ケン・リュウのレビュー一覧
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Posted by ブクログ
ネタバレもともとビデオゲームを題材にした26篇が収録されていた米国のアンソロジーから、12篇を邦訳した日本版再編集アンソロジー。全体的に読みやすい文体で短めの短編作品が多い。ゲームSF縛りだけど全く飽きず。
「リスポーン」★★★☆☆
- 本アンソロジー唯一の日本人作家、桜坂洋。ラノベ出身なだけあってサラッと読みやすい。死ぬと近くにいる誰かに乗り移って、死ねない男。
「救助よろ」★★☆☆☆
- ゲームにのめり込んだ元カレ、デボンと連絡を取るためにメグはそのゲームに参加してみると「助けてくれ」という連絡。彼女は元カレのためにゲームを勝ち進み、彼氏を救出するが、それは毎回記憶(記録)をリセットして繰り返した〇千回目だった。彼氏は本来一度しか入手できない最強のアイテムをいくつも手に入れるために元カノを利用していた。
- さらさらと読みやすいけど。今までに読んだことありそうな、絶望系のオチ。
「1アップ」★★★★★
- SFではなかったけど、ハラハラドキドキ系で面白かった。
- ゲームの中でしか会ったことがなかった仲間のソリーが死亡、生前から絶対葬儀に来てくれと言われていた。初めて会う他の仲間3人と参加。ソリーの寝室に行くと自作のテキストアドベンチャーゲームがあった。ゲームを進めると継母がソリーを部屋に閉じ込め、殺そうとしていたことがわかる。ソリーは仮死状態になる毒物を自ら購入し、死んだふりをして部屋から出る作戦を決行。酸素が残っている5時間以内に墓を掘り起こし、棺を開けてもらうよう友達に命を託していた。
「NPC」★★☆☆☆
- ゲーム内の脇役キャラが昇格して浮かれたり、沈んだりするライトな短編。
「猫の王権」★★★☆☆
- 認知症患者であるシェアリーのリハビリのためにあるゲーム(猫の王権)を勧められる。同性パートナーのジュディの不安かつ寂しそうな様子が緻密に描かれている。
- 物語として何かが起きそうなところで終わってしまうので、やや物足りなかったけど、なかなか読める。
「神モード」★★★★☆
- 大学生のサラと僕。サラがある時電車で転倒し、頭を打ち付ける。その日を境に世界が少しずつ消滅していく。ふと目が覚めると自分たちは老夫婦でベッドに横たわっていた。
- すべてがハッキリ説明されてないので正しく理解できているかわからないけど、その夢オチのようなエンディングでも嫌な気持ちにならない満足感のある内容。ストーリーだけでなく文体もよい。
「リコイル!」★★★★☆
- ゲームのテスターの仕事をしているジミーが夜遅くにオフィスにいると、何者かがビルに侵入する。犯人から逃げながら、武器を使って応戦し、まるでFPSゲームの中のミッションみたいにスリリングな展開だと思ったら、本当にFPSゲームでした、という若干夢オチ的な終わり方ではあるけど、直接神経インターフェースを使った体験型ゲームという設定も面白いし、最終的に現実世界がまたゲーム世界のような「今どっち??」と混乱させる終わり方も楽しい。
「サバイバルホラー」★★★☆☆
- あるゲームをインストールしたせいで命がけのパズルゲームにチャレンジさせられる、という話だけど、そもそもこのプレイヤーがいる世界自体がファンタジーで魔法的なものが使える設定。半分ジョークSF的なもの。(長編のスピンオフ作品らしい)
「キャラクター選択」★★★★☆
- 子育ての合間にFPSゲームをプレイするわたし。夫曰く、そのゲームは国防総省開発で、優秀なプレイヤーは国防総省にスカウトされるらしい。わたしはそのゲームの本来の目的はそっちのけで、八百屋の裏に畑を作ったり、ラクガキを消したりしていたら、電話番号らしきものが現れ、かけてみると国防総省に繋がり、スカウトされた…。
- SF色はほぼないけど、日常と非日常の混ざり方が面白い。
「ツウォリア」★★★☆☆
