金井美恵子のレビュー一覧
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「愛の生活」「夢の時間」「森のメリュジーヌ」「永遠の恋人」「兎」「母子像」「黄金の街」「空気男のはなし」「アカシア騎士団」「プラトン的恋愛」を収録。
どの話も、緻密に組まれていながらどこかに獣臭さや血なまぐささの漂うような、まるで丁寧に掃除され壁際にはドライフラワーの吊るされた部屋の真ん中に、生血の滴る獣の肉が手つかずで置いてあるような、あるいは誰かが食べたのであろう獣肉の匂いが残っているような、そんな雰囲気を持つ話たちであった。どれもおもしろかったが、黒猫が出てくる「永遠の恋人」と、柔らかで冷たい、微かに獣くさい匂いのする「森のメリュジーヌ」が特に気に入った。逆に「母子像」「黄金街」は近親相 -
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金井美恵子の小説を読むということは体験。
この小説も。
そして、でもそれはよく言われる読書は間接体験だというのとは違う。
もっと直接的に、読むこと自体が体験そのもの。
読み進めるうちに、右へ曲がり、左へ曲がり、その回り道での細々としたできごとや回想を取り込みながら登場人物や物語の解像度が徐々に上がってゆく。
微に入り細にわたり描写されるこの小説は、祖母や伯母、母の語る話にしても、父の話にしても、出て行った恋人の話にしても、つながり、繰り返す。
たとえばわたしたちの頭の中で過去のできごとはふとした拍子に思い出され、その一つの記憶の細部から別の記憶へ、その細部からまた別の記憶へとつながって、 -
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すごーく綺麗な本で、手にとるとシアワセな気持ちになる。ビジュアル本のようなしっかりした紙に、金井久美子さんの絵がたくさんのっている。エッセイと同じページにも挿入されているのが新鮮。いつもはがさつな速読派の私だが、ゆっくりじっくり至福の時間をすごしたのだった。
あらためて、金井美恵子さんの文章が好きだなあとしみじみ思った。私も本当はこんな風に書きたいんだよなあなどと、恐れ多くも考えてしまう。思考の流れに乗って、ゆらゆらと続く、それでいてシャープな書き方。金井美恵子さん唯一無二の文体だ。この「天然生活」連載のエッセイは、切れ味鋭いところと、そこはかとなくオカシイところが混在していて、そこがとても -
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読んでいると頭がおかしくなりそうというか、
時間や物質の関係性があやふやになり、酩酊状態になる。
目の前文章と思考が矛盾をおこし、さらには「書かれていないこと」を読んでいるような錯覚にまで陥る。
ほとんど初めての読書体験であった。
メモ
・私には盲従的に自然を写し取ることはできない。自然を解釈し、それを絵の精神に服従させるようにせざるをえないのである。私の色調のあらゆる関係が見出されたとき、そこから生きた色彩の和音、音楽の作曲の場合と同じような調和が生まれてくるに相違ない。
・滑らかな色彩の流れ、視覚→嗅覚→触覚→想起という目まぐるしい運動
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タイトルの「たのしい」は、てっきり金井美恵子一流の皮肉な言い回しだと思って読み出したら、意外や、これがほんとに結構ほのぼのした、生活のあれこれをマイルドに綴ったものだった。今度は何をバッサリ斬ってるかなと期待していたものだから、最初は、チェッつまんないの、なーんて思ってしまったが、さすがに金井美恵子、どんどんひきこまれて読み進めることになった。
鋭い美意識の持ち主である金井姉妹だが、生活ぶりは意外に庶民的。もちろん、日常の生活用品は、その厳しいお眼鏡にかなったものとなるわけだけど、とにかく高級なものが良いというわけではなく、むしろ、バカ高いものには批判的で、そこがいい。また、雑なやり方は好ま -
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ネタバレ小説と思って読み始めたら、金井さんらしい批評的なエッセイで、それもまたよしと思いつつ読み進めるといつの間にか小説になっており、形としてはエッセイに挟まれた短編集というところなのだが、エッセイとつながっている短編もひとつひとつが完全には終わらす、次へと続くという、まことに不思議な作品。金井美恵子は金井美恵子にしか書けない作品を完成させつつあるのかも。
金井さんの小説を読むと、女たちの間で片手間に続いてきた手芸がたまらなく魅力的で、10才の少女と、妻子ある男と恋愛して別れさせられたということは多分二十歳は越えている女が、刺繍をしながら映画や男の話をするのが、とてもいい。
また、銀幕の名にふさわしい -
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毒舌家というか、皮肉屋というか、ひとこと多い人というか・・・
イヤミな初老の女性。
こんな人とは友達付き合いできないなあ、でも、学生時代からのくされ縁みたいになってしまうのだろうと思いながら読んだ。
辛辣で、批評も鋭いのだけれど。
母親というのは、娘の相手を見るといつだって、もっと出来の良い青年が(いくらでも、とまではいわないけれど)いたはずだ、と考えてるような気がします。 127ページ
大した用事でもなんでもないのに、なんか妙にアタフタと小忙しい日々が続くと、なにしろ、もう年が年ですから、そのあと反動で何もしないでぼうーっとしている日が何日か続くことになるわねえ(少し、オーヴァな言い -
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「手紙の吸血鬼」と化したアキコさんが日々書き続ける手紙たちで構成された小説。お手伝いさん、お友達、お友達の旦那さんなど相手は違えど内容はほとんど映画や小説、新聞の投書欄について、昔話などの雑談。あまり書くとネタバレになるけれど、結末は、あ、やっぱりそうだったんだっていう感じだった。でもそれをさみしいとかは思わなくて、年を取るってなんだかすごいなあと妙な感想を持ってしまった。タイトルから谷崎の「台所太平記」、著者の「恋愛太平記」を思いつくんだけど、たぶん「台所~」に近い感じ、で、「恋愛~」は四姉妹の長編小説だし「細雪」を彷彿とさせる。
作中で何回か「瘋癲老人日記」のエピソードが出てきた。読み返し -
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時には数ページにも及ぶ長い文章だけれど、句読点がメトロノームのようにリズムよくかっちり打ってあるので流れるように楽しく読み進めるられた。しかし「私」がいつのまにか「わたし」「あたし」「僕」となり誰の話だか見事に迷う。思えば小さい頃は身近な人々と自分の境界など無かったなぁなどどふと思い出した。マッチ入れの陶器、貝殻のような耳に飾られる涙型の翡翠、ミモザのワンピース、結婚式に仕立てられたドレス、細部が緻密に執拗に描かれる。子どもの頃物を本当によく見ていた事もまた思い出された。父親不在の家庭だけれどやがて父親は手紙により姿を見せ、私の私生活や、隣りの若い旦那さんのエピソードと対になり重なっていく。同