谷瑞恵のレビュー一覧
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“「……なんだ、そういうことか」
つぶやいたニコが、むしろレイヴンが怒っているのではないかとおびえていたことなど知る由もない。
ニコはほっとしたように息をつくと、急に胸を張って咳払いをした。
「そりゃ、たいへんだったな。人間ってのはそのへん、器が小さいからな」
「ニコさんは違うのですか?」
「いいか、レイヴン。おれはそんな細かいことを気にする男じゃねえ。誰にだってそれぞれ事情ってもんがあるからな。あんたに悪気がないってことはわかってるさ」
てくてくとこちらへ近づいてくると、いつものようになれなれしく膝のあたりをぽんぽんとたたく。
「心配しなくていいぞ。きちんとあやまる相手には、寛大な気持ちで許すってのが紳士ってもんだ」
許してもらえたと素直に受け止めて、レイヴンはニコをちょっと尊敬した。さすがに紳士なんだと思った。
「ではこれからも、見捨てていいのですね」
「お……おう」
ふんぞり返って大きく出た姿勢のまま、ニコはそう答えるしかなかったが、レイヴンはありがたく受け止める。
これが友情というものなのだろうか。
見捨ててもきらわれないという、友情っていいものかもしれない、と彼は思った。
少々ずれた仲直りをし、ふたりはまた歩き出す。”
少しややこしくなってきた。
整理が少し追いつかん。
“リディアは何度も、彼に訴えかけていたのに。
馬車の中で、逃げないから気づいてと言った。あのときエドガーは、目を閉じて触れたリズが、リディアにしか感じられなくて戸惑っていた。
逃げないと言ったとおり、彼女はぎりぎりの瞬間も、逃亡を試みるのではなくエドガーにすがりついた。
彼に助けを求めた。
当然だ。将来を誓った相手が目の前にいたのだから、必ず自分を守ってくれると信じたはずだ。
なのにエドガーは、リズの態度に動揺していただけだった。理屈ではなく、リディアに助けを求められているように感じていたのに、直感を信じることができなかった。
リズに同情すれば、リディアの行方を知ることができなくなる。懸命に、自分にそう言い聞かせた。
冷淡な言葉をうらはらに、リズをかかえ込んだまま離せない自分がいたのに。
懇願とともにのばされた手を、取ることができなかったエドガーを前に、彼女はどんなに傷つき、失望したことだろう。
いやだ、さよならなんて言わないでくれ。” -
Posted by ブクログ
“「……まつげ?って、どうして?」
(恋する気持ちはまつげの先に宿るからよ。想いを胸に秘めて、じっと見つめるでしょう?眠れば想い人の夢を見る、目覚めてもその姿を追う、まつげに恋が宿るせいよ)
「ナイチンゲールだけあって、ロマン派の詩人みたいだな」
ニコが茶々を入れた。だらしなくあくびなどして、ますます他人事な態度だ。
「ねえ、ナイチンゲール、もう少し簡単な指南にならないかしら?」
とにかくキスをねだるなんて無理。けれどこのまま彼女につきまとわれるのは困る。
両手を組み合わせて、妖精相手に必死に懇願するリディアに、「フェアリードクターとは思えないな」とニコがつぶやくが、気にしている場合ではない。
(弱気ねえ。ま、いいわ。あたしは恋に弱気な女の子の味方よ。彼がまつげにキスする気になるよう、雰囲気づくりから教えてあげる。まずは今日、街へ彼を連れ出しなさい)
キスにくらべればまだやさしいが。
(そうしたら、ウィンドウショッピングでもしながら、贈り物をねだるのよ!)
そんなずうずうしいことができるだろうか。けれどナイチンゲールは、戸惑うリディアにきっぱりと言った。
(男性にとってはね、女性に贈り物をねだられるほどうれしいことはないんだから!)
