あらすじ
「婦人雑誌」の料理のこと、ホーロー鍋あれこれ、泉鏡花の湯どうふ、猫の毛の色……。些末で豊かな日常の喜びと退屈を描く、待望のエッセイ集。雑誌『天然生活』の人気連載の書籍化!
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Posted by ブクログ
同時に目に止まった『シロかクロかどちらにしてもトラ柄ではない』を先に読んでしまったので遡るかたちで、一作目である本書を読む。
「天然生活」に連載された著者のエッセイと、姉の久美子さんの作品の組み合わせが懐かしく楽しい。特におふたりの愛猫トラーの毛並みの美しさにはため息が出てしまうほど。
猫派には特にたまらないエピソード満載の一冊。
Posted by ブクログ
「私たち」という主語が不思議な魅力を醸し出していて、それは文字通り姉と妹のことなのだけど、ときどきひとりの人間が分裂して二重にしゃべっているような感覚になって、面白い読書体験だった。今回の挿し絵(作品)は何かなとわくわくしてページをめくり、画面いっぱいに広がる色!に驚くのも毎回楽しみだった。
おばあちゃんになったらこういう本を無限に読みながら暮らしたい。
Posted by ブクログ
タイトルの「たのしい」は、てっきり金井美恵子一流の皮肉な言い回しだと思って読み出したら、意外や、これがほんとに結構ほのぼのした、生活のあれこれをマイルドに綴ったものだった。今度は何をバッサリ斬ってるかなと期待していたものだから、最初は、チェッつまんないの、なーんて思ってしまったが、さすがに金井美恵子、どんどんひきこまれて読み進めることになった。
鋭い美意識の持ち主である金井姉妹だが、生活ぶりは意外に庶民的。もちろん、日常の生活用品は、その厳しいお眼鏡にかなったものとなるわけだけど、とにかく高級なものが良いというわけではなく、むしろ、バカ高いものには批判的で、そこがいい。また、雑なやり方は好まないが、いつ頃からかよく聞くようになった「丁寧な暮らし」などという、したり顔のこざかしさとも無縁だ。
金井さんは昔ながらの酸っぱい夏みかんが好きだそうだが、それを「ムッキーちゃん」でむくと書いてあって、なんだか笑ってしまった。ムッキーちゃん!私も使うし、前に伊藤理佐さんが漫画で描いていたが、金井美恵子とムッキーちゃんとは、なんともすごい取り合わせみたいな気がする。
「あそびの記憶」と題された章で書かれた、かつての子どもたちの遊びがとても懐かしかった。金井さんの小説でよくある、記憶の具体的な細部を鮮やかに描き出す書き方で、ああそうだった、こんな風に遊んでいたなあと、子どもの頃がよみがえってくるようだ。古いアズキを入れたお手玉、小さな豆板のようなおはじき、シロツメクサの花かんむり、七夕飾りには「折りたたむとぴたりと平べったくなる」蜂の巣細工の薬玉やら小さな中華風のランタンやら、「なかでも、紙のクサリ飾りこそは、子どもの参加する行事の華やかな万能グッズだった!」。ああ、本当にそうだったよなあ。
金井姉妹の愛猫だったトラーの絵がいくつものっていて嬉しい。見開きになっている、花の中で寝そべるトラーの絵にみとれてしまった。トラーがいなくなって七年だそうだが(もうそんなになるのか!)、何かにつけて思い出すのは、その手触りだそうだ。「柔らかくてしなやかで生あたたかい弾力のある敏捷な、鼻の頭が冷たく濡れている生き物を、人間は触りたいと思う存在なのだ」とある。これに続けて、「だからといって、『猫カフェ』という場所に行ってみたいという気になれない」「つい、キャバクラとか、もしくは『おさわりバー』などという昔の風俗営業を連想してしまう」と書くのが、金井美恵子であるなあと思う。
このトラーの絵のほかにも、金井久美子さんの作品がたくさんのっている。装幀も金井久美子さんで、ちょっと昔風のとても素敵なつくりだ。しっかりした紙に、ゆったりと活字が組まれていて、贅沢な気持ちになった。