彩坂美月のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
心理表現や人間関係の描き方が瑞々しく、一方でミステリとしても鮮烈な印象を残す、青春タイムリープミステリ。
彩坂美月さんは最近注目を集めつつある作家さんのイメージでしたが、ミステリの書き手としても、青春小説の書き手としても、その実力がいかんなく現れた秀作だったと思います。
これまでの人生で2回、同じ1時間を5回繰り返すタイムリープを体験した高校生の菜月。文化祭当日、菜月はクラスメートの拓未から告白された直後、再びタイムリープに巻き込まれ、時間を1時間さかのぼってしまう。そしてその1時間後、拓未は菜月に告白する前に転落死してしまい……
拓未を突き落としたのは誰か? というのがメインの謎としてあるのはもちろんのこと、もう一方見落とせないのが、なぜ最初の1時間と違う未来が訪れてしまったのか、という謎。菜月が行動を変えたことに原因があるのか。それならば菜月が行動を変えたことによって、何が変化したのか。
犯人の謎。
未来が変わってしまった謎。
この二つが大きな謎の両軸として機能し続けて、とても面白かった。そして5回という回数制限があることもサスペンスを盛り上げる。タイムリープが回数を重ねるごとに、謎は混沌として先が読めなくなる。追い込まれた菜月が最後に取った手段とは……
そうしたミステリー、サスペンスの面白さもさることながら、菜月の心理描写や人間関係の描き方も非常に上手い。友人関係の悩み、告白されて心躍る菜月の描写はもちろんのこと、話が本編である文化祭の章に入る前に、菜月の幼少時代のタイムリープの経験が描かれるのですが、これが単なる設定の説明で終わらないのがすごい。
このリープの経験が、菜月の人格形成に大きく影響を及ぼしたことが分かるエピソードとして描かれているので、単なる特殊ミステリの設定説明で終わらず、菜月の内面の変化、成長をめぐる物語の出発点としても機能している。
だからこそこの『金木星と彼女の時間』は、タイムリープを扱った特殊設定ミステリとしてだけでなく、青春小説としてもとても良くできているのです。
何年か前に本格ミステリ大賞にノミネートされた『夏の王国で目覚めない』を読んで、「これは実力のある作家さんだ」と思ったのを覚えています。
近作の『向日葵を手折る』の評判の良さ。そしてこの『金木星と彼女の時間』の完成度の高さに触れ、改めて彩坂美月さんの実力の高さを身をもって感じました。 -
Posted by ブクログ
高校生の天野美咲の母は三年前にいなくなり、父は再婚して血のつながらない弟がいますが、美咲はそんな環境に閉塞感を感じています。
そんな美咲が謎の覆面作家三島加深の小説に出会い、加深の隠しサイト<月の裏側>で出会った、七人と<架空遊戯>というミステリーツアーに参加することになります。
二泊三日で、管理人のジョーカーを含む七人で劇中劇を演じて、被害者と犯人がいますが、真相と犯人を推理した者に三島加深の未発表作品を読む権利が与えられます。
参加者には役柄とシナリオが与えられ、美咲は「九条茜」という役柄でゲームに参加することになります。
最初はRPGのようなストーリーになんとなく、馴染めませんでしたが、参加者が一人、二人と殺されて減っていくにつれて物語にひきこまれました。
美咲が参加者の一人と示し合わせて行動するようになるところで完全に作品のペースにはまりました。
表紙のカバーのブルーで統一されたイラストがなんとも爽やかで、タイトルの「夏の王国で目覚めない」にぴったりだと思いました。
青春小説です。 -
Posted by ブクログ
素晴らしい。
ミステリとしても青春小説としても秀逸だなと思える一冊。
田舎特有の人間模様、細やかな自然描写、そして少年少女の成長が鮮やかに描かれていて、胸に残る物語でした。
小学4年生のみのりは、父の死をきっかけに母の故郷・山形の山間部へ。
穏やかで繊細な怜。
気性の激しい隼人。
豊かな自然の中で育まれる3人の日々。
小さな事件や不可解な出来事は解決しないままに時は経ち…やがて少しずつ真相が露わに。
伏線が回収されるほどに、胸に秘めた想いや不安、不満が浮かび上がってくる。
それは間違いだったかもしれない。
取り返しのつかないことだったかもしれない。
けれど、彼らを頭ごなしに批判はできない。
そう思わせるほど、登場人物たちが繊細に描かれていた。
「嫁は北からもらえ」
この一言が、物語全体の芯になっているのだと思った。
今年の15冊目