- エンジニアである自分が30年以上前に走らせたまま止め忘れていたプログラムが勝手に増幅し、とてつもないAIに成長して自分の元に帰ってきた、というジョーク系SFショートショート。「火星の人」の著者アンディ・ウィアーによる作品。
「アンダのゲーム」★★★☆☆
- 勧誘者ライザから、ゲームの中でミッションをクリアするとリアルマネーが振り込まれるという仕事に誘われ、金を稼ぎ始めたアンダ。
- 長い割に物語自体はどこにも着地しない感じがちょっと物足りなかった。肥満の女子がリアルの世界でダイエットを頑張るあたりはなんかよかった。
- アンダ:ゲーマー。リアルでは肥満体型な女子。
- ライザ:勧誘者。ファーレンハイト・クランのリーダー。
- ルーシー:軍曹
「時計仕掛けの兵隊」★★★★☆
- 新しい設定。アレックスは捕まえた賞金首のライダーを逃すところから始まり、その後、回想シーンへ。アレックスはライダーの父親(政治家)の依頼でライダーを捕まえ、宇宙船で輸送していた。その間、ライダーはPCでテキストアドベンチャーゲームを制作しており、アレックスはそのゲームをプレイすることで、ライダーの過去を知る。※ライダーは幼くして亡くなったが、選挙期間中の父親は息子を見舞う暇がなかったため、死んだことを隠すために自動人形を作っていた。
- ケン・リュウらしい、後味が悪いけど美しい文章。
- アレックス:女性のバウンティハンター
- シェヘラザード:ライダー(賞金首) -
Posted by ブクログ
ネタバレ読書備忘録583号。
★★★★。
じわ~と来るSF短編集。カチコチのSFではなく、どの作品もファンタジー的で、東洋的で細やかな情感で、叙事詩的な雰囲気を感じさせる。
アメリカSF界の旗手で、本のタイトルになっている紙の動物園でヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の3冠達成。史上初。
紙の動物園:生きていくためにカタログに載り、アメリカ人に買われて結婚した台湾人の母。ハーフとして生まれた主人公。幼い頃、おもちゃが欲しいとねだった。母はチラシの紙で動物を折り、ふぅ~っと息を吹き込み命を与えた。動き出す紙の動物たち。成長した主人公はいつまでも英語を話せない母にイラつく。そして母は亡くなり、動物たちは・・・。切ないですね。母の想い。
もののあはれ:小惑星が地球に衝突する。人類は宇宙船を作り、選抜された人々を乗せて旅立つ。日本での宇宙船建造は失敗。主人公は両親の口添えでアメリカの宇宙船に乗れることになった。しかし航行中、太陽帆(数kmに渡る)に穴が空き、修理しないと宇宙船は全滅する。修理できるのは複雑な骨組みを理解して破損個所まで最短時間でたどり着ける主人公だけ。移動中寝ることすら許されないギリギリの空気で修理に旅立つ主人公。
これらの代表作以外にも、太平洋横断海底トンネル小史、潮汐、心智五行、円弧、波などどれもこれも珠玉の短編。生命の捉え方が独特で、命の定義ってなんでもありだなと、新鮮に楽しめました。 -
Posted by ブクログ
「紙の動物園」を読んで中国SFに関心が高まっていたこと、以前知人にオススメされていたこともあって手に取った(三体もそのうち読もうと思いつつなかなか手が出ないのが恥ずかしい)。
アンソロジーのいいところは何かしら自分の好みにあった作品がひとつは見つかるということと、表題作目当てで読んだら思わぬ出会いがあるということが挙げられると思うが、これもまさにそのようなアンソロジーだった。
そのような観点からでは、「円」と「童童の夏」が良かった。前者は何といっても人間コンピュータを使って円周率を求めようとするというSF要素に古代中国の歴史ネタを混ぜるという壮大な設定に面食らったが、ハッタリもここまでくれば大いに楽しめるというものだ。後者は頑固な祖父を苦手に感じていた孫娘が、家にやってきた介護用ロボットを通じて祖父と距離を縮めていく様子が短いページながら情緒豊かに描かれていていた。家族という主題は「紙の動物園」に共通する所があり、そちらが好きな方に是非おすすめしたい。