そんなわけないでしょう。”
短編集。
若き日の教授が半端なくかっこいい。好青年だ好青年。
コウノトリの妖精の子もすごく可愛い。
“「あなたは?」
勢い込んでそう問われ、ますますフレデリックはうろたえた。
「独身で、立派な紳士だわ」
「で、でも、アウローラ」
「結婚してください」
「ええっ?」
「あたしじゃ、無理?好きになれない?」
「ま、まさか」
「なら、あたしをお嫁さんにして」
何がどうなって自分が求婚されているのかわからない。もしかしたら夢を見ているのだろうか。だとしたら、覚めるまでにまでに答えなければ。早く。
答えないまま目覚めてしまったら一生後悔するに違いないと、混乱する頭で必死に言葉をさがしている意識とはうらはらに、気づけば彼は“はい<イエス>”とあまりにもありきたりな返事をしていた。
とたん、抱きつかれた。” -
Posted by ブクログ
“「小間使いだからといって、特別扱いはしません。奥さまのご用のないときは、ほかの仕事もしてもらいますからね」
リディアの立場は、いちおうは奥さま付きの小間使いということらしい。とすると、オートレッド婦人のそばに仕えるのだから、やはり夫人の深い考えがあってのことなのか。
「あの、あたしのこと小間使いにするよう、オートレッド夫人がおっしゃったんですよね」
ミセス・ボイルは、わかりきったことをと言いたげに眉をひそめた。
「当然でしょう。さっそくですが、奥さまのお部屋にお茶を届けてもらいます。毎日この時間です、おぼえておくように」
「はい」
「それから、奥さまはここ数日、部屋にこもっておいでです。そういうときは、あなたが入っていいのは控えの間まで。奥のドアを勝手に開けてはなりません。控えの間で声をかけて、お茶を置いて下がりなさい」
「え、どうして部屋にこもっていらっしゃるんですか?」
「よけいなことは訊ねなくてよろしい」
「……はい」
「ご用がないか、食事とお茶の機会に忘れず訊ねるように。それ以外は、どんな急用だろうと奥さまに声をおかけすることはできません。いいですね」
となると、夫人と顔を合わせることも、どういう花嫁修業なのかと問うこともできない。”
婚約者としてどう振舞えばいいか分からないリディアが可愛い。
どこまで打ち明けていいのか、とか。
花嫁修業で行った先で勘違いから小間使いをさせられるリディア。
身分違いのせいで起こる問題を先走りで体験させられるような。
方法は別としてリディアを庇うエドガーの必死さが、それだけリディアが愛されてることを物語って。
“「でもね、またロンドンでお目にかかれるよ。きみへの感謝のしるしだと、舞踏会に招待してくださったんだ」
そのカードは、招待状だった。
直筆で、ヴィクトリア・Rと書いてあった。
「よかったね、リディア・女王陛下から直々に、拝謁と社交界デビューを許されたようだよ」
え?女王陛下?
「今回は、おしのびでオートレッド夫人を訪ねていらっしゃったんだ」
おしのび、って、でも……。
「あの、夫人はアレクサンドリーナって」
「ええ、アレクサンドリーナ・ヴィクトリアよ」
「ええっ、こ、公爵夫人が……!」
リディアは両手を頬に手を当てたまま硬直した。
うそ、あたし、平気でいろんなことしゃべったわ。愚痴とか言ったような気も……。
おまけに、お見送りもできなかったのに。
「これで僕も、婚約者を紹介できたわけだし、きみもお目通りがかなった。あとは堂々と、このとくべつな招待状を手に、宮廷へ乗り込んでいけばいいだけさ」
「で、でも、作法が……」
「基本的なことだけ知ってればいいから、メースフィールド公爵夫人が戻られてから教わっても間に合うよ。それにリディア、振る舞いを注目されるのはきみじゃなくて僕の方らしい。なにしろ、女王陛下に目をかけられた女性をダンスに誘わなければならないんだから」” -
Posted by ブクログ
“「リディアが僕のことをおぼえていない?」
スコットランドに向けて走る汽車の中、特等車両の個室で紅茶を味わいながら、ニコはエドガーに、リディアの家で見てきたことを語りはじめたところだった。
ケルピーに連れ去られたリディアの様子を探るよう、エドガーにたのまれたニコは、スコットランドへ行っていたのだ。
妖精であるニコが鉄道嫌いなのは、もちろんエドガーは知っている。しかしニコがエドガーのいたケンブリッジに到着したのは、彼らがエジンバラへ向かう汽車に乗る直前だった。
いやがるニコを紅茶とお菓子でつって、この汽車に乗せ、ようやくリディアの様子を聞き出したエドガーだが、それは彼にとって想像もしていないことだった。
「まったくおぼえてないわけじゃないんだ。ケルピーの魔法で、去年の今ごろ復活祭のためにロンドンへ行ったあとから記憶がすっ飛んでる。あんたのことは、たぶん、メロウの宝剣探しでひどい目にあわされた相手としかおぼえてないみたいだ」
「それは……、まったくおぼえてないよりたちが悪いじゃないか」
最初の最悪な印象だけが、リディアの中に残っていることになる。
「時間をかけて、ようやく僕を理解してもらえたところだっていうのに、ふりだしに戻るのか?」
ソファに身を投げ出し、エドガーはふてくされる。
初対面の状態なら、何度だろうと口説き落としてみせる。が、最初に彼女をだました前科があったからこそ、プロポーズも信じてもらうのも容易ではなかったのだ。”
やっと。って感じ。
リディアはエドガーと結婚することを決め、教授もそれを認めた。
いきなり結婚かとは思うけど、時代背景的に普通とな。
ロタとポールのこれは何ですか。
伏線ですか。
エドガーと結婚することを決めたリディア。
プリンスの記憶を取り入れてしまったエドガー。
これから新展開?
