木村元彦のレビュー一覧

  • オシムの言葉

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    改めて読み直して、愛に溢れた方だなという思いに至った。そして、祖国での悲しい出来事に今を重ねてしまう。この素敵な方がいた時代を共に出来たことをこの本を通して感じた。

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    2022年05月13日
  • 徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男

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    ネタバレ

    サンフレッチェ広島を築きあげてきた今西和男氏の広島時代、そしてFC岐阜時代の話。広島時代は社会人、そしてJリーグと一歩先を行くチーム作りをしてきたストーリーが書かれている。今、様々な指導者として活躍している面々の多くが今西氏の元を経由しているのが興味深いし、こことここが繋がっているのかと感心したり。ご本人も陸上の為末大とは親戚というのが初耳だった。
    FC岐阜ではいろいろな外的要因でうまくいかなかったが特にライセンス制度の部分ではJリーグに謀られた話がさもありなんという感じで読めた。ライセンス制度、必要ではあるが今の状況を見ても果たして正しいやり方のかは疑問が残る。
    FC東京ファンとしても森重、高萩がそれぞれ今西氏の教え子を介して今に繋がっている、そのストーリーだけでも読んでみると面白い。

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    2021年05月04日
  • ぼくは挑戦人

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    ネタバレ

    僕は挑戦人

    著者:ちゃんへん.
    構成:木村元彦(ゆきひこ)
    発行:2020年8月21日
    ホーム社

    やっと順番が回ってきた人気本。久々に「あー面白かった」と読後に発した本だった。タイトルの「挑戦人」という当て字というかひねりだけ、ちょっと無理がある(しっくりこない)感じだったけど、中身はとても優れた本だった。

    著者は京都府宇治市のウトロ地区で生まれ育った在日コリアン。1985年生まれ。父親を幼い頃になくし、クラブを経営する母親と祖父母に育てられた。小3の時にクラスメートから言われるまで、自分が在日であることや外国人と日本人との違いすら知らなかった。4年生になると上級生からひどいいじめを連日受け、殴る蹴るはもちろん、彫刻刀で腕をえぐられるまでに。それでもいじめられていることは誰にも言わず、自殺まで考えていた。おかしいと思った先生が後をつけると、命にも関わりかねないいじめを受けている現場を捉えた。しかし、校長室に現れた彼の母親は、「いじめは子供にとって面白いからなくならへん。お前、学校のトップやったらいじめよりおもろいこと教えたれや!」と校長をどなりつけて帰った。

    中学に入るとハイパーヨーヨーに夢中になって名人となり、さらにジャグリングと出会って、ハイパーヨーヨーとディアボロを組み合わせたパフォーマンスを作り上げて腕を上げる。そして、中3の時、ある人から教えられたアメリカで行われる大会に出場したいとダメ元で母親に言うとOKが出た。現地で、レベルの高いパフォーマンスを見てとてもかなわないと思ったが、なぜか予選を通過、さらには、なんと優勝してしまった。すると、さすがはアメリカ、それを見ていた人物から仕事が来るようになる。

    スポーツクラスが出来て2年目の高校に進学し、プロのパフォーマーを目指したが、高1の時に仕事で呼ばれた先のニューヨークで、9.11テロに遭遇、恐怖体験をする。その1ヶ月後、今度はヨルダンのアンマンで仕事。9.11関連のニュースを放送していると、喜んだりガッツポーズをしたりする人を見かけ、恐くなった。ところが、2003年、3年生になり、再び行ったアンマンで今度はイラク戦争の報道。人々はとても悲しそう、悔しそう。フセインという独裁者がいなくなれば、隣国ヨルダンの人々にとってもいいのではないかと思っていたのに、この反応。日本のテレビでは、逆にイラクの人々の歓喜シーンが次々に流れていた。9.11では悲劇を悲しむ映像がこれでもかと使われていたのに。
    「アラブ系、中東系、イスラム教徒は恐い」というのが偏見だったことを思い知る。

