<最終巻までのネタバレを含みます>
プロットにすれば数行の物語が、気が付けば伸びに伸び…と後書きか何かに作者も書いていたが、しかし9冊に渡る大長編だった割に「ようやく読み終わった!」という感慨はあまりなかった。とにかく、一つ前の「帝国の娘」同様、むしろそれ以上にさくさくとテンポ良く読み進めることができる。途中「これは小説なのか?それとも脚本なのか?」と、その描写のあまりの簡潔さに疑念が湧いてしまうほど、とにかくあれよあれよという間に人々が登場し、笑ったり悲しんだり、己の運命を全うしたかと思えば、あっさり死んでいったという印象だった。無論、お涙ちょうだいの自己満足描写がだらだらと冗長に続くよりはよほど良いが、これも個人の好みによるのだろう、個人的には少し物足りなかった感が拭えない。
が、相変わらず主人公カリエが元気に明るく運命に立ち向かっていく様子には心が励まされた。「ザカリア女神の娘」として、生まれつき苛酷な運命に晒されることが決定づけられている彼女だが、とにかくその精神の強靭さには心の底から感服する。今回バルアンを伴侶として選び取ったことで、今後ますます厳しい状況に置かれることは確実になってしまったが(個人的には、あれだけ慕っていたルトヴィア勢と袂を分かつ結果となってしまったことが痛かった。今後の展開を想像するだけで胃が痛くなる)どんなに辛い目に追い込まれたとしても、カリエならきっといつものように、泣いたり怒ったり叫んだりしながら、それでもなんとか生き長らえようともがき続けてくれるのだろう。
あとは、ここに来てザカリア陣営の動きが面白い。サルベーンなどは胡散臭い奴だと前作を読む限りあまり好きにはなれなかったが、紆余曲折の末涙と鼻水垂れ流しの醜態を晒すは、よりにもよってカリエと一線越えるは(しかも「役得ですね」などとふざけた発言まで口にし)、なおかつ前の女に未だ未練たらたらのままだは、今作で彼の人間らしいみっともない部分をたくさん目にすることができたのは新鮮だった。けなげにカリエの成長を見守るストーカー…ではなく女神に遣わされた守護者たる美女ラクリゼも、他ではあまり見ない感じのキャラクターで今後の動向が非常に気になる。と思ったら、なるほど、次のタイトルは彼女の過去に関わるものらしい。表裏一体のさだめに挑む、二人の対照的な女性たちの行く末が今後大きく気にかかる。
それにしても、この作者は本当に「キャラ<物語全体の構想」で話を組み立てる人なのだと、長編を読むことで初めて分かるその精緻で綿密な構成の手腕には心底惚れ惚れとする。とにかく全編通じてプロットに全くの甘さがなく、首尾一貫していて少しの無駄もない。それぞれのキャラクターが持つ属性は比較的ありがちなものに終始しているのに、それでも女性作家らしく「キャラ萌」に走ってしまうようなことは全くなく、どれほど人気のキャラクターであっても、話の流れに必要なくなれば中盤で容赦なく死んでいく。多分、一人一人のキャラクターの人生が作者の中で既に生きられたものとして鮮明にイメージされていて、物語自体は「彼らという部品」が相互に影響し合って機能する、大きな機械か何かのようなものとして把握されているのだろう。そのためか、まずキャラクターありきで話に入り込みたいタイプの読者には、いささか薄情なようにも感じられる物語の進行も、しかし「人に読ませる」ものを書く人はかくあるべきという理想の形を示しているという気がする。
とにかく、「砂の覇王」というタイトルの本当の意味を考えても分かる通り、この人の話は各タイトルであれ、シリーズであれ、最後まで読まなければそこに込められた真意が本当には分からない。という訳で、次は外伝と本編に手をつけるのが本当に楽しみだ。