“父親が行ってしまって、リディアはふてくされながらも気恥ずかしそうにベンチに座り込んだ。
「リディア」
「近づかないで」
「ごめんね、心配させて」
うつむいたまま、彼女は言う。
「……プリンスは死んだって、聞いたわ。でも、あなたは手放しでよろこんでない。いいの、あたし何も訊ねないわ。あなたが話す気になるまでは……。だから、ひとつだけ信じさせて」
「うん、何?」
「黙って、いなくなったりしないって……」
「ああ、約束するよ。これからはいつでもそばにいる。もしきみが逃げ出したくなったって、どこまでも追いかけるから」
隣に腰をおろし、ひざの上で固く握りしめている彼女の手に手を重ねる。
「あの、べつにそこまでは……」
「もう、離さないからね」
ふたりきりになったことを、リディアはかすかに後悔したのかもしれない。誰もいない礼拝堂をあわてて見まわし、困惑したように目を伏せた。
「……近づかないでって言ってるでしょ。あたしまだ怒ってるの」
「抱きつきたくないくらいに?」
「そうよ」
頬いかかる髪を指先ではらうと、リディアはこわごわ視線をあげる。金緑の、妖精が見える不思議な瞳が、愁いを含んでこちらを見つめる。
やっと手に入れた、自分だけの宝石だ。” -
Posted by ブクログ
どこまで話が転がるのか…先が読めないまま買い続けてもうシリーズ22?冊目。
相変わらず伯爵夫妻は想いを確かめ合ったりすれ違ったりしています。アーミンとケルピーのコンビも結構好きなのですが…今回の事件の流れはちょっとすっきりしないなー。大丈夫なのかなー。伯爵夫妻の愛は大丈夫だって信じてるけど…役者が出揃いすぎて脳内パンク気味。予言者とプリンスに関するアレコレが曖昧にこんがらがってきたので、時間ができたら読み返したいなー…なんて。
それから…そうそう、ニコのしっぽはみんなのものなのです!(笑) 伯爵夫妻は問題を両手山盛りに抱えているので、もう何の屈託もなく和めるのはレイヴンのとんちんかん発言だけです。 -
Posted by ブクログ
“「……だめかもしれない」
窓の外を眺めたまま、エドガーはつぶやいた。
「はじめて口説き落とせなかった女の子が、リディアだってことになるかもね」
「そんな弱気な言葉、はじめてうかがいました」
「はじめてづくしだ」
いっしょにいるだけで安らげて、未来を夢見ることができる女の子も、リディアがはじめてだった。
いつのまにか彼の中で、リディアの存在は大きくなっていた。
「だめでも、リディアは守るしかない」
振り返る。レイヴンの大きな瞳はかすかな迷いもなくまっすぐにエドガーを見ている。
この忠実な少年には、これまで何度もささえられてきた。
アーミンが行ってしまっても、リディアが振り向いてくれなくても、エドガーはレイヴンとなら戦っていけると勇気づけられる。
「すべて終わって、リディアがもう僕の顔を見たくないと思うとしても、そう思われるような手段を取ってしまうかもしれないとしても、彼女の未来を守るのが巻き込んだ僕の役目だから」
もしもプリンスに負けることがあっても、彼女を救う道だけは確保しなければならない。
「情けなさすぎるな。レイヴン、それでもおまえだけはついてきてくれるか?」
「もちろんです、エドガーさま」”
ううう。
展開したのに。
やっと展開したのに次巻に持越しとは。
うー、うー。
“「あたし、あなたのすることを止められないし、もうとことん協力するしかないと思ってる。でも、いけないことを平気でするようにはなってほしくないの。良心を持ち続けていてほしいの」
彼の腕をつかんだまま、力が入っていた。そんなリディアをなだめるようにして、肩を抱き寄せられる。