    大道芸ワールドカップin静岡2002に参加、「ヤジウマ人気投票」で1位になり、以後は、高額なギャラで仕事が来るように。いったんは大学に進学するも、北野武のアドバイスで退学。プロのパフォーマーとして飛躍を目指すとともに、イラク戦争の一件で社会問題にも目が向く。ピースボートでステージに上がってくれと誘われるも、交通費は出るが出演料は出ないと言われて断るものの、スラム街でステージが出来るならOKだと言うと、ケニアから南アフリカまで乗ることになった。ところが、一人で入国したケニアの空港で3人組の強盗に襲われ車に乗せられ、拉致される。身ぐるみ剥がされかけている時、ディアボロが出てきて説明させられる。俺たちの街(スラム街)に来て子供に見せてやってくれないかと言われ、乗り換え飛行機の時間に間に合うように送ってくれるなら、という条件付きでOKする。

    ケニアのスラム街でのパフォーマンス、子供たちの英雄になれた。そして、ピースボートが設定してくれた南アフリカのスラム街・ソウェト地区でも、同じだった。
    同じ年、再び南アフリカへ。アパルトヘイト撤廃10周年の席に招かれた。同じステージに立ったある老人に声をかけられる。ノーベル平和賞を受賞しているデズモンド・ムピロ・ツツ牧師だった。本人は全くしらなかった。そして、マイケル・ジャクソンのそっくりさんがステージで踊った。その人も紹介された。ところが、彼は本物のマイケル・ジャクソンだったことを知る。マイケルはこっそりとこういうステージに上がることがよくあるらしい。

    彼は、パレスチナの難民キャンプでも何度かパフォーマンスし、子供たちの英雄になるなか、自らのアイデンティティにも目が向き始める。板門店は、韓国側と北朝鮮側と、両方から行った。なお、彼自身は中学の時の渡航でパスポートを申請する際に韓国籍を選んでいる。また、2012年には金日成生誕100周年に招かれてステージにあがった。ステージ後、応接室で金正恩次期委員長(当時)を紹介された。「わが同胞よ!」とか言われるかと思ったら、「ああいう技は、私にもできるようになるのですか?」と聞かれたという。答えは、「毎日こつこつやれば、必ずできるようになります」だった。

    日本で増えてきているヘイトスピーチについては、自分とは関係ないと思っていた。そんなの朝鮮人に対する問題であって、朝鮮人の問題ではない、日本の問題だ、と。ところが、2016年、フランスでのある大会でドイツ人ジャグラーに「あれでいいわけがない」と指摘され、目覚める。ヘイトスピーチは一部の人に向けられたもので自分には関係ない、と思っていたが、ドイツ人の彼には、在日コリアン全体に向けられているように映る。

    「自分の役割」に目覚めて活動をし始めて以後は、学校での講演(パフォーマンスと自分の体験談)の依頼がどんどん増えた。中には、父親がネット右翼になってしまった生徒がその講演に父親を連れてきて聞かせ、父親はネットでの書き込みをやめたということもあった。仕事はこのご時世で厳しいが、著者は目覚めと役割認識を繰り返しながら活動を続けているようだ。

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    いじめを受けている時期、「自分は生きていたらあかん人間なんや」「自分は生きているだけで人に迷惑をかけてしまうんや」となぜか思えてきた。
    (DVを受けている女性が「自分が悪い」と思い込むのに似ている?)

    大道芸ワールドカップでヤジウマ人気投票1位を取った直後、2002年12月~2004年1月の1年間で47都道府県を全て営業で回る。当時の出演料の相場は10~20万円が当たり前で、高校3年生の夏休みだけで月収200万円だった。大手企業のプロモーションイベントでは3分間で300万円の出演料。

    韓国側の板門店では、国連軍は「北は敵だ。敵の脅威から国を守らなければならない」というスタンスだった。一方、北側の人民軍は「南の同胞のために、自主的に統一しなければならない」というスタンスだった。

    芸歴5年未満の時期は特に大事で、安請け合いをしてしまうと、依頼主や業界内で「あの人は高い出演料を設定しているけど、交渉すればもう少し安く仕事を引き受けてくれる」という噂が回ってしまう。
    (全くの同感、自分自身の仕事でも若い頃に決して安売りをしなかった。安売りをしたフリーランスは以後も安いままだった)

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    2021年03月30日
  • オシムの言葉

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    オシム氏がどのような人か、事実のみで再現されていて、丁寧に、粘り強く、取材をされていたのが見て取れる。
    人物ルポの鑑の一冊。

