薬丸岳のレビュー一覧
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少年犯罪をテーマに、息子が同級生を殺害したとして逮捕された父親が、事件の真相と息子の心に向き合っていく物語。
「少年がなぜ犯罪を犯してしまったのか」だけではなく、その周りにいる家族や被害者、そして加害者自身の苦しみまで、簡単に答えを出せないまま突きつけてくる。
中でも、「心とからだと、どっちを殺したほうが悪いの?」という問いには、思わず読む手が止まってしまった。
被害者の家族がつらいのはもちろんだけど、加害者の親もまた、簡単には言葉にできない苦しみを抱えている。自分の子どもが誰かを傷つけたという事実、被害者やその家族への罪悪感、それでも我が子を見捨てることができない気持ち。
読んでいる間ずっと、正解のない問いを突きつけられているような感覚だった。
重いテーマだけど、だからこそ読んでよかったと思える一冊でした。 -
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ネタバレ一気に読み切った。
電車の中で読んでいて、度々涙を堪えた。事件前後の明香里の変わりように胸が痛んだし、周囲の人との関わりを経て、少しずつ前向きになっていくところ、犯人の小野寺に正面から自分の想いをぶつける勇気に心を動かされた。
トムくんが、ひどい目に遭わされても母親に会いたがり、会えなくなったのは自分のせいだと、自らを責めるシーンも印象に残っている。どんな母親でも愛するのが子供なのだ。そして人には母親からの愛が必要なのだ。溝口はもう2度とそれを感じることはできない。小野寺は、近くに母の愛があったのに、自ら遠ざけてしまった。そして、罪を犯してから改心して、真っ当に生きると誓った飯山のような人もいる。
どうかいま苦しんでいる全ての子供達に、トムくんのような子達に、罪の境界を越えない支えが、等しく与えられることを祈りたい。 -
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【自分の娘を殺された教誨師vs.犯人=死刑囚のやり取り/死刑制度を巡る新しい論点提示】
・ かつて、子を身籠った恋人を死なせてしまい罪の意識を持ちながら牧師となった保坂宗佑は 、自分が父親であることを隠して娘の成長を見守ってきた
•しかし、その娘が結婚・出産を目前に子供もろとも殺されてしまう。犯人石原は祖母をはじめ4件の殺人を行っており死刑判決が下り、本人も死刑を望み反省も生への執着もないまま刑が執行されると思われた
・理由も無く突然娘を失った宗佑は、刑務所での教誨の経験から、石原に教誨師として近付き娘の無念を晴らす為の復讐を画策する
・石原に生きる希望を持たせたところで死の直前に絶望の淵に突き落とす計画であったが、石原との対話を重ねる内に宗佑への気持ちが変化していき、自暴自棄になっていた石原も次第に心を開いていく
・両親・姉に捨てられたと思いこんだ石原が親族への復讐心で犯行を重ねたこと、その誤解を解く機会もなく孤独な人生を歩んできたこと、石原の姉との接触で真の反省に至ったこと、等を通じて宗佑は遂に石原を赦したところで、石原の死刑は執行される
・死刑執行直前の教誨で、殺される直前に娘が発した言葉を石原経由で宗佑は知ることとなり、彼自身もまた、罪の意識から救われることとなる
