桑原武夫のレビュー一覧
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ここまで徹頭徹尾正しいことが書かれていると感じる本も珍しい。だがそれは、一度知ったら誰にでもわかるような普遍的なこと、「地球には酸素があって我々はそれを吸いながら生きている」というレベルのことを、書いているからにすぎない。ここに書かれているのはそれくらい当たり前のことなのだが、自分の知らない分野のことになるとそれくらいのこともわからないものなのだから、入門書というのはそういうことを丁寧に書いてあるようなものであらなければならない。この本は本当に丁寧に「文学」を説明する親切さにおいて、良書である。文学を書く人も積極的に読む人もここがスタート地点となって、さまざまな場所へ行ってゆく。型を破ろうとこ
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13年4月7日日経朝刊の「リーダーの本棚」のコーナーで、SMBC日興証券副会長の渡辺英二さんの座右の著として紹介されており読んでみた。
本自体はだいぶ昔の本なのだが、とても面白く読むことができた。
文学を読むということは、それを通して新しい経験をすることであり、本当の文学はハイキングではなく初登頂のようなもの、というような表現があったが、きっとその通りだと思う。ただ、それが書かれた時代では初登頂であっても、そこから歴史を経るとどうなるのか、文学はそれでも生き残ったものなのだろうが、その辺り疑問が残る。
日本には文学が育ちづらいというが、では海外文学を鑑賞するのに翻訳でいいのか、といった点 -
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中江兆民「三酔人経綸問答」青110-1 岩波文庫
本著はもともと漢文で書かれており、前半は現代語訳文、後半は原文といった構成になっています。
民主制を訴える洋学紳士、侵略主義を唱える豪傑君。血気盛んな二人の成年は、政治と哲学の師である南海先生のもとを訪れる。盃を交わし、両者の熱い弁論は平行線を辿る。酒も回ってきた頃合いに、南海先生が口を開く…。
互いに足らぬところ、行き過ぎた部分を指摘し、両者の思想は違えど、実はその根源は同じであると諭す。しかし、あくまで道理を示すまでにとどめ、特定の政治目標へ導くことはしない。
その南海先生のスタンスこそ、まさに本著の目的でもある。
南海先生は政治の -
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ネタバレ日本にルソーを紹介した民主主義者・中江兆民の著。1887年出版。 現代語訳だけ読んだ。
進歩的理想主義者「洋学紳士」と保守的軍国主義者「豪傑君」がそれぞれリベラリストとナショナリストの立場から国家論を展開。中道的リアリストの「南海先生」が聞き手に回るという内容。 三人とも酒を呑みながらしゃべる。
洋学紳士も豪傑君も極論。どちらも理解できる部分があるし、いやそれは違うだろ、という部分もある。最後に二人をいさめつつ議論をまとめ上げるリアリスト・南海先生のくだりのカタルシスが素晴らしい。
「政治の本質とはなにか。国民の意向にしたがい、国民の知的水準にちょうど見あいつつ、平穏な楽しみを維持させ -
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『フランス革命史』抄訳の第二分冊。ルイ16世の処刑から、ロベスピエールの処刑(テルミドールのクーデタ)までを扱う。革命の指導者たちが、革命裁判や暗殺によって次々に命を落としていくさまが克明に描かれてゆく。マラーやダントン亡きあと、一時的に全権力をロベスピエールが掌握したが、それも1年と持たない。ミシュレはテロルを対外情勢や国内情勢が要請した不可避のものとして描き出す――これはのちにフュレが「状況の論理」と呼んだものだろう――が、それでもロベスピエールの負の側面を描き出すことを忘れなかった。しかし、ミシュレが「フランス革命」の歴史をテルミドールのクーデタ、したがってロベスピエールの処刑によって閉
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著名なフランス革命史の抄訳。上巻では、全国三部会招集からヴァルミーの勝利および共和国宣言までが扱われる。トクヴィルが『旧体制と大革命』で、革命とは距離を取りながら行政システムの連続性を浮彫りにし、革命が革命以前から始まっていたと考えたとすれば、ミシュレが強調するのは革命による「人民」の革命的変化であり、人々が突如情念に突き動かされ、共和国樹立へと邁進していく姿である。その限りで、「共和派」の歴史叙述と言われるに相応しい内容である。ミシュレにおいては、革命当時から国外では非難轟々であった人民の直接行動でさえ、革命の友愛精神の現れであり、ジャコバン派の支配も状況による不可避の選択である。歴史が共和