もちろん主題作である「折りたたみ北京」以外にも、「1984年」への意識が随所に感じられる「沈黙都市」や、工場から脱走した遺伝子改変ネズミの駆除隊に所属する青年の直面する日々が淡々と進む「鼠年」など、読みごたえがある作品が多く収録されている。硬質で安易なハッピーエンドにならない話が多い印象を受けたが、このあたりは中国だからというよりも、現代社会の矛盾に直面し科学技術の好ましくない側面を目の当たりにした時代性が反映されているのではないかと思った。 -
Posted by ブクログ
『紙の動物園』は選りすぐりの短編集で、ベストセラーになったため、残った作品でこの本を編んだようだ。
前と同じくらい読みやすく、情緒的だったり、ストーリーが追いやすかったりというのを期待すると、読みにくい、分かりにくいと感じる人が多くなるのは当然だと思うが、だからこちらが劣っているとは思わない。むしろ、よりケン・リュウという作家の上手さを堪能できる作品集となっている。前作は「紙の動物園」「もののあはれ」がSFに興味のない層にも訴えかけるものがあった(そこまでしか読んでない人もいるようだ)が、こちらはテイストは似ていても、情緒性は押さえられている。
最初の「烏蘓里羆」は前作の「良い狩りを」に似たスチームパンクもの。「良い狩りを」は美女(妖狐)と幼なじみの恋愛小説っぽい面が感情移入しやすかったが、こちらは親子の因縁話で、正直言って「良い狩りを」程ではないなあと思った。確かに『ゴールデンカムイ』のイメージ。
次の「草を結びて環を銜えん」は、これこそ娼婦ではあるが気高い美女が出てくる歴史もので、なかなか良かった。但しSFではない。
個人的には次の「重荷は常に汝とともに」は大変面白かった。確かに未知の文明の文章を解き明かすとき、神話だったり法律だったりするだろうという希望的思い込みってあるよなあ。それに解読する学者の専門に左右されるよなあ、と。
「レギュラー」はSF要素はあるものの、どちらかというとサスペンスミステリ。映画になりそうな話。
『ライラの冒険』にヒントを得た「状態変化」、AIに支配される近未来を描いた「パーフェクト・マッチ」、シンギュラリティ後のディストピアもの「残されし者」、「文字占い師」に近い「訴訟師と猿の王」「万味調和」、そして「紙の動物園」「太平洋横断トンネル小史」に近い「『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」」が良かった。
「訴訟師と猿の王」は、天安門事件のことを念頭に書いたのではないかと思った。支配者に不利な情報であるため、公的な歴史から消された事件でも、少数の意思のある人が外国の助けを得て必ず歴史に残す。そのために犠牲になった人、力を尽くした人を忘れてはいけない、というメッセージではないか。
また、「万味調和」で犬を食べた中国人をアメリカ人が非難すると、「わしらも犬をペットとして飼っている。ペットだったら、その犬は食わない。だが、この犬は野犬だった。阿彦(アーイェン)は自分の身を守るため殺さざるをえなかった。とても美味いのにどうして野犬の肉を無駄にしなければならんのだね?」(P426)という言葉は、捕鯨について日本人が考えていることと変わらない。まあ、調査捕鯨や浜に打ち上げられたクジラ、イルカに関しては、日本人はこう考えている人が多いのでは。商業捕鯨となると、食べるために野犬を狩るみたいなもので、この言い分は通らないが。
また、ここで描かれるアメリカに移住した中国人達の姿は日系人と変わらない。人種差別をされ、白人より安い賃金でよりハードな仕事をこなし、狭い家に住んで、裏庭で野菜を作り、粗食に耐える。数少ない楽しみは仲間と歌ったり、飲み食いすることくらいだが、音楽、食事など様々な文化が野卑なものと否定される。仕事に様々な工夫を凝らし、より効率よくなるよう、また製品がより上質なものとなるよう細心の注意を払い、価値を上げる努力を怠らない。
日本人で中国人を差別する人いるけど、どこに違いがあるというのか。
この本で、読者が随分篩にかけられただろう。次を読む人は、これが楽しめた人で、売上は落ちるであろう。
でも、本当に素晴らしい作家だと思う。まだ若いのでこれからも傑作を期待できる。