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    2021年03月23日
  • 徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男

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    サンフレッチェ広島の基盤を築いたひとにして、岐阜で泥を被った男今西を通じてJリーグ、そして日本をみる。偉大すぎる男がなぜ傷つかなければいけなかったのか?単なる企業の宣伝媒体から地域密着を掲げる社会性を急激に纏わなければならなかった日本のスポーツの光と陰。そして描かれる男のスケールよ。

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    2021年02月25日
  • 爆走社長の天国と地獄 ~大分トリニータv.s.溝畑宏~(小学館新書)

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    本編はホントに面白くて。改めてこのクラブのサポーターでいられた幸運に感謝しかない。この本では美化しすぎな気もするけど、一方で彼がいなかったらクラブは存在しなかったというのは紛れもない事実。2021年の今だからこそ、感慨を感じたり面白がれたりするのだけど。
    ただ、もちろん本書の元々の範囲外ではあるけど、2010年から2015年までが語られてないどころかさらっと黒歴史のように書かれているけど、2013年の県民を挙げての寄付活動とJ1昇格は2009年の転落からの一つ区切りとしてはっきりと存在しているということだけ言っておきたい。それがあったからこその2016年以降の飛躍があるから。相変わらず社長は県からの出向者だし、ここで指摘された課題は変わってはいないのだけど。(その出向社長が優秀っていうのが、またややこしい話でもある)
    語りたくなるマイクラブがある喜び、それに関しては感謝してもしたりない。

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    2021年02月05日
  • ぼくは挑戦人

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    いっきに読んだ。ヘイトスピーチに参加する人との交流が印象的だ。こうした人との繋がりが彼の生き方を支えているのだろう。それは彼の家族の姿を背景としているのかもしれない。少しの憧憬を感じながら、性奴隷など存在しないといまだ言い放つ国に住むことに震える。

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    2020年11月07日
  • ぼくは挑戦人

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    前向きで明るく、周囲を惹きつける求心力が魅力的

    品質の良さに気付いてくれる人を待つ
    その間技に磨きをかける

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    2020年10月23日
  • オシム 終わりなき闘い

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    以前読んだ「オシムの言葉」の続編というか、脳梗塞に倒れ、帰国したあとの後日譚に当たる。

    旧ユーゴスラビア解体の動きの中で、それまでの隣人同士が銃で撃ち合うような事態に発展したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の戦火に、家族もろとも翻弄されながらサッカーを続けてきたオシム氏。

    サッカーは、分断された国にとって唯一のアイデンティティーとさえ言える存在だが、やはり分裂状態にあったサッカー協会を再び一つにまとめ上げ、ワールドカップへの出場を成し遂げるまでの「正常化委員会」での大仕事を中心に描く。

    クロアチア・セルビア・ムスリムの3つの民族が入り乱れているだけでなく、社会格差も拡がる分断のさまは余りにも複雑で、この本を一読しただけではとても噛みきれないが、そんな中で力を発揮したのが、オシム氏の経歴(国民の尊敬を集めるサッカー選手であり、監督であった)や不偏不党の精神であり、各国のコワモテ指導者を納得させたオシム氏への信頼なのである。

    文字通り「国」を支えているサッカーそのものも違えば、そこに向かう氏の覚悟も全然違う。

    そんな人が日本へ監督としてやって来て、代表監督まで務めたというのは、ほとんど奇跡的なことのように思える。

    本は、そうした中でのオシム氏の動きや心中を、著者ならではの鋭さで引き出そうとする。この本にも、覚悟を受け止める真摯さ、切実さが溢れている。

    今、分断は落ち着いているかに見えるが、キケンな民族主義は再び胎動を始めているという。人間というのは、どうして学習しないのだろうか。

    なお、ハリルホジッチ氏がいかに日本代表にとって大事だったか(解任は失策であった)、日本サッカーには「日本化」が必要だなど、興味深い話も掲載されている。

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    2019年08月28日
  • 終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ

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    ユーゴスラビア解体後の”セルビア・モンテネグロ”の戦慄する現状がレポートされている一冊。
    著者が直接現地に赴き、取材を重ねて、その現状を赤裸々に綴っている。

