谷瑞恵のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
“「……まつげ?って、どうして?」
(恋する気持ちはまつげの先に宿るからよ。想いを胸に秘めて、じっと見つめるでしょう?眠れば想い人の夢を見る、目覚めてもその姿を追う、まつげに恋が宿るせいよ)
「ナイチンゲールだけあって、ロマン派の詩人みたいだな」
ニコが茶々を入れた。だらしなくあくびなどして、ますます他人事な態度だ。
「ねえ、ナイチンゲール、もう少し簡単な指南にならないかしら?」
とにかくキスをねだるなんて無理。けれどこのまま彼女につきまとわれるのは困る。
両手を組み合わせて、妖精相手に必死に懇願するリディアに、「フェアリードクターとは思えないな」とニコがつぶやくが、気にしている場合ではない。 -
Posted by ブクログ
“「小間使いだからといって、特別扱いはしません。奥さまのご用のないときは、ほかの仕事もしてもらいますからね」
リディアの立場は、いちおうは奥さま付きの小間使いということらしい。とすると、オートレッド婦人のそばに仕えるのだから、やはり夫人の深い考えがあってのことなのか。
「あの、あたしのこと小間使いにするよう、オートレッド夫人がおっしゃったんですよね」
ミセス・ボイルは、わかりきったことをと言いたげに眉をひそめた。
「当然でしょう。さっそくですが、奥さまのお部屋にお茶を届けてもらいます。毎日この時間です、おぼえておくように」
「はい」
「それから、奥さまはここ数日、部屋にこもっておいでです。そう -
Posted by ブクログ
“「リディアが僕のことをおぼえていない?」
スコットランドに向けて走る汽車の中、特等車両の個室で紅茶を味わいながら、ニコはエドガーに、リディアの家で見てきたことを語りはじめたところだった。
ケルピーに連れ去られたリディアの様子を探るよう、エドガーにたのまれたニコは、スコットランドへ行っていたのだ。
妖精であるニコが鉄道嫌いなのは、もちろんエドガーは知っている。しかしニコがエドガーのいたケンブリッジに到着したのは、彼らがエジンバラへ向かう汽車に乗る直前だった。
いやがるニコを紅茶とお菓子でつって、この汽車に乗せ、ようやくリディアの様子を聞き出したエドガーだが、それは彼にとって想像もしていないこと -
Posted by ブクログ
どこまで話が転がるのか…先が読めないまま買い続けてもうシリーズ22?冊目。
相変わらず伯爵夫妻は想いを確かめ合ったりすれ違ったりしています。アーミンとケルピーのコンビも結構好きなのですが…今回の事件の流れはちょっとすっきりしないなー。大丈夫なのかなー。伯爵夫妻の愛は大丈夫だって信じてるけど…役者が出揃いすぎて脳内パンク気味。予言者とプリンスに関するアレコレが曖昧にこんがらがってきたので、時間ができたら読み返したいなー…なんて。
それから…そうそう、ニコのしっぽはみんなのものなのです!(笑) 伯爵夫妻は問題を両手山盛りに抱えているので、もう何の屈託もなく和めるのはレイヴンのとんちんかん発言 -
-
Posted by ブクログ
“「……だめかもしれない」
窓の外を眺めたまま、エドガーはつぶやいた。
「はじめて口説き落とせなかった女の子が、リディアだってことになるかもね」
「そんな弱気な言葉、はじめてうかがいました」
「はじめてづくしだ」
いっしょにいるだけで安らげて、未来を夢見ることができる女の子も、リディアがはじめてだった。
いつのまにか彼の中で、リディアの存在は大きくなっていた。
「だめでも、リディアは守るしかない」
振り返る。レイヴンの大きな瞳はかすかな迷いもなくまっすぐにエドガーを見ている。
この忠実な少年には、これまで何度もささえられてきた。
アーミンが行ってしまっても、リディアが振り向いてくれなくても、エ -
Posted by ブクログ
“うそだらけの自分だ。
アシェンバート伯爵という名も、経歴も、紳士的なそぶりもうそ。それを鵜呑みにしているこの少女は、うその口説き文句に気づかない。
本当のエドガーを知ったら、彼女はおびえ逃げ出すだろう。エドガーの痛みも苦しみも、背負ってきたものも、他人が察するのは容易なことではない。
本当のことを知っても逃げ出さずに、この痛みに触れてきたのはリディアだけだ。だまされていたと知っても、あの純粋な少女は、せいいっぱい崖っぷちの男を救おうとしてくれた。
そばにいてほしいのはリディアだけだ。うそつきな、本当のエドガーを知っているからこそ、彼の求婚を信じてくれないリディアだけなのだった。”
短編集。 -
Posted by ブクログ
“「で、何なんだ、これは」
ドアの前に積み上げた椅子やテーブルを、ニコは二本足で立ったまま見あげ、不思議そうに首を傾げた。
「……ちょっとね」
エドガーが忍び込んでこないように、用心したつもりだった。
そうまでしてリディアを求めるはずもない。とは思っても、なんとなく気になって、ちょっとした物音でもなかなか眠れなかったのだ。
けれども朝になってみると、どうしようもなく滑稽だ。エドガーは来なかったわけで、なおさら自分の過剰な心配が恥ずかしく思えてくる。
アーミンやトムキンスが来て気づかれないうちに直そうと、椅子に手をかけた。
「手伝おうか?」
「ええ、お願い……」
って、誰?
