鈴木光司のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
エルトゥールル号遭難事件をベースにした小説。著者はあの『リング』で有名な鈴木光司さん。
エルトゥールル号遭難時件から始まった「トルコと日本」の交流は、自分の中では最も関心の高い外交事例だ。
特に、テヘランからトルコ航空機を使って日本人を救出してくれた、いわゆる”100年後の恩返し”は、涙もの。この出来事を知って、トルコが好きになったし、なぜトルコが世界一の親日国であるかも理解できた。今では、いつかイスタンブールに行くことと、和歌山県の串本に行くことが夢になる。
そんなわけで、「1890年、エルトゥールル号遭難」と文庫本の帯に書かれているのを見ただけで、この本を手に取って書店のレジ前に立っていた。
物語は、エルトゥールル号遭難と現在に焦点を絞った作品で、1890年と現在を行き来しながら、進む。よって、舞台のほとんどが「海」。スキューバダイビングやヨットの話がかなり詳しく出てくるが、著者の趣味がこれらのことだからだそう。
結末は、良い意味でほんわか終わってくれるので、安心して読める。
読み終えて、南紀白浜空港にはどういったよいのかをすぐに検索したほど、串本に行きたくなった。
トルコ、エルトゥールル号遭難事件、海洋冒険小説、などのキーワードに興味がある方には是非読んでもらいたい。
ちなみに、この本を読まれた方には、是非この本も手に取ってほしい。
『海の翼』 秋月達郎 著 -
Posted by ブクログ
山村貞子の呪いに端を発したシリーズも、この物語で一応の決着をみるのだろうか。
衝撃的な印象を残した「リング」。
言いようもない圧倒的な恐怖に塗り込められた世界がそこにはあった。
何と言えばいちばんシックリくるのだろう。
勢いがない・・・激動の過渡期をこえて、貞子にまつわる物語もひとつの落ち着くべき場所に落ち着いた。
そんな感じがしてしまった。
それでも、やはり「リング」から始まったこのシリーズの存在は大きい。
ウィルスが蔓延していくシステム、時を越えてもなお続くほどに深い呪い。
罪があるなしに関わらず、巻き込まれていく理不尽さ。
映像化もされたけれど、原作の強烈さを抜くことはできなかったように思う。
すべてのものに終焉の時はくる。
そんなことがふと頭をよぎった物語だった。 -
Posted by ブクログ
ネタバレどうして映画「リング0」の副題をバースデイにしちゃったんだろう。
まあ「レモンハート」では響きが爽やかすぎてホラーファンの集客が望めなかったのかもしれないけれど、「バースデイ」でなくても。
原作のバースデイが意味する対象と、映画のもつバースデイの意味合いが180度逆なのにどうしてそれをチョイスしたのか。
それはさておき、原作リングファンからは評価が低いと聞くこの本ですが、分子生物学だなんだが得意ではない私からすると、眉間にシワを寄せずに読めて楽でした。
「バースデイ」の胎児エコーのシーンで嫌な推理をしてしまいましたが、杞憂に終わりホッとしました。ストーリー上不可能とされていることでも、「なんやかんやで科学的にはできちゃうんだよ!」(貞ちゃんニヤリ)展開にもっていかれるのかとハラハラしました。 -
Posted by ブクログ
かなり難解な本ばかり立て続けに読んできたのでちょっと休息、ということでエンタメ系小説を開いた。
昔読んだ「リング」シリーズは私には「怖い」感じはなかったが、面白く、しかも次々と意想外な視点を提案し、描破しぬけるストーリー構築の力業に魅力があった。
その鈴木光司さんの「ホラー」短編集である。
ホラーといっても、さほど恐怖感を激しくあおるものでもなく、どちらかというと「世にも奇妙な物語」にふさわしいような、軽めの印象だった。
この本を絶賛する気は無く、また、この本にべた惚れした読者をくさす気も無い。個人的に気になった点を書いておく。
大半の短編小説が、最初の方で主要な登場人物が出た際に、日本語漢字でフルネームが記されることに違和感を覚えた。しかも、読み間違いを避けたかったのかいちいち読み仮名までふってあるために、ますます違和感が強くなった。
短い小説なんだから、人物を毎度フルネームで紹介する必要があるのかどうか。
しかし、小説というものは、その本質からいって、虚構の肉を生産することが基本ではある。氏名とか、何時何分とかいう細かいディテールが、「本当らしい虚構」を読者の現実に似た体験として結実するために、必要とされる。いわば最初から小説は「どうでもいい些事」をツラツラと連ねていくことに本道がある。
しかしこの作品集のように名前をフルサイズで示されると、読者である私の容量小さなワーキング・メモリの何割かはそれに占められてしまうので、少々効率が悪い。しかもあっという間に短編が終わってしまうと、次にとりかかるまえに、自力でなんとかワーキング・メモリをクリアしなければならない。これがちょっとおっくうだった。
あと、文章術、小説構築術に関して。
「指にはめた指輪の台座には、こぼれ落ちようとする朝露の大きさで、ピンクダイヤモンドが光っている。」(P164)
この文がテクニカルなのは、ここでの重要事がダイヤモンドではなく、引き合いに出される「朝露」のイメージの方だからだ。しかも4行後には、「葉先から水滴がこぼれ落ちて」と来るから、イメージが継続されている。
ところがこうしたテクニックは、小説のレトリックとして珍しいものではない。
むしろ、この作品にあっては、「朝露」は単に朝の情景を描写しているということにしか役だってはいないのだから、さほど効果的ではない。
厳しいことを言えば、あまり緊密度のない、研ぎ澄まされていない文章で、この作家の天分であるストーリー構築を生かし切れていないもどかしさを感じた。
まあ、そんなに悪いとは言わないけれど。