触れないという約束を、お互いがやぶっても、リディアは彼から手を離せなかった。
今の言葉は切実なリディアの願いだ。そしてもう、彼が何をしても、離れられないとわかっている。
とっくに気づいていたことだった。
エドガーのことが、好き。
夢魔にあんな夢を見せられるまでもなく、エドガーにとってとくべつな女の子になりたいと思っていた。
だからこれだけは譲れない。プリンスのようにはなってほしくない。
「あたしはここにいるわ、そばにいるから、お願い、人を傷つける前に少しだけ考えて。プリンスのねらいが、あなたからすべてを奪って絶望させることなら、あたしだけはどこへも行かない。あなたを絶望させたりしない。だから……」
「結婚してくれるの?」
「……………」
好き、だから怖い。
プロポーズを受けたら、きっと一番を望んでしまう。あなたの心が少しでも、彼女を想うことさえ許せなくなる。
そこは、リディアには踏み込めない領域だとわかっていても、今よりもっと苦しくなる。
エドガーにとって女は二種類だけ。アーミンか、その場しのぎの恋人か。
夢魔が見せた夢。けれど真実かもしれない。
それでも、この人と結婚できるの?” -
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“うそだらけの自分だ。
アシェンバート伯爵という名も、経歴も、紳士的なそぶりもうそ。それを鵜呑みにしているこの少女は、うその口説き文句に気づかない。
本当のエドガーを知ったら、彼女はおびえ逃げ出すだろう。エドガーの痛みも苦しみも、背負ってきたものも、他人が察するのは容易なことではない。
本当のことを知っても逃げ出さずに、この痛みに触れてきたのはリディアだけだ。だまされていたと知っても、あの純粋な少女は、せいいっぱい崖っぷちの男を救おうとしてくれた。
そばにいてほしいのはリディアだけだ。うそつきな、本当のエドガーを知っているからこそ、彼の求婚を信じてくれないリディアだけなのだった。”
短編集。
エドガーと出会う前のリディアの話とか。
最後が甘いよ。
“「夢を、見ていたよ。たぶん、リディアの夢だ。キスしようとしたかもしれない」
「殴られませんでしたか?」
「どうかな。たった今見ていたのに、夢ってのは思い出せないんだから」
ただ、リディアの金緑の瞳を間近に見ていた。殴られはしなかったかもしれないけれど、彼女はなかなか目を閉じてくれなかったような気がする。
エドガーの夢の中まで、リディアはリディアらしかった。
カールトン宅をあとにしながら思う。
レイヴンは、リディアが離れてしまってもあきらめてくれるというけれど、エドガーにとってリディアをあきらめることは、レイヴンよりも、そして自分自身で考えているよりも、ずっと難しいのだろうと。
「ああ、隙のない女の子も、大好きだ」” -
Posted by ブクログ
“「で、何なんだ、これは」
ドアの前に積み上げた椅子やテーブルを、ニコは二本足で立ったまま見あげ、不思議そうに首を傾げた。
「……ちょっとね」
エドガーが忍び込んでこないように、用心したつもりだった。
そうまでしてリディアを求めるはずもない。とは思っても、なんとなく気になって、ちょっとした物音でもなかなか眠れなかったのだ。
けれども朝になってみると、どうしようもなく滑稽だ。エドガーは来なかったわけで、なおさら自分の過剰な心配が恥ずかしく思えてくる。
アーミンやトムキンスが来て気づかれないうちに直そうと、椅子に手をかけた。
「手伝おうか?」
「ええ、お願い……」
って、誰?
