藤沼貴のレビュー一覧
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この長編もいよいよ後半。モスクワ市街がフランス軍に制圧され市の大半が焼失、その中でピエールはナポレオン暗殺を考えるが、あっけなく捕虜にされ容疑者たちが銃殺される現場を見る。以来ピエールの中で宗教や政治、妻エレンのことは遠ざかってしまう。捕虜生活の中でプラトンという男と知り合う。これがトルストイの傾倒した老荘思想の持主ということらしい。しかし東洋的なことを言うわけではない。モスクワから逃げ延びたロストフ一家は負傷したアンドレイと偶然落合い、ナターシャとマリアはその臨終に立ち会う。末期のアンドレイも現世のことには興味がなくなっていたようだ。このあたり作者の無常観が漂っている感じだった。そんな中でニ
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この巻は前半はマリアの父ボルコンスキー公爵の死 後半はナポレオンのロシアでの初めての敗北のボロジノ戦が描かれています。読んでいてじわじわ来たのは、私のように戦争経験のない人間にはわからない、軍事進攻の残酷さです。特に前半のアンドレイの故郷の荒廃ぶり、彼らが土地を転々としている事実、むろん彼らは裕福な何ヘクタールも農場を所有している豪農の領主なのですが、しかし物語で語られている時間経過でそれは感覚として理解できました。いわば都落ちです。後半の戦場の残酷な描写も克明であり、この時代の戦争ではあるのですが、指導者と現実の戦場の乖離など、読んでいてそうであろうと納得させられました。そんな中でアンドレイ
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この巻は戦争関連の事柄は退き、ロストフ家とボルコンスキー家の縁組の話が主で、いろいろな結婚話が出てきます。年若いナターシャを巡る恋愛話が主なのでヒロインかなと思いますが、ソーニャが脇役で地味ながら聡明なこと、またアンドレイの妹のマリアが老父に支配され結婚もできずにいることなど、私もこの歳で読んでみて若い頃には気づかなかったであろう点が多々あり、非常に示唆に満ちた読書体験でした。持参金のあるなしで縁談もうまくいかないことも何度も出てきて、非常にシビアな作品だと思います。また登場人物らの心理描写が巧みで、ほんのちょっとしたことで気持ちが移りかわっていく描写が多かったです。まだ半分まで来たところなの
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ピエール、ニコライ、アンドレイの三人を軸に話が進み、決闘や賭博、フリーメーソンと多彩な当時の庶民の暮らしの先端部分が描かれた巻。アンドレイは戦争で負傷し妻をお産で亡くし、フリーメーソンに入会して意気があがっているピエールと距離ができてしまう。またニコライは、妹のソーニャに思いを寄せたが断られたドーロホフに賭博で負けてしまう。ドーロホフはその前にピエールとその妻エレンを巡りピストルでの決闘で負けている。戦争はこの巻ではその背景に退き、複雑な人間模様が主として描かれる。フリーメーソンがこの先どう描かれているか知らないが、この巻での描写は新興宗教のようで不気味に思えた。ピエールはその教義に基づき農民
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貴族階級の若者と関係した後に棄てられ、失意のまま娼婦へ身を落とした元小間使い。十年の時を経て彼らは或る事件の陪審員と被告の立場にて再会。書き手次第で三文小説に成り兼ねない題材も文豪の筆に掛かれば重厚なドラマへと昇華する
人間は自分の中にあらゆる性質の芽をいだいており、その変化によっては自分と似ても似つかないものになることがよくある(四百頁記述の要約)
人間の本質を的確に捉えたトルストイの見識に改めて感心。若かりし頃の崇高な理念は忘却の彼方へ消し去られ、俗世にまみれたエゴイストへ成り下がったネフリュードフと、彼に尊厳を踏みにじられ堕落したマースロワの二人がどう「復活」していくのか、下巻の展開 -
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ここ(3巻)まで来ないとこの本の良さが理解できなかった。1巻の時にさんざんに酷評したことを反省しているが、あの時点ではこんなに引き込まれることになるとは思っていなかった。この本は単なる小説ではなく、トルストイが考える戦争というものを表現している本だとやっとで理解した。ナポレオン戦争はナポレオンの英雄的な天才性によって勝ち進んだものではなく、戦争の中で一人の人間が担える役割や与える影響はたとえそれが皇帝であろうとも極わずかどころか皆無であり、人間の集団性とその中の個々人の動きの総和によってすべてが左右されるというトルストインの戦争観に全く賛成である。途中に入る訳者の解説も大変的を得ていて、本当に
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下巻のあとがきは、翻訳者の藤沼貴さんが急逝したことによって、弟子にあたる阿部昇吉さんが執筆している。しかし長編を読み終わったあと最後に現われる“代役”によるこの一文は、口直しのデザートのように作用して心地よい読後感で本を閉じることができる。