おそるおそる振り返っ -
Posted by ブクログ
“「まずい」
ケルピーがつぶやいた。
「おいっ、早く逃げろ、火の気配だ。ワームが火を吹くぞ!」
エドガーはリディアの腕をつかみ、駆けだす。
みんなでいっせいに奥へ向かって走りながら、リディアは背後に、ごうっという奇妙な音と熱気を感じて振り返る。
向こうの方がやけに赤く、そして明るい。
ケルピーが立ち止まる。
「くい止めるからさっさと行け!」
「で、でも、ワームの炎じゃあなたがあぶないわ」
立ち止まろうとしたリディアだが、エドガーはそうさせなかった。
「ケルピー、きみの犠牲は無駄にはしない」
冗談ともつかないせりふをあっさり吐いて行こうとする。
「はあ?やばくなったら逃げるぞ俺は!だからそれまで -
-
Posted by ブクログ
“「帰る前に婚約者の顔を見に来てくれたのかい?」
「違うって、何度言ったらわかるの?それよりこの指輪……」
「抱きしめてもいい?」
「はあ?」
すでにエドガーは、リディアの目の前に接近していて、茶化しているふうでもなく、灰紫の瞳で切なげに見おろしている。
「い、いやよ」
リディアがそう言ってしまうのは、ほとんど条件反射だ。
「一分だけ」
「長いじゃない」
「じゃあ三十秒」
不思議といやらしい感じはなくて、子供のようにあまえたがっている、そんなふうに思うと、リディアは自分でも意外な返事をしてしまっていた。
「……十数える間なら」
返事をひるがえす間もなく抱きよせられた。
何かつらいことでもあった -
Posted by ブクログ
“なのに今は、わざわざリディアに呼びかけて、テリーサの誘いを断った。
リディアにキスしたことにならないなら、しないという宣言。
でもだからって、本気を信じる気になんて。
勝手に人を利用しようとする男なんて。
「……だるいわ。もう、力が入らないみたい」
「横になる?」
「ええ……」
テリーサが腕の力を抜く。横たえようとしたエドガーは、けれど急に、かかえ直すように抱きしめた。
「もう少し、こうしていたい」
彼はそう言ったけど、本当はリディアの手が、左手だけが、彼のそでをつかんだまま離そうとしなかったからだ。
どうしてだかリディアにもわからなかった。もはやそんな力もない気がしているのに、離したくなか -
-
Posted by ブクログ
“「次はワルツだよ」
いきなりワルツ、難関だ。
「エドガー、やっぱりやめたほうが……」
「ポールとは踊っても、僕はだめなのか?」
ちゃんと気づいていたようだ。
「そんなんじゃないわよ。あなたに恥かかせちゃうかもしれないから。せっかくさっきはうまく切り抜けたのに、またあたしのせいで……」
覗き込むように、アッシュモーヴの瞳がリディアを見つめた。何を言うのかと少し怒っているかのようだった。
「きみが僕の恥になるはずないじゃないか」
手を重ね、腰に腕をまわすのはワルツの最初の音を待つため。けれどほかのカップルにくらべて、近づきすぎてないかしらとリディアは気にする。
少し下がろうとしても、彼は腕の力を -
Posted by ブクログ
“「港に住んでいた小妖精を、あなた、馬車の屋根に乗せたまま帰ってきたのよ。見たこともない高級住宅街に連れてこられて、途方に暮れていた妖精がお屋敷をうろついていたから話を聞いたの」
直接話を聞いたのはニコだが、まあそういうことにしておく。
さすがに彼は肩をすくめ、居ずまいを正す。
「いくら口の堅い召使いをそろえても、きみと結婚したら浮気もできやしないのか」
「浮気性とは結婚なんてしません」
くす、とかすかな笑いがもれたのは、向かいの席からだ。
「レイヴン、今笑ったね」
「とんでもない」
感情をほとんど見せたことのないレイヴンでも笑うのかと、不思議に思いながらまじまじと彼を見る。しかしすでに、神妙 -
Posted by ブクログ
“「おはよう、リディア」
こともあろうにエドガーは、ニコの隙をついて、リディアの手を取って口づけた。
「は……、何すんのよ、このスケベ!」
あわててリディアは飛びのいた。
「べつに何も。きみの猫が見張ってたし」
本当に、こんな軽薄野郎に同情してよかったのかよと思いながら、ニコはため息をつく。
「おいリディア、スコーンもらってきてやったぜ、朝メシにしよう」
ニコが放り投げたスコーンを、両手で受けとめながら、彼女はまだ不審げにエドガーを見ていた。
「もう嫌われたかと思っていたから、また会えてうれしいんだ」
「……嫌いよ。あたしはうそつきが嫌いなの。だからあなたも嫌い」
「でも、見捨てないでくれたわ