おそるおそる振り返ったリディアの視線の先で、椅子をひょいと持ちあげたのは、エドガーだった。
「な、なななんであなたがいるのよーっ」”
アーミンは一体何を企んでいるのかとか。
エドガーの破滅?うん?
“「だいたい、おまえはどちらの側なんだ?」
それには答えずに、アーミンは淡々と続けた。
「ひとつだけ、リディアさんをプリンスの手から守る方法があるの。あなたが、ユリシスに力を貸すことよ」
「は?冗談じゃない。俺は人間なんかに従わない」
ケルピーはこのうえなく不愉快だった。ユリシスという奴は、とにかく虫が好かないからだ。なのに力を貸す?ふざけんなと思う。
「ユリシスは、いざというときあなたにじゃまされたくないと思ってる。うまく取り引きをすれば、リディアさんを守れるわ。ゆっくり考えておいてちょうだい」
アーミンはふわりと水面に向かって浮上し、ケルピーの視界から消えていった。” -
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“「まずい」
ケルピーがつぶやいた。
「おいっ、早く逃げろ、火の気配だ。ワームが火を吹くぞ!」
エドガーはリディアの腕をつかみ、駆けだす。
みんなでいっせいに奥へ向かって走りながら、リディアは背後に、ごうっという奇妙な音と熱気を感じて振り返る。
向こうの方がやけに赤く、そして明るい。
ケルピーが立ち止まる。
「くい止めるからさっさと行け!」
「で、でも、ワームの炎じゃあなたがあぶないわ」
立ち止まろうとしたリディアだが、エドガーはそうさせなかった。
「ケルピー、きみの犠牲は無駄にはしない」
冗談ともつかないせりふをあっさり吐いて行こうとする。
「はあ?やばくなったら逃げるぞ俺は!だからそれまでに、できるだけ遠くへ離れろっての!」”
くっついたり、離れたり。
もどかしいような、それでいて進展しているという。
“リディアには、彼がワームに勝つことが愛情のあかしなのかどうかよくわからない。男の人の理屈なんだろうと思う。
でも、人とは違う能力を持つリディアのために、自分も変わろうとしてくれているのだとわかる。
メロウの剣を使えるようになりたいと願う彼は、リディアの能力を利用するのではなく、本当に守ろうとしてくれている。
気がついたら、リディアは彼の首に抱きついていた。
背伸びして、頬に軽く唇を寄せる。
あわてて離れながら、自分でも驚いて真っ赤になりながら、どうにかつぶやく。
「……死なないで」
「……ありがとう」
からかったり調子に乗ったりするでもなく、そのひとことだけだったのは、彼も、ものすごく驚いていたのかもしれない。” -
Posted by ブクログ
“「帰る前に婚約者の顔を見に来てくれたのかい?」
「違うって、何度言ったらわかるの?それよりこの指輪……」
「抱きしめてもいい?」
「はあ?」
すでにエドガーは、リディアの目の前に接近していて、茶化しているふうでもなく、灰紫の瞳で切なげに見おろしている。
「い、いやよ」
リディアがそう言ってしまうのは、ほとんど条件反射だ。
「一分だけ」
「長いじゃない」
「じゃあ三十秒」
不思議といやらしい感じはなくて、子供のようにあまえたがっている、そんなふうに思うと、リディアは自分でも意外な返事をしてしまっていた。
「……十数える間なら」
返事をひるがえす間もなく抱きよせられた。
何かつらいことでもあったのかしら。
そんなふうに感じると、力になれたらと思うのに、結局リディアは緊張を解くことができずに固まったままだったから、彼のなぐさめにはならなかったのではないだろうか。”
地味ぃーに展開中。
でも、こんな終わり方されると、次巻のエドガーの様子が気になって仕方ない。
“床に座り込んだまま、リディアが横になっているソファを背もたれに寄りかかっているエドガーは、ずっとうつむきがちだ。
「きみと結婚する男は、幸せになれるんだろうな」
「…………」
「心から愛されて、家族みんなで幸せになれるんだろう。その幸せは、僕のものにはなり得ないのかな」
わからない。リディアはむしろ、エドガーがそんな平凡なものをほしがっているのかと疑問に思う。
