームみんなにそれなりの愛着を覚えていた。
真相が判明するまでの過程はスリリングではあったけど、犯人とその動機についてはそこまで心を揺さぶられなかった。目的が壮大すぎるからかな?
個人的に一番心に残ったのはP475の、事件が解決し、ロックと共に橋の上で川を見つめるキャットが、彼の慰めの言葉に対して返したセリフ。
人間とAIどちらが上だとか、AIに人の感情が理解できるかできないかとか、そういうことを超越したキャットの言葉がこの作品の結末として相応しいと感じたし、この二人の話をもっと読みたいと思わせてくれた。 -
Posted by ブクログ
人工知能捜査体のロックと、自らの堪に従って動く刑事のキャットがバディとなり、事件解決を目指す話。
AIに肯定的か否定的かと言ったら、キャットは間違いなく後者で、ロックのやることを非難したり、ロックのことを「それ」と呼んだりしており、読んでいて(何もそこまで嫌わなくても...)と思った。
ただ、ロックにしたらキャットの自分に向ける感情なんて気にすることではないから、別に良いんだろうけど。
そんな2人(正確には1人+AI)が一緒に事件の捜査をするって...どうなってしまうのかという心境で読み始めた。
捜査は地味に進んでいく。(地味過ぎて少し眠くなってしまった。)
キャットが夫を亡くしていること、息子が精神的な落ち込みからやっと回復したことが判り、彼女を応援したい気持ちになったが、もうちょっと周囲とうまくやればいいのに...と思ってしまう。でもこれぐらい性格がキツくなければ、女性が警察組織で上に上がっていくのは厳しいのかもしれない。
2つの失踪事件と、息子の失踪との共通点をキャットが思いついたときはまさかと思った。刑事の勘も馬鹿にしたものじゃない。
確かに、AIの統計的な確率も捜査にかなり役に立つが、キャットのような昔ながらのやり方も必要だ。うまくAIを使えるかどうかが鍵だが、人間ってどうしても「人間の方がAIより偉い」と根底で考えているから、うまくいかないところがある。
ロックがなぜ人間は、AIが人間のようになりたがっていると考えるのかと言っていた。確かにそうだ。人間は驕っている。
AIに感情はないことは分かっているのだが、ついつい感情があるように接してしまう。それは悪いことではないよね? -
Posted by ブクログ
直観派の刑事と最新のAIがバディを組むという近未来警察ミステリ。
近未来と書いたが数年先の未来ではない。もう今でも最先端テクノロジを惜しげもなく使えば可能なのではないかと思われるような直近の近未来だ。すぐそこにある未来だからこそイメージしやすく、自分の職場でこういうAIがバディだったら仕事も楽だし効率上がるだろうな。いや、待てよ、これだとマネージャーは部下が不要になるんじゃね?とかいう具合に想像できる。少なくとも近々ホワイトカラーはAIに職を奪われる未来が来るだろう。本作を読んでいると「AIすげ~!有能すぎ!」と思うが最大の魅力はそこではない。最先端でありながら英国警察ミステリの伝統を踏襲した普遍の面白さがある。最近読んだ「ストーンサークルの殺人」と似た部分が多いが、頑固で直感で動くベテラン刑事と天才だが社会性に欠けるパートナーが喧嘩やユニークな掛け合いをしながら徐々にお互いを理解し尊重していく流れ。そして事件の謎を解くために地道な捜査による証拠を積み上げていく過程。これらは英国警察ミステリの定番といってよく、だからこそ読んでいて心地いい。英国推理作家協会(CWA)賞受賞も当然だろう。
この凸凹コンビもシリーズ化しているようだが、現在の生成AIの進歩は凄まじいためAI捜査官ロックの進化にキャットがどう対応していくのか楽しみだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ2026年の22冊目は、スティーヴ・キャヴァナーの「キル・フォー・ミー キル・フォー・ユー」です。
スティーヴ・キャヴァナーを初めて読みましたが、賞をいくつも受賞したり、ノミネートされるのも頷けます。
単純な交換殺人の話かと思ったら、話が次々と展開し、一筋縄では行きません。時間軸では、見事に錯覚させられました。ディーヴァー同等の捻りとドンデン返しが有ります。しかも、善100%に振り切っていない所が、これ又、良いです。
ラストでアマンダが、夜のビーチでジェスのスパークルズを燃やすシーンが堪らなく良いです。
愛する人を理不尽にも失った人の物語です。
☆4.8他の作品の翻訳をぜひとも望みます。 -
Posted by ブクログ
スティーヴ・キャヴァナー『キル・フォーミー キル・フォー・ユー』小学館文庫。
初読み作家。ジェフリー・ディーヴァー以外にツイストの魔術師が居たとは全く知らなんだ。
1つ1つのセンテンスが短く、小説としては非常に味気無いが、ストーリーは非常に面白く、スリリングである。特に中盤からの大展開には驚かされる。前半と後半とで全くテイストが異なり、読み終えてみると、まさかのサイコサスペンス小説だったことに気付かされるのだ。