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・死刑制度については、そのものの是非から運用方法、死刑囚の生い立ち、残された遺族、冤罪問題、当事者とそれ以外、他・・・まで非常に多くの論点がある
・死刑制度を運用している国は2026年現在55ヵ国程度とのことで世界的に見れば日本は少数派ではあり、答えの無い複雑な論点が多くありながらも、死刑制度は国民には[一定程度受け入れられている様に見える]特異な制度、と自分は認識している
・その死刑制度において、死刑囚・遺族の心(の変化)と「赦し」について「教誨師」という新しい切り口で切り込んだ本作を通じて、死刑に至るまでの犯罪の経緯、その更生可能性、死刑が持つ意味合い、教誨の意義・救い・赦し、等について深く深く考えさせられた
・死刑囚、その遺族、教誨師、執行に関わる刑務官、官僚・法務大臣、他様々な関係者に尋常でない負担を掛けるこの制度を持ち続ける意義は何なのか、それを通じて我々は何を期待するのか、深く重い問いを新しい形で投げかけられた
・これまでで死刑制度について深く考えさせられたのは漫画の『モリのアサガオ』(郷田マモラ)。個人的にはそれに次ぐ作品
・学生時代に、死刑制度そのものがないEU出身の友人と死刑制度の是非について議論した際に全く嚙み合わず、当時は表層的な意見しか持てていなかったことを思い出して恥ずかしくなった。今ならもっと深く話し合えると思う。一方で、死刑制度が元々無い国ではこの様な物語も生まれ得ず、議論を深める機会もないかもしれない -
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野依美鈴という存在が現代にも必要なのかなと思う。
自分の発言で炎上するのはともかく、第三者が勝手にしたことで炎上する事案も多く、一方の話しか聞かないメディアだったり、何を持ってして解決なのかが未だに決まってない事が世の中に多すぎるなと思った。
時代は令和でも、個人がアップデートされる訳でもなく、パワハラされて育った世代はそれが悪いことだと思ってないし、令和の世代の子達は多様性を認めて欲しいと主張する割に、郷に入りては郷に従えという言葉は無視する。
そういう中で生まれた歪みが炎上となり、見ることができる情報が多すぎて、何を信じるかを選択できる時代というのもややこしいなと思わせられた。
最後の美鈴が声がつまる部分だけはあまり共感できなかった。
土台をしっかり積み上げたのだから、堂々として欲しかったし心から応援したかったなと思った。
匿名性が高い場面での心無い言葉などは多々みかけるが、作中内であったように顔が見えてると思いながら使うように心がけたい。 -
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2026.07.23 ★4.0
刑事夏目信人の第三弾
夏目が飄々と独自の洞察力を持って事件の真相に迫っていく短編集。
事件の被害者となり、植物状態になった娘絵美を気にかけながら事件と対峙する姿は心が痛むし、応援したくもなる。
最終話『刑事の約束』では感情の振り幅が大きく、思わず涙がこぼれた。
個性の立った脇役が多く、これからも続編を楽しみにするシリーズである。
↓↓↓内容↓↓↓
■収録作
「無縁」……「小説現代」掲載
「不惑」……『デッド・オア・アライヴ』掲載
「被疑者死亡」……「小説現代」掲載
「終の住処」……「小説現代」掲載
「刑事の約束」……書き下ろし
椎名桔平主演で連続ドラマ化された短編集『刑事のまなざし』に続く、夏目シリーズ最新作!