    セルビア人が他民族を「民族浄化」したことは間違いない、しかしその”逆”が現在行われているのが現実。。。
    「暴力」は絶対悪なのに、”される”側と”する”側が入れ替わりそれが消滅しない現実、思考を破壊する”憎悪”、、、。

    どうすれば解決できるのか...!
    解決には長い”時間経過”を待つしかないのか。。。
    答えが出てこず、今も考えているっ。

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    2019年05月06日
  • オシムの言葉

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    ・作り上げることは難しい,でも作り上げることの方がいい人生だと思いませんか?
    ・モチベーションとは考えることの手助けだ.
    ・君たちはプロだ.休むのは引退してからで十分だ.
    ・リスクを冒して攻める
    ・ライオンに追われたウサギが逃げ出すとき肉離れをするか?準備が足らないだけ.

    など至言多数.

    祖国分裂・人種対立など,現代日本で生活していると想像できない環境下の
    中サッカーを続けてきたその精神力.脱帽.

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    2018年10月09日
  • 悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記

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    サッカーはよく分からない。ルールは知っているし、日本リーグの頃は
    閑古鳥鳴く国立競技場にさえ行った。でも、Jリーグになった最初の1年
    だけは試合の結果も追っていたが、諸事情によりサッカー観戦を止めた。

    ストイコビッチをはじめ、ユーゴ出身のサッカー選手は辛うじて名前を
    知っているくらいだ。だから、本書は読み通せるか不安だった。

    案じることはなかった。多分、まったくサッカーを知らなくても読める。
    副題に「ユーゴスラビアサッカー戦史」とあるように、旧ユーゴスラビア
    全土をくまなく回り、選手や協会関係者、サポーターに取材し、試合の
    経過も記されている。

    それでも、本書を貫いているのはユーゴスラビアの現代史である。それも
    世界中から「悪者」のレッテルを貼られたセルビア人への強い思い入れを
    感じる。

    第二次世界大戦でナチス、ソ連、連合国を相手にユーゴスラビア独立を
    成し遂げたチトー大統領の圧倒的なカリスマで維持していたような国だ。
    民族主義を厳しく禁止したチトーの死、東西冷戦の終結と続けばユーゴ
    の崩壊は当然の結果だったのかもしれない。

    そのなかで、何故、セルビアだけが「悪者」にされたのかは『ドキュメント
    戦争広告代理店』(高木徹)に詳しく書かれている。

    スポーツと政治は別物なんてのは綺麗ごとなんだと思う。有能なスポーツ
    選手だろうが否応なしに政治に絡めとられて行くことがある。それを本書
    は丹念に描いている。

    「NATO STOP STRIKES」

    本書のカバーにも使用されているストイコビッチの写真。名古屋グランパス
    のユニフォームの下に着ていたTシャツの胸に、何故、この言葉が書かれて
    いたのかが記されている場面では思いがけず泣かされた。

    絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ。著者は言う。
    その通りだと思う。

    一方的に流されるプロパガンダに染まる前に立ち止まらなければならない。
    旧ユーゴスラビアの問題のすべてをセルビアだけに負わせていいはずが
    ないのだ。

    本書は1998年から2001年までをストイコビッチを中心にしたサッカーと
    いうスポーツに視点を置きながらユーゴスラビアを描いているが、その
    ユーゴスラビアも2003年には消滅した。

    七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、
    二つの文字、一つの国家。そんなバルカンの火薬庫と呼ばれた国は
    地図上から消えた。それでも、セルビア人に貼られた「悪者」のレッテル
    は歴史上でつきまとうのかもしれない。

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    2018年01月13日
  • 悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記

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    われわれがさして関心がない事柄でも、マスコミの報道というのは知らずしらずのうちに耳にはいってくるもので、その点ではマスコミの力は大きい。

    当時からテレビも新聞もあまり見ておらず、ユーゴスラビア紛争やコソボ紛争に特に関心があるわけではなかったけれども、セルビアに関する悪評はなんとなく知っていた。民族浄化という名の下に恐ろしい虐殺を行っているらしいということを。

    NATOによる爆撃が開始され、それまで加害者であったはずのセルビア人が急に被害者になり、一般的には正義の側と思われていたNATOがどうもそうでもないらしい気配がただよってきて、セルビア人のサッカー選手であるドラガン・ストイコビッチが、母国への爆撃中止を訴えるデモンストレーションをピッチ上で行ったとき、正直、どう反応していいのかわからなかった。