阿部さんは(おそらくわざとだろうが)藤沼先生による学術的な解説文からがらりとトーンを変え、先生の人柄を追憶するような、私的でくだけた内容で構成している。
私的な内容とは言うものの、研究者としてのあまりにも一途で一直線な姿と、それを裏返したかのように弟子や他の研究者に対してふと漏れる、先生のセンスのいい茶目っ気が書かれていて、もしネフリュードフの生き方に最 -
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復活を読んで一番印象的だったのは、ネフリュードフがあまりにも達観しているところ。
もちろんカチューシャにはじめに出会ったときのような、若気の至りがあふれていた頃も彼にはあった。しかしカチューシャとの再会後は、どんなことが起ころうとも、世事にも他人にも自分自身にも、自分の判断に照らして、まっすぐ前を見るかのように右顧左眄なく対処し続けている。
そして特筆すべきは、若き頃にカチューシャに対して行った“過ち”と対比するかごとくに、彼女と再会後のネフリュードフは、「恥ずかしさと罪の意識」をいかに避けて自分にとって“正しい”と思われる道を進んで行くのかについて意識が集中していくこと。
時には同じところ -
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本巻では、ボロジノの戦いで戦略的撤退を敢行したロシア軍がさらにモスクワの街を捨てた状況が描かれる。
ナポレオン軍がモスクワに侵攻した時、すでにモスクワはほとんど無人の街になっていた。
ナポレオン軍は、そこで烏合の衆に成り果てる。
目の前に無人となった美しい街がそのまま残っているのを目にしたナポレオン軍の兵士達は、略奪の限りを尽くす。
その姿はもう、兵士ではなくただの略奪者だ。
そこには将軍も一兵卒もなく、誰もが馬車を奪い、美しい家具を奪い、金目になる物を残らず強奪していく。人間の浅ましさをまざまざと見せつけられる。
規律を失った組織の脆さ、脆弱さ。人間の弱さがこれでもかと描かれる。リーダー -
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本巻はついに恋愛小説編に突入!
妻を亡くしたアンドレイ・ボルコンスキー公爵(31)とロストフ伯爵家の次女ナターシャ(16)との恋愛、そして同じくナターシャの兄のニコライといとこのソーニャ(18)との恋愛がメインで語られている。
この時代の貴族の結婚というのは、財産目当てというか、いわゆる政略結婚が大きなウエイトを占めている。特に、貴族の男性にとっては持参金をたくさん持ってくる金持ちの貴族の娘と結婚することが一番の幸せだと言われていたんだね。
ロストフ伯爵家は財政が火の車なので、長男のニコライにはぜひ金持ちの貴族の娘と結婚して欲しいと両親は思っているのだけど、当のニコライは無一文(これは言い -
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この2巻では、主要なキャラクター3名、ピエール、アレドレイ、ニコライにそれぞれ試練が訪れる。
特に本書の後半で行われるアンドレイとピエールとの「人生の意味」ついての議論は本巻のクライマックスだ。
アンドレイは、アウステリッツでのナポレオン軍との戦闘で重傷を負って帰郷、さらに追い打ちをかけるように出産時に最愛の妻リーザを亡くし、軍での出世も人生への希望も失ってしまう。一方、妻エレナとの関係の悪化により、人生に絶望していたピエールは、秘密結社フリーメーソン(!)に入会したことにより再び人生の希望を見いだしていた。
この二人の議論は突き詰めれば「人生とは、善か悪か」ということであり、著者レフ・ -
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歴史に残る名作、大作の1つ。本当にそう。
名作を読んだ時、今まで読んだ本の大部分がへぼく見えてしまう。
読みこなすには一度ではすんなり入ってこない部分もあるけれど、登場人物の人間ドラマは生き生きと、戦争などはシーンが浮かぶように描写。
死がたくさんあるけれど、最初は思いもかけなかった人たちが結びつく。
『アンナ・カレーニナ』を読んだ時もそうだったけど、先が見えない大きな何かに包まれて生き、私たちはとても小さな存在でありながら今生きているという気持ちになる。
エピローグ2では、権力の定義、必然性と自由について、トルストイの哲学的な歴史の考察が書かれていた。 -
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ネタバレ何年も前から新潮文庫の方を何十回も本屋で開いては文章に謎の拒否感を感じて本棚に戻していたこの小説。
他の人の訳なら、脳が突っ張ねることもないかと、この岩波版を購入してみました。結果としては、他の方のレビューある通りにこちらも決して読みやすい訳文ではありませんが、それでも内容にぐいぐい引き込まれて最後まで(と言ってもまだ一巻だけですが)読み通すことができました。
この巻に収録されているのは第一部の第一遍と第二編。第一遍はモスクワの貴族社会が舞台で、主人公挌の青年ピエールの遺産相続の顛末。第二編は一転して対ナポレオン戦争の最前線で、主人公格の一人アンドレイを軸に戦場での日常風景から始まり、侵攻し