植物状態の娘を持つ東池袋署の刑事・夏目信人(なつめのぶひと)。数々の事件に遭遇し、独自のまなざしで手がかりを見つめ、鮮やかに謎を解いて行く。夏目が対するのは5つの事件。抜き差しならない状況に追い込まれた犯人たちの心を見つめる夏目が、最後にした“約束”とは――。
無類の題材、怒濤の展開、衝撃の結末。いまも近くで起きているかもしれない、しかし誰も書いたことのない事件を取り上げ、圧巻の筆致で畳み掛ける、乱歩賞作家・薬丸岳の真骨頂! あなたは五度驚き、五度涙する! -
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本当に更生したかどうかは目に見えては分からないから難しい。犯罪者じゃなくても前科者じゃなくてもろくでもない人間はいるし、捕まってないだけの犯罪者もいる。作中にもいた。かつての猟奇殺人犯鈴木の現状だけを見ると辛い展開が続く。周りの仕打ちにあんまりだと思う。だけど鈴木は自身が傷付いたことを吐露出来ない。正当な反論も出来ない。怒りを露わにすることも出来ない。過去に罪を犯した自分が悪いのだからと全然飲み込む。それが切なかった。今の彼だけを見るなら、ちゃんと罪を背負っていると感じるし、人並みの暮らしをさせてあげたいと思う。でも怖いという気持ちも分かる。過去の事だと容易く割り切れる程に軽い罪ではない。自分が同僚や友人の立場だったらどう振る舞うかは想像出来そうにない。ただマスコミを始め、なぜ後先考えずに蜂の巣をつつくようなマネをする人間がいるのかはとても理解出来ない。あまりにも軽率で、無責任さに余程腹が立つ。その罪深さに無自覚なあたり、鈴木と対照的で余計に複雑な気分になる。
昨日だか今日だかお坊さんのツイートがバズっていた。一度尿が注がれた食器はどれだけ綺麗に洗浄しても使いたいとは思わないだろう、そうした忌避の心理が穢れの本質であり、人や土地などあらゆるものに結びつけて差別を生み出した、といった主旨の内容だった。前科もそうなのだろう。決して取り返しが付かない。だが前科という明確な形あるものだけでなく、公衆の面前での立ち居振る舞いも拭えない穢れになり得るものだと弁えている人間は多くないと感じる。 -
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薬丸岳さんは好きな作家。罪を犯した者、加害者と被害者、贖罪がテーマの重い小説が多い。
そんな薬丸岳の小説の中によく登場するのが、刑事の夏目信人という人物。彼は少年鑑別所の法務技官をしていたが、実の娘が通り魔にハンマーで頭を殴られ、植物状態になってしまったことで、犯人を探すために刑事になった男。その夏目刑事のエピソードが7篇収録されている。いずれも刑事としての鋭い観察眼と、想像力で犯人を追い詰めていく。そして最後の話では、娘を植物状態にした憎き犯人を突き止める話。点と点が線としてつながる展開が、ちょっとスリリングでした。
夏目刑事を主役にしたドラマも過去にTBSで製作されており、椎名桔平が演じているらしいので、機会があれば見てみたい。
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ネタバレ片桐達夫は、かつては愛する妻・子どもと幸せな家庭を築き暮らしていたが、ある傷害事件をきっかけに、人生が180度変わり、それ以降何度も罪を重ねて刑務所への出入りを繰り返している。
なぜ彼は罪を重ねるのか?
章ごとに語り手が変わり、同じ場面でも目線が違うと見え方がガラッと変化する。そして章が進むごとに、点と点が少しずつ線になり、片桐という男の秘めたる思いが明らかになっていく。
結末は悲しくて、切なくて、虚しくて。
エピローグの後、不器用で真っ直ぐな1人の男の人生が、きっと影響を与えたであろう周りの人たちのその後の人生や心情の変化まで答え合わせが欲しかった。それくらい、救いが欲しかった。
余韻を残すための終わり方だったのかもしれないけど。
最後に。ひかりにとっては、真実を知ることと、知らずに生きていくのと、どちらが幸せなのだろうか。 -
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探偵の佐伯を中心とした短編集。それぞれの物語が交錯し、姉をレイプし殺した3人の男の復讐へと導いていく。
薬丸岳さんはよく、贖罪を「(罪人が)幸せになること」だと描く。私もそのとおりだと思う。どんなに罰を与え苦しめ痛めつけても、行動の後悔に繋がったとしても反省には繋がらない。だけど、幸せなときに初めて、大切な誰かを失うことや幸せを壊されることの辛さを実感する。
今回の作品は、その過程を描くのではなく、被害者側が復讐として、加害者がそうなるよう仕向けていた。その意味では、私は最後録音を聞かせても良かったのではないか、坂上が死んだ後のりさや細谷を描いても良かったのではないか、とも思う。(もっと重いドロドロした話になっただろうけど、でもだからこそ、この展開だったのは話を重くしすぎないようにだった感じがした)