プリンスへの復讐の先に、彼は将来への希望を持っているのだろうか。すべて終わらせるために自分さえ葬ってしまいそうな危うさがあるから、リディアにかまうのは、ありえない未来をつかの間に夢見ているだけのようにも思える。
でも、ありえない夢を見ているだけだとしても、それが彼の夢なら、とても平凡なものを心から望んでいるのだ。” -
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“なのに今は、わざわざリディアに呼びかけて、テリーサの誘いを断った。
リディアにキスしたことにならないなら、しないという宣言。
でもだからって、本気を信じる気になんて。
勝手に人を利用しようとする男なんて。
「……だるいわ。もう、力が入らないみたい」
「横になる?」
「ええ……」
テリーサが腕の力を抜く。横たえようとしたエドガーは、けれど急に、かかえ直すように抱きしめた。
「もう少し、こうしていたい」
彼はそう言ったけど、本当はリディアの手が、左手だけが、彼のそでをつかんだまま離そうとしなかったからだ。
どうしてだかリディアにもわからなかった。もはやそんな力もない気がしているのに、離したくなかった。
ごめん、とまた彼はつぶやく。
言葉も気持ちも、うまく通じ合えない。退いてしまうばかりのリディアは、心の片隅ではもう少し踏み込んでみたいと思っても実行に移せない。
でも今は、自由になるのは片手だけ。そこだけに気持ちが集中したから、抑制がきかなくなっている。
ふと。この手でなら彼の心に触れられそうな気がした。
本当の気持ちを知りたいと、切実に思った。
そうして、いつもより少し戸惑い気味に、落ち着きなくリディアをかかえている腕に、うそは見つからないような気がしていた。”
あ、やべ。
読んでて口元がにやけてくる感じ。
リディアの揺れ動く心情とか。
エドガーの戸惑いとか。
描写がかなり上手くて読みやすい。
アーミン帰ってきてくれてよかったよアーミン。
“口だけなのはリディアの方だ。
「どうして、助けに来たの」
「必ず助けると言っただろ」
「期待してなかったわ。あたしは、あなたの言葉なんてこれっぽっちも信じない。……なのにどうして、あぶないのに火の中へ……」
「信じてくれなくても、きみのためならどこでも行くよ」
「簡単に言うのね」
リディアのために無茶をしたわけじゃない、まだ少しなら時間があると踏んだからこそ戻っていったのだ。
リディアが戻るのは無理でも、自分ならまだどうにかなると判断しただけ。
「あなたには、簡単なことなのね。でなきゃあきらめるわけだもの」
それでも、そこまで冷静に判断して行動するには、どれほどの勇気と度胸が必要だろうか。
リディアのためなどと、彼はさも簡単そうに言うけれど、簡単であるはずがない。
びっくりして、そして心を動かされたけれど、素直にありがとうと言えない自分がいやだ。
「怒っていいのよ」
「どうして怒ると思うんだ?」
「あたし、ひどいこと言ってるもの」
彼のため息の間が、やたら長く感じられた。
「きみはいつも、近づいたかと思うとまたあとずさる」
そう言って、少し淋しそうに笑った。” -
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“「次はワルツだよ」
いきなりワルツ、難関だ。
「エドガー、やっぱりやめたほうが……」
「ポールとは踊っても、僕はだめなのか?」
ちゃんと気づいていたようだ。
「そんなんじゃないわよ。あなたに恥かかせちゃうかもしれないから。せっかくさっきはうまく切り抜けたのに、またあたしのせいで……」
覗き込むように、アッシュモーヴの瞳がリディアを見つめた。何を言うのかと少し怒っているかのようだった。
「きみが僕の恥になるはずないじゃないか」
手を重ね、腰に腕をまわすのはワルツの最初の音を待つため。けれどほかのカップルにくらべて、近づきすぎてないかしらとリディアは気にする。
少し下がろうとしても、彼は腕の力をゆるめてくれない。
「……あんまり近いと、足を踏むわよ」
「いいよ」