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いささか古いが、文学の中核的な意義は存分に語られていると思う。最後に読書会をもってくることも構成的に素晴らしい。その意義がしっかり伝わる。それにしても日本の私小説に対して本当に腹立たしいのだろうな。
・理性の増強と知性の増加に、人生へのインタレスト、感動する心、常に新しい経験を作り出す構想力が必要。
・現実の人間は哲学者の区分をこえて全的に生きることを具体的に示すのが文学。
・文学者の偉大さとは、彼がその胸の中にいかに多くの人間を生かしうるかによって定まる。
・すぐれた文学:生産的、変革的、現実的。通俗文学:再生産的、温存的、観念的。
・新聞に小説を載せるのは日本だけではないか。
・普遍的な -
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ある日洋学紳士君と豪傑君が南海先生のところを訪ね、3人で酒を交わしながら、緊迫する世界情勢の中で日本という東洋の小国がいかに進んでいくべきか、その外交上の指針を鼎談形式で語るという体裁の作品。洋学紳士君は進歩史観に基づき、武力を排除して民主主義・自由・平等を押し広めていくべきという考え、つまり左翼的である一方、豪傑君は"弱い大国(恐らく中国)"を支配して日本を大国化する、つまり右翼的な考えを持つ。南海先生は侵略は防衛する時に限るべきだと、これは中道路線というべきか。
p100の南海先生の言葉に、「事業はいつも現在において、結果という形で姿をあらわすが、思想はいつも過去において、原因という形をと -
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ネタバレ<紹介>
本書は自由主義的進歩思想、絶対平和観を有した洋学紳士君、帝国主義的国権論者の豪傑君、現実主義の南海先生、三人が対話によって世界の潮流、日本の政治を語るものである。洋学紳士君、豪傑君はどちらもラディカリストであり、それを南海先生がたしなめる形になっている。南海先生は決して自らの主張を述べるでもなく、喋る機会自体が少ないが、先生の言葉一つ一つは比喩を用いながら、思想や政治の本質について核心的な事を述べており興味深い。
<感想>
解説にあるように、三者のうちどれが中江兆民の思想に一番近いのかははっきりしないが、私は洋学紳士君に対する思い入れが大きいように思える。洋学紳士君は西欧の歴 -
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ネタバレ[ 内容 ]
私たちの文化生活のなかで最も重要な地位を占めている文学、これを狭い文壇意識から解放して、正しく社会に結びつけることほど大切な問題はないであろう。
なぜ文学は人生に必要か。
すぐれた文学とはどういうものか。
何をどう読めばいいか。
清新な文学理論と鋭い社会的洞察力をもって、文学のあるべき姿と味わい方を平明に説く。
[ 目次 ]
第一章 なぜ文学は人生に必要か
第二章 すぐれた文学とはどういうことか
第三章 大衆文学について
第四章 文学は何を、どう読めばよいか
第五章 『アンナ・カレーニナ』読書会
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆ -
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明治時代の国際政治状況を踏まえた日本の選択肢を書いた本。
解説によると中江兆民の思想を書いた本らしいですが。
架空の人物「南海先生」のもとに紳士君と豪傑君が現れて
酒を飲みつつ政治談議を交わす設定です。
紳士君はリベラリストというかもはやロマンチスト。
民主主義を標榜し「平等」と「自由」を兼ね備えた国になる事で
他国は敬意を払い攻めてくる事はないだろう、
もし攻められたら相手を非難して無抵抗で敗戦した方がましである、と。
対して豪傑君はリアリスト。
日本は小国であり、文化的経済的に急速な発展をする事は難しい。
更に、日本が改革を行うためには闘いを好む懐古主義者と進歩主義者がいてはならない