金井美恵子のレビュー一覧
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金井美恵子作品に触れるのは初。
2023年にポリー・バートンによって英訳されてからニューヨーク・タイムズやアトランティック誌に書評され話題になった。
自分も手に取ろうとは思っていなかったのだが帯の文章で、引き合いに出されている映画監督にシャンタル・アケルマンの名前があり興味が湧いた。
読んでみると確かにこれはシャンタル・アケルマンの大傑作『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』っぽさがある。そして同様に引き合いに出されていたルイス・ブニュエルの『昼顔』の感じもある(こちらは本文で明確に目配せされている)
だが『軽いめまい』の主人公の夏実はジャンヌやセヴリーヌの -
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初の小説で太宰治賞次席となった「愛の生活」、泉鏡花賞の「プラトン的恋愛」など、金井美恵子の傑作10編の短編集。
収録されているのは60〜80年代の初期作品。あとがきにある「処女作にすべてが含まれている」ではないが、ほぼ彼女の世界観は完成されていると思う。
表題作や受賞作、また「夢の時間」「アカシア騎士団」などは幾重もの観念、言葉世界が折り重なり、難解な印象。
個人的に好きなのは、作品群の中でも短い「兎」「母子像」「空気男のはなし」。迷いのない筆致と幻覚的な世界がいい。
彼女の観念的な世界と虚無感は心地良い。物語と現実の境目が曖昧で、ふわふわとした感じ。言葉によって世界が認識され、その危 -
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例えば大岡昇平との鼎談の回で、久美子さんが大岡昇平に〈(マックス・)エルンストなんかいかがですか?〉と聞くくだり、〈エルンストは好きですよ。〉と言われて〈ああ、良かった(笑)〉と喜ぶ所を読むと、なんだか久美子さんがとてもかわいらしく思えるし、姉妹が本当に〈気に入ったお客さましか〉呼んでいないことがわかる。読むことにせよ書くことにせよ見ることにせよ、そこから決して快楽を締め出さないやり方をすると言うか、そこにある快楽や欲望や楽しさと言うものに対して常に敏感で繊細な人たちばかりである気がする。そして今、絶えざる今と言うものに対しても。語り下ろし対談にて姉妹はこれらの鼎談を、「古びてる」と言う。きっ
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例えば〈薄いピンクで厚地のデシン風のカーテン〉とそこに〈丁度、星空のようにちりばめて縫いつけて〉ある〈ガラス玉〉に、〈夕日かそれとも朝日に染って淡い透明なバラ色に薄く光っている空の下にある池の噴水からとびちる水の飛沫に光線があたって、透きとおるまばゆい七色に輝いている様子を連想すべきなのかもしれない〉空間。或いはその〈無数のガラス玉〉の振りまく〈光の飛沫〉(〈天井や壁の照明を反射させて透明に輝く青や紫や赤やオレンジの…〉)と、〈光の飛沫〉が開いて行くスクリーンの白い輝き、〈シネマスコープの深紅色の絹地を背景に〉〈濃いブルー、紫、輝く黄色、緑色、濡れたような赤、透明な光線のようなオレンジ色にきら
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ネタバレ金井美恵子が、今の私よりもずっと若いうちから私が考えていることを小説のうちにきちんと体現し、かつ、同じようなものを書くのだとしても、それでもあなたではなく私が書く意味、あるいは私ではなくあなたが書く意味があるだろう、ということについても力説してくるので、至れり尽くせりっていうかなんというかもう、スミマセン、と思ってしまう。
私が初めて金井美恵子を読んだのは「道化師の恋」だったのだけれど、この彼女にとってのデビュー作である「愛の生活」の時点から、様々な既存の映画、絵画、音楽が、惜しみなく作中に使われている。
アニエス・ヴァルダの「幸福」という映画は、アントニオーニの「赤い砂漠」よりも、それが -
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はぁ~、もうただただため息が出るばかり。金井さんの世界にどっぷりつかってなかなか現実に戻ってこられない。こういう読書ができることの幸せよ!
二十一もの掌編を連ねた構成で、一人の男性の回想という形であるが、はっきりした筋立てがあるわけではない。一貫して流れているのは「失われたものへの痛み」であるように感じた。ただ、この作者のこと、そこに「ノスタルジー」などという甘ったるいものは一切ない。読者としては、克明に語られるディテールにそのような感情を揺さぶられずにはいられないのだが。
いや実に、この小説の細部の描写には参った。「ケースについている人絹のひもをクルクル回すガラスの体温計」とか「鉛筆の芯 -
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森のメリュジーヌやばい
ていうか美恵子やばい!
「彼女の微笑の意味の最大の意味は愛であり、その中にしのび寄って来る死、悪意とからかいの針、優しさ、苦痛、空虚、悲しみ、それから燃えあがる意志――。」
「きっと、何かいいことがあるかもしれない。疑わしいことだけれど、何かいいことがあるかもしれない。信じはしないけれど、何か、いいことがあったって、かまわないじゃない?!」
「十全な愛。わたしには愛することが出来るのでしょうか?本当にわたしは愛してしまったのか?わたしが愛しているとしたら何故なのか?わたしは何故愛するのか?わたしが愛しているのはFなのですか?」
いちいち響くことをかく。「愛の生活」を