「ぶつかって無様に倒れるかも」
「ちゃんと受けとめるから大丈夫だ」
「あたしのダンス、凶器か拷問みたいだって、レイヴンに聞いてないの?」
「やわらかくていい香りがしたって」
「は」
「僕にも体当たりでぶつかってきてほしいくらいだ」
「……レイヴンがそんなこと言うはずないじゃない」
「うん、僕の想像。今夜のきみは、フリージアの香り」”
どうみても本気っぽいエドガーと、それでも嘘だと言い張るリディア。
二人の心情描写とかだいぶ上手くって読んでるこっちはやきもきさせられる。
レイヴンが少しずつ変わってるのも良い。
“「リディア、僕を見つめてくれるのはうれしいけど、せめて眉間にしわはよせないでくれ」
気がつけばリディアは、テーブルをはさんで向かい側にいるエドガーを、じっとにりらみつけるように見ていたらしい。
「えっ、あ、ちょっと考え事を……」
「僕のことなら、考えなくても教えてあげるよ。きみが知りたいなら何でも」
めずらしく、昼食どきに自宅にいたエドガーと、リディアはランチを取っていた。
光の射し込むテラスにふたりだけだ。ポールは痩せるための努力を続けているし、うまいぐあいに、絵に集中しているときはもともと、食事を忘れがちになるらしい。
少し食べるかと声をかけても、はいと言いつつ来なかった。
だから今は、エドガーとふたりだけだ。そういえば、ふたりだけで話をするのは、舞踏会以来だと気づき、リディアは急に落ち着かなくなった。
「体、弱かったの?」
しゃべってごまかそうとしたものだから、考えていたことがそのまま口にでてしまった。
「うん」
エドガーはさらりと答えた。
「喘息持ちで家にこもりきりだった。十歳ぐらいで治ってたんだけど、母が心配性でね。マナーハウスを訪ねてくる客とも、ほとんど顔を会わせることはなかったよ」
「だから、社交界に昔のあなたを知っている人がいないのね」” -
Posted by ブクログ
“「港に住んでいた小妖精を、あなた、馬車の屋根に乗せたまま帰ってきたのよ。見たこともない高級住宅街に連れてこられて、途方に暮れていた妖精がお屋敷をうろついていたから話を聞いたの」
直接話を聞いたのはニコだが、まあそういうことにしておく。
さすがに彼は肩をすくめ、居ずまいを正す。
「いくら口の堅い召使いをそろえても、きみと結婚したら浮気もできやしないのか」
「浮気性とは結婚なんてしません」
くす、とかすかな笑いがもれたのは、向かいの席からだ。
「レイヴン、今笑ったね」
「とんでもない」
感情をほとんど見せたことのないレイヴンでも笑うのかと、不思議に思いながらまじまじと彼を見る。しかしすでに、神妙な顔つきでエドガーの責め立てを否定するレイヴンが、どんな顔をして笑ったのか、想像もできなかった。
ひょっとすると、無表情のままだったかもしれない。”
読んでると思わず口元がにやけてしまったりとか。
楽しい。
“「ごめんなさい……」
くやしさに打ちのめされながら、リディアはつぶやいた。
「ごめんなさいごめんなさい、あたしが未熟者だからこんなことに。ほんとに、役に立たないフェアリードクターでごめんなさい、生意気なことばかり言って、あなたを助けられなくてごめんなさい」
「そんなに、悪い気分じゃないよ。きみが自分から抱きついてくれるなんて。それにきみはなかなか、僕の前で笑ってくれないけれど、泣いてくれるってのはぜいたくかもね」
やさしく髪を撫でられながら、リディアは彼に抱きついていることをようやく意識したが、この暗闇で離れるのは怖かったから、そのままにしていた。
今は、エドガーが危険な人だろうと女たらしだろうとどうでもいい。運命をともにするしかないのだから。
「こんあんときに不謹慎かもしれないけど、教えてほしいな。最後までつきあってくれるのは、フェアリードクターとしての責任感?それとも、少しくらいうぬぼれてもいいのかな?」
「あなたってば、頭の中にそれしかないの?」
泣きながらあきれながら、リディアは少しおかしかった。
どうしてとっさに抱きついてしまったのか、自分でもよくわからない。ただ、この人をひとりきりにしたくはなかった。”