あらすじを読んで、昔観た映画『香水 ある人殺しの物語』を思い出しました。
あの話も、主人公はありとあらゆる匂いを嗅ぎ分ける能力を持っていた。そして色々な匂いを組み合わせて、人の感情を意のままにする香りを作るようになる。
ある日、彼は自分の求めていた匂いに出会います。それは女の子の体臭なのですが、死ん
...続きを読むでしまうとその匂いも消えてしまうことが分かります。だからその匂いを香水として再現したいと願う話で、最後は結構グロテスクだったような。。。
この本はそれとはまったく違う、静かでひんやりとした、でも温もりを感じる話でした。
調香師の小川朔は並外れた嗅覚の持ち主で、古くて立派な洋館に一人で住んでいます。元書店員の若宮一香は、家政婦としてそこで働くことになりました。何人かの応募者の中から一香が選ばれたのは、彼女が最も匂いが少ない(化粧品やシャンプー・香水や体臭など)という理由からのようです。そんな一香は心にトラウマを抱えていて、いつも何かに囚われ苦しんでいます。それはどうやら引きこもりだった兄に関することみたい。
洋館には朔の幼馴染で探偵をしている新城という男が常に出入りをしていて、新規の客は彼が前もってその素性を調べたうえで対応しています。紙煙草を吸い、朝方まで酒を飲み、女性関係が派手な新城は、様々な匂いをまき散らしながらやってきます。でも朔は彼の放つ匂いだけは気にならないように見えます。
この洋館に香りを求めて訪れる何人かの客の小さなエピソードがあり、そして一香の問題を解決するという大きな話があって、まるで1クールで終わる刑事ドラマのような構成です。
わたしもこんな素敵な洋館で暮らしてみたい。
素敵なお料理を作ってみたいし、食べてみたい。
何よりも、小川朔にわたしだけの香水を作ってもらいたい。
あの人と似ている後ろ姿を見つけると、心臓がドクンと大きな音をたてて、慌てて立ち止まったりすることがある。
だけど香りや音楽や味は、そっとヒタヒタと思い出を連れてくる。
胸に訪れる哀しみや懐かしさに、違いはないとしても。