    セルビア人=加害者側の民族 ストイコビッチ=サッカーのヒーロー
    このふたつをうまく結びつけることができなかった。

    といってもそれから急にユーゴ問題に関心が高まったというわけでもなく、ユーゴ紛争はユーゴ紛争であり、サッカーはサッカーであって、前者は後者に較べてあいかわらず興味を引く話題ではなかった。その点はいまでもそうである。ただしこの問題の理解が少しだけでも深まったとしたら、それはイビチャ・オシムとこの本の著書木村元彦氏のおかげである。

    本書は、「サッカーを通じて世界を観る」という言葉がピッタリのレポートだ。
    著者は、紛争の中心地である旧ユーゴスラビア各地でサッカーとサッカー選手を取材して回る。
    憎悪が蔓延しているこの地域で、縁もゆかりもない日本人フリーライターが、場違いにもサッカーのインタビューをして歩こうというのだから、非常に馬鹿馬鹿しいシチュエーションというか、聞かれた方がビックリするだろうし、まかり間違えば相手を怒らせて殺されかねないだろう。実際著者はコソボの武装組織に銃口をつきつけられ地べたに這わされるという目にあっている。

    ではこれは無責任な傍観者のレポートなのだろうか。
    本人は真剣のつもりでも現地人にとってはた迷惑でしかない、一人よがりのジャーナリストによる勘違いレポートなのだろうか。

    そうではない。ここでは、人々の生活の中に息づいているサッカーというポーツを通すことによって、戦争という異常な現象が生活の中にどう入り込んでいるのか、その姿をまざまさと浮かび上がらせている。戦争というものを知らないわれわれにも、サッカーという共通言語を通して、その過酷さと無慈悲さを知らしめる。国際政治の中の大言壮語ではなく、生活のレベルで、戦争のもたらす悲惨な風景を浮かび上がらせている。それは、著者のまっとうな視線と筆力のおかげであるが、サッカーという国際的でありかつ個人に親密なスポーツが持つ力のおかげでもあるだろう。

    その中で、著者はセルビアが負う悪名の不当性と、クロアチアやNATOの悪辣さ――まあ、どっちもどっちといったところなんだろうが――を、遠慮がちに訴えている。その誠実さと公平性は信頼に足るものだ。

    この本を読むことによって、われわれは、しらずしらずに染まっていた一方的なプロパガンタから逃れることができる。もちろんそのことによって私が何かができるというわけではない。けれども、そのことだけでも大きいことである。本書を読んだわれわれはもうストイコビッチに対して、あるいはセルビア人に対して、間違っても「この怪物め!」というような無知に基づく愚劣な言葉は吐かないだろう。日本の中で、そしてサッカーファンの中で、セルビア対する不当な偏見を中和するために果たした本書の役割はきわめて大きいと思う。

    もしわが国が他の国々に較べてセルビア人に対する偏見が少しだけでも少ない国であるとしたら、それはおそらくこの著者のおかげだろう。私は本気でそう思う。

    それにしても、こういうもろもろの苦しい事柄の中でも人は生きていかなければならない。
    力づけてくれるものの一つとして、サッカーがあるのだろう。
    サッカーをめぐる喜びと悲しみが、その役割を果たしているのだろう。

    いや、そこまで断定したらいいすぎか。
    サッカーにそんなものを求めてはいけないのかもしれない。

    しかし、求めてはいけない、というきまりはないのも確かだ。

    私自身は、そこまでサッカーに求めてはいない。
    が、もちろん、そうであることを否定はしない。

    それが幸せであるかどうか、それはまた別の問題としてある…

    むむむ。
    なにを言いのかわからなくなってきた。

    ですから、これで終わりにしておきます。

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    2017年11月18日
  • 誇り ドラガン・ストイコビッチの軌跡

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    「ストイコビッチ戦記」というサブタイトルが思い浮んだ。

    ストイコビッチがベンゲル監督の名古屋グランパスで活躍していたころは、現在ほどJリーグを見ていなかった。
    博多の森にも来ていたんだろうな。彼を見逃すとは、なんて惜しいことをしたものだ。