舞台はニューヨーク。夫と近所の公園に外出した6歳の娘が、夫が目を離した僅かな隙に何者かに連れ去られた上に殺害され、その責任を感じた夫も1週間後に自殺を果たすという悲劇に見舞われたアマンダ・ホワイトは警察の捜査で浮かび上がった被疑者ウォレス・クローンに復讐しようとしていた。被疑者のクローンは証拠不十分で無実となり、密かに付きまとうアマンダに対して裁判所はクローンへの接近禁止命令を下していた。
接近禁止命令に違反したアマンダに対して裁判所は保護観察とグループ・セラピーへの参加を課す。アマンダは裁判所の命令に仕方無く従い、グループ・セラピーに通い始めると、そこで自分と同様に娘を殺害された母親のナオミ・コットンと知り合う。ナオミの15歳の娘のレベッカはフランク・クウィンにレイプされ、首を絞められ、殺害されたのだが、証拠不十分で釈放されていたのだ。
互いに同じ境遇で、復讐の機会を伺っていることを知ったアマンダはナオミに互いの復讐の相手に対する交換殺人を持ち掛ける。
一方で、弁護士の夫のスコットと何の不自由も無い幸せな結婚生活を送っていたルース・ゲルマンは、スコットの外出中に、家に侵入した青い眼の男に襲われ、全身を17ヶ所も斬りつけられ、瀕死の重傷を負う。ルースが辛うじて生命を取り留めたのは、近所の家に救急車が来たことに驚いた犯人が留めを刺せずに逃走したためだった。
事件のショックから犯人に襲われた家にも戻れず、ホテルの部屋に閉じこもったままのルースをスコットがレストランでのディナーに連れ出す。しかし、その店内にはルースを襲った青い眼の男がステーキを食べながら、ルースを見つめていた。
この後、娘を奪われたアマンダとナオミ、青い眼の男に襲われたルースとその夫のスコットがどう関わっていくのか。中盤の急展開からストーリーは大きなうねりを見せ、読者を全く別な世界へと誘う。
本体価格1,210円
★★★★ -
Posted by ブクログ
ネタバレ2026年の14冊目は、ヘンリー・ワイズの「無垢なる町」です。2024年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞受賞作です。「血塗られた指輪」に続いて、アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作の読書となりましたが、この本は、ミステリーやエンタメという括りよりも文学作品と言った方がしっくり来ると思います。
それは、作者のヘンリー・ワイズが詩人という事が大きく影響しているように思います。会話文が少なく、登場人物の心情描写に多くを割いている事、舞台であるアメリカバージニア州の歴史や自然描写の巧みさ、そして何よりもアメリカ南部に生きるという辛さが良く描かれているからです。誰がトム・ジャンダーズを殺害したのかという構図ながら、唐突にそれが破られてしまうのも作者が、ミステリーという範疇に重きを置いていない証拠だと思います。優れた文学作品を読むという気持ちで向きあえば、読後に余韻に浸れるのではないでしょうか。
☆4.7 -
Posted by ブクログ
バージニア州の南部
時が止まったように荒れ果てた小さな田舎町…
保安官補のウィルは炎に包まれた家の中で友人トムを発見する
彼は何者かに刺され死んでいた
そこから逃亡した者を追うと、旧友サムの父ジークだった
証拠が見つかったことからジークを逮捕するが、被害者の家族ですらジークの無罪を主張…
ウィル自身もジークの逮捕に疑問を持ち、私立探偵のベニコと共に上司に逆らい捜査を始めるが…
小さな町の気風、そこに住む人々の苦しみや哀しみ
その描き方が美しい…と思ったら著者のヘンリー・ワイズは詩人として活躍していたらしい…納得!
そしてこの作品が彼の小説デビュー作で、2024年のアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞を受賞している
この作品は犯人は誰かということよりも、この事件に登場人物たちがどう向き合っていくのか?というところに重きが置かれているように思う
主人公の保安官補ウィルも心にキズを抱え、その事件にも深く関わっている自身の上に苦しむ…
南部の人種問題や貧困、ドラッグ、暴力…
居場所を失った人々は苦しみながらも結局何かに依存しなければ生きていけない
そんな小さな田舎町の設定が物語の舞台に大きな役割を果たしている
だからこそ…の物語なのだ!
湿地で暮らしていた死んだトムの恋人・デイの生活背景に『ザリガニの鳴くところ』が重なった
そして
本作の続編はバージニア州南部の湿地帯が舞台らしい
秋が待ち遠い…
-
Posted by ブクログ
アメリカ南部の幹線道路沿いに自分の写真を配したビルボード弁護士、ジェイソン・リッチシリーズの2作目。まだ依存症の後遺症に苦しむジェイソンの元に因縁のギャングから殺人事件弁護の依頼が来る。容疑者はどこを切り取っても勝ち目のない元フットボール選手。負けが濃厚な事件をどの様に解決するのかと言うリーガルミステリーと共に、依存症者が立ち直る苦しさ、家族との関係など、人間ドラマとしても面白い。作者の作品は全て読んでいるが、どれも一貫して、あり得ない状況をひっくり返す、まるで黒が優勢のオセロ版を最後の一手でほぼ白に塗り替えるような鮮やかさがたまらない。次作が待ち遠しい。