    われわれがピッチ上のサッカー選手を見るとき、そこで動いているのはわれわれの操り人形ではなくて、一人の人間であるということ、われわれと同じ感情と個々の歴史を背負った一人の人間であるということ、そのことをついつい忘れてしまってはいないか。

    私は試合に敗れて怒るが、彼は怒らないかのように。
    私は傷つくが、彼は傷つかないかのように。
    これだけわれわれから応援されて、しかも大金を貰っているのだから、批判され罵倒され屈辱されるのが当然であるかのように。

    ストイコビッチの背景を知ってしまうと、はたと立ち止まってしまう。
    応援するわれわれに応えて素晴らしいプレーを見せる選手がいて、そして、われわれはいったい何者なんだろうかと。

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    2017年11月18日
  • 橋を架ける者たち――在日サッカー選手の群像

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    ★個人と民族と国家をまたぐのがまさにスポーツ★以前から疑問だったのは、資本主義の日本で育った選手が北朝鮮代表に入って、チームメイトとどのように交流するのかだった。本書はこの点にはあまり触れていないが、個人の責任とは全く異なる理由で苦境に置かれた選手たちとそれを支えた市政の熱い環境(Tリーグ)、そして離散者とマイノリティーのW杯であるCONIFAのルポは予想を超えたところで興味深かった。特にCONIFAは、参加チームを尊重するがナショナリズムの発揚は拒むところにスポーツの素晴らしさがある。

    サッカーを通して民族と国家の狭間を描けるのは、著者ならではの分野だ。

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    2017年04月26日
  • 橋を架ける者たち――在日サッカー選手の群像

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     これまでも、何人かの筆者が、このテーマに取り組んでいる。最初期よりも、選手の活躍の場は広がっている しかし、いつまで経っても、日本社会の偏見は消えないのか。
     WBCを見ていると、パスポートに拘るが故に、野球自体は各国に広がってはいないが、それをプレーする者達は、ずいぶんと多様性を持っていることを学んだ。また、ラグビーのように協会主義を取ることによって、より豊かな代表チームが編成できることもある。
     

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    2017年04月10日
  • 爆走社長の天国と地獄 ~大分トリニータv.s.溝畑宏~(小学館新書)

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    官僚が地方の自治体にやってきて、その間、好き勝手にふるまって、多額の負債を残して国に帰っていった。残された人たちには怒りしかない。さて、なぜこのようなことが起こったのか。
    …という本かと思ってました。
    木村さんのように事実をきちんと調べて伝えてくれる人がいる限り、中途半端な情報をうのみにするのはやめようと思います。

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    2017年08月28日
  • 橋を架ける者たち――在日サッカー選手の群像

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    サッカー選手として成功して、サポーターから愛されて、国籍なんてどこでもいいじゃない、なんて軽く考えていた自分を反省。何もわかっていなかったけど、この本を読んで少しわかってきたことがある。もっと知らなければいけないことがたくさんあるな。

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    2017年02月27日
  • 終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ

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    現場からの取材から伝わってくる民族紛争の悲惨さ、やるせなさが痛々しい。冒頭は読み続けるのも辛い事実が続く、恨みの連鎖には言葉がない。

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    2016年02月20日
  • オシムの言葉

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    ノンフィクション本。ミズノスポーツライター賞の最優秀作品を取ってるらしい。
    読んだきっかけは施川ユウキ先生の『ド嬢曰く』で紹介されていたからなんやけど。。

    面白かったです。凄かった、という表現の方がしっくり来るかもしれない。

    オシム元監督について述べる時、どうやらサラエボの内戦などの世界情勢と切り離せないようなのですが、そういった歴史や世界各国に散らばっている関係者への取材を含め、圧倒的な情報量に驚かされます。
    これらの背景を踏まえるがゆえに、オシムのインタビューや会見の問答にもより一層の深みが増しています。
    単純に意味深な言葉を面白がるのではなく、それらを通してオシムの人生を描き出したい、という筆者の思いが伝わってきました。

    登場人物の名前がややこしいこともあってか、とっ散らかってちょっと読み難い文章だったようにも感じる点はありましたけど、とにかく「オシムすげー、カッケー」「サッカーやっぱりおもしれー」と素直に思わせてくれる良書でした。